南海トラフ地震でトヨタ崩壊か

テクノロジー・業界分析,批評


地震対策で別のリスク発生も

熊本地震では産業インフラも大きな被害を受けました。トヨタも熊本にある系列メーカーの工場が被災し、部品供給に支障が出たため、全国の工場が操業停止に追い込まれています。

この操業停止によってトヨタの4-6月期営業利益は、最大300億円程度下ブレするのではないかとアナリストは試算しています。

系列の工場が停まっただけで、トヨタ全体が停まる……。ではトヨタのお膝元が被災した場合は、一体どうなってしまうのでしょうか?

トップ画像: By Katorisi (投稿者自身による作品) [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons


目次

  1. 愛知県内の主要なトヨタ系列工場
  2. 南海トラフ地震の被害予測
  3. リスク分散は空洞化リスク

愛知県内の主要なトヨタ系列工場

トヨタグループの中核企業は13社ありますが、そのうちメーカーは10社です。その10社が愛知県内に有する製造拠点を調べ、地図上にプロットしました。営業所や物流拠点、研究開発拠点などは含まれていません。また、関係会社も含まれていません。


名古屋市を除く愛知県のほぼ全域に、トヨタ系列の工場があるのがわかります。とくに豊田市周辺は、街に工場があるというより、工場の間に街がある感じです。

関係会社も愛知県内に集中

トヨタグループの主要メーカーも、それぞれに子会社(議決権50%以上所有)や関連会社(議決権20%以上所有)を抱えています。そしてそれら関係会社(子会社と関係会社の総称)も、親会社と同じく愛知県内に集中しているのです。

アイシン精機やデンソーなどのトヨタグループ主要メーカー10社の関係会社のうち、実に139社が愛知県内に立地しています。

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南海トラフ地震の被害予測


愛知県東部の津波浸水予測図。名古屋市南部や海部郡、弥富市の被害が大きい。


愛知県西部の津波浸水予測図。海岸沿いだけでなく、河川沿いにも被害が。

愛知県の南海トラフ地震被害予測調査結果から、愛知県内で想定されるインフラ被害をまとめてみました。

地震の想定モデルは、1700年の宝永地震(M8.6)や、1854年の安政東海地震(M8.4)など、かつて南海トラフを震源域として発生した5つの地震を参考にしたモデルだそうです。

水道

上水道は、地震直後こそ給水人口の9割が断水すると考えられていますが、浄水場の津波被害はほとんど発生しないため、1週間程度で復旧すると予想されます。

ただし愛知県西部の液状化しやすい地域においては、上水道の95%が復旧するまでに2週間かかるとの予測です。

下水道は、下水処理場が津波被害を受けると予想される名古屋市、豊橋市、津島市、常滑市、田原市などでは、復旧までに3〜6週間かかるとみられています。それ以外の地域では、95%が復旧するまで1週間ですむそうです。

電力

被災直後は9割が停電しますが、およそ1週間で95%が復旧すると見込まれています。ですが津波被害を受けた地域に関しては、停電が長期化する恐れがあると指摘されています

都市ガス

95%の復旧に2週間を要するとの予想です。ただし著しい被害を受けた需要家(個人・法人)に関しては、復旧までに4週間かかる可能性もあるそうです。

鉄道


紫色の部分は、津波で浸水すると予想される範囲。

震度6弱以上の地震が愛知県を襲った場合、鉄道の復旧には1週間〜1ヶ月程度かかるとみられています。

東日本大震災の際は、20日間で在来線の60%が復旧しました。しかし津波被害のひどかった路線は、5年が経過した今でも復旧していません。

道路

以下の被害予測マップに記されている道路網は、緊急輸送道路です。高速道路や一般国道と、それらを連絡する幹線道路、そして防災拠点をつなぐ道路のことで、まさに都市の命綱です


青=被害なし, 緑=被害軽微, オレンジ=通行不可, 赤=橋の崩壊、湛水

被害なしのランクC(青線)は、わずかな区間しかありません。大半の緊急輸送道路でランクA(オレンジ線)以上の被害が発生し、道路の亀裂や倒壊した建物等で、通行に支障が出るとの予測です。

港湾

日本経済を支える輸出に、港湾はかかせません。トヨタのお膝元ともなれば尚の事ですが、南海トラフ地震が発生すれば、その港湾も使えなくなってしまいます。


上の地図に■で記された点が港湾、△が漁港です。の港湾は、津波によって機能を喪失するとされています。

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リスク分散は空洞化リスク

愛知県は南海トラフ地震による建物等の資産の被害額(直接的経済被害)を、13.68兆円と予想しています。

また、地震による生産額の低下(間接的経済被害)に関しては3兆円と見積られており、中でも製造業は0.9兆円と、最も大きく生産額が低下する業種と考えられています。

愛知県に集中したツケ

下請けや関係会社が操業を再開しなければ、トヨタは車を作れません。にもかかわらず、トヨタはグループ各社を愛知県に集中させすぎています。サプライチェーンの大部分が一斉に大ダメージを受けてしまう状態です。

下請けの数社が操業停止しただけなら、別の会社から調達可能でしょう。熊本地震に伴う操業停止でも、トヨタはすでに代替調達先の検討に入っているそうです。しかし100社以上が被災したら、そう簡単にはいきません

愛知県内のインフラを復旧させるだけでも最低2週間はかかりそうですから、工場が再開するにはさらに日数を要するはずです。100を越える会社が平常運転に戻るには、1〜2ヶ月かかるのではないでしょうか。

3〜4日の操業停止で300億円も損失が発生するとされています。その10〜20倍の損失にトヨタが耐えられたとしても、被災して体力の弱った下請けは果たして耐えられるかどうか。

もし下請けが耐えきれず経営破綻が相次いだ場合、愛知県内に張り巡らされた網の目のようなサプライチェーンも崩壊します。それはトヨタの競争力に影を落とすことになるでしょう。

また、トヨタが関係会社や下請け会社を支援し立て直したとしても、トヨタが大きな損失を被ることに変わりありません。

今必要なのはリーダーの決断

本来ならばトヨタが主導して下請けや関係会社の工場を分散させるべきですし、その上で同じ部品を複数工場で生産して、部品供給が途切れないようにするべきです。

しかし前者は愛知県の製造業が空洞化するのと同義であり、後者は複数の金型が必要となるのでコストが増大します

結局別のリスクと戦わなければなりませんが、南海トラフ地震が起こる可能性が日に日に高まっている以上、リスク承知で何らかの手を打つ必要があると思います。

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