モータースポーツ ル・マンなど耐久レース

トヨタがル・マンで勝てない理由は「精神主義」

2017/06/20

今年のル・マン24時間レースも、ポルシェの勝利に終わりました。

必勝を期したトヨタでしたが、トラブルとクラッシュで2台が戦線離脱、残った1台も表彰台を逃すなど、まさかの惨敗を喫してしまったのです。

昨年もトヨタはなぜ勝てないのかという記事を書いたのですが、今年のトヨタの戦いぶりを見ていて「もしかしたらトヨタは精神主義に陥っているのでは?」と感じたので、新たに書くことにしました。

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万全な体制でル・マンに臨んだ2018年のトヨタ

今年のトヨタは、1999年以来の3台体制でル・マンに臨みました。
3台のマシンを用意するだけでも大変ですが、それをテストし、輸送し、メンテナンスして走らせる人員と機材を確保するわけですから、当然のことながら昨年よりもお金がかかっています。

ル・マン以外は2台エントリーだったものの、WECの開幕戦シルバーストン、第2戦スパ・フランコルシャンと連勝し、トヨタはポルシェに対して優位に立った状態で、第3戦ル・マンへと乗り込みました。

つまり今年は、筆者が昨年指摘したような不十分な体制で臨んだわけではなかったのですが、それでもやはり勝てなかったのです。

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トヨタの問題点

昨年は優勝目前まで行ったトヨタGAZOOレーシングでしたが、今年は2台がトラブルで早々にリタイア、残った1台も9位どまりと、ハッキリ言って惨敗でした。
なぜ今年も負けてしまったのでしょうか? 考えられる問題点をまとめてみました。

問題点① 開発方針の曖昧さ

今年のトヨタは、なぜか速さにこだわりを見せていました
TOYOTA GAZOO Racing Companyのエグゼクティブアドバイザーである嵯峨宏英氏は、スパで優勝したあとのインタビューにおいてこう語っています。

レースを通して問題はありませんでした。戦略も計画通りに進められました。最後のピットストップで我々がポルシェの前に出られるのは分かっていました。もちろん、色々ピンチの場面も出て来るのですが、開幕戦シルバーストンもここも作戦通りでした。最終的には速いクルマが勝つという信念でやっていますから

スパではともかく、ル・マンでも「最終的に速い車が勝つ」のでしょうか?
そこで1998年以降20年間のポール・ポジション(PP)と優勝車両を調べてみました。
優勝車両の()内は予選順位です。

PP優勝
1998#35 メルセデス#26 ポルシェ(5)
1999#1 トヨタ#15 BMW(6)
2000#9 アウディ#8 アウディ(2)
2001#2 アウディ#1 アウディ(2)
2002#2 アウディ#1 アウディ(2)
2003#7 ベントレー#7 ベントレー(1)
2004#88 アウディ#5 アウディ(4)
2005#16 ペスカロロ#3 アウディ(8)
2006#7 アウディ#8 アウディ(2)
2007#8 プジョー#1 アウディ(4)
2008#8 プジョー#2 アウディ(4)
2009#8 プジョー#9 プジョー(5)
2010#3 プジョー#9 アウディ(5)
2011#2 アウディ#2 アウディ(1)
2012#1 アウディ#1 アウディ(1)
2013#2 アウディ#2 アウディ(1)
2014#7 トヨタ#2 アウディ(6)
2015#18 ポルシェ#19 ポルシェ(3)
2016#2 ポルシェ#2 ポルシェ(1)
2017#7 トヨタ#2 ポルシェ(4)

ここ20年間で、ポール・ポジションのマシンが優勝したのは5回のみ。
アウディの無敵時代が長かったにも関わらず、ポール・トゥ・ウィンは意外と少ないのです。
ル・マン24時間レースにおいては、最終的には速い車が勝つとは言えないことを、データは示しています。
4回に3回は、速くない方の車が勝っているのですから。

2016年のル・マンでは、トヨタは最速の車ではありませんでしたが、燃費の良さを活かして優勝目前までいきました。
今年なんて壊れさえしなければ勝てたのに、なぜか信頼性ではなくスピードを追求したのは、曖昧な開発方針ゆえだと思います。

問題点② ドライバー選考に問題あり

速さを追求してしまったマシン開発だけでなく、ドライバー選考にもなぜかその傾向が見られました。

たとえばニコラ・ラピエールは、やらかし癖があることで知られています。
前述の嵯峨氏の言葉を再び引用しましょう。

(スパの決勝で)9号車は途中からちょっと減速しましたね。(ニコラ・)ラピエールは速いんですが、減速の理由はわかりません。彼には、かつてのル・マンの件(注・2014年のル・マンでクラッシュ)があるので、絶対にぶつけるなということは言ってありました。スタートの第1コーナーでポルシェの内側に飛び込んで、結局止まりきれずに真っ直ぐ飛び出しましたが、行けると思ったんでしょうね。彼は運転席に座るとスイッチが入ってしまうタイプですので。

ここまでわかっているのに、なぜ彼を再び起用したのでしょうか?
8号車がピットで長い修復作業に入り、7号車がトラブルでストップした後、優勝を狙える位置にいたのはラピエールのドライブする9号車だけでしたが、彼はLMP2と接触し、残された希望も潰えてしまいました。

問題点③ ピット作業の遅さ

8号車はフロントモーターにトラブルが出て緊急ピットインしたあと、ガレージにて実に3時間以上も修復作業を行っていました。

一方、優勝したポルシェ2号車もレース序盤に修復作業を強いられたものの、こちらは1時間でレースに復帰しています。

両者のトラブルは同じものではありませんから、単純な比較はできません
しかしトヨタのドライバーであるセバスチャン・ブエミは、シルバーストン戦後に「トヨタはピット作業が遅い」と指摘しており、ピットクルーの質でポルシェに劣っていた可能性が高いです。

また、前述の嵯峨氏から「うちはあと2台用意してますので、8号車はじっくり直す指示を出しています」という命令が出ていたとの情報もあります。
1秒どころか0.1秒を争っているレースにおいて、じっくり直すなどという指示は言語道断です。

問題点④ あやふやな責任

2015年、トヨタはWECにおいて1勝も上げられませんでした。
2016年も富士の1勝のみであり、ワークスチームとして不甲斐ない成績が2年続いていたのですが、TOYOTA GAZOO RacingやTMG首脳陣が、何らかの形で責任を取った(例えば降格や減給など)という話は聞きません。

成績と人事・報酬が連動していなければ、真面目に努力しなくなりますし、慢心も生じやすくなります
たとえばTMGのテクニカル・ディレクターであるパスカル・バセロンは、F1の時代から大した結果を残しているわけでもないのに、なぜか現在も要職に就いています。

トヨタのドライバーとしてF1を戦ったこともあるヤルノ・トゥルーリは、バセロンのことをこう評しています。

技術陣営の上層部には(パスカル・)バセロンが起用され、彼が技術的な決定を下していた。だが彼はタイヤ屋だ。クレバーでインテリジェントな男だが、その役職にふさわしくはなかった。

日本的な雇用慣行では基本的には年功序列なので、成績に応じて地位や報酬が変動するということは珍しいですが、F1やサッカーなどではそれが普通です。
そうでなければガバナンスが機能しませんし、有能な人材が流出してしまいます。

責任者は責任を取るためにいます。
責任を取らなければならないからこそ、自らが受け持つ部署の管理・指導を徹底しようとする動機付けになるわけです。
目標未達でも責任を取らなくて良いのなら、管理も指導もいいかげんになるでしょう。

ちなみに「運が悪かっただけ」とか、「悲劇」「悪夢」といった言葉で、結果を出せなかったことを擁護するのは間違いです。

チャーリー・マンガーという人物がいます。
彼は世界一有名な投資家であるウォーレン・バフェットのビジネス・パートナーなのですが、彼が講演で興味深いことを話していました。

道徳規範をうまく機能させるには、不公平であっても是とすべきときがあります。

現実社会ではほとんどの場合そのような結果になっていますが、これがつねに理解されているわけではありません。

完璧な公平を希求することは、システムが機能する上で数々のひどい問題を引き起こします。
個人に対して意図的に不公平とするのが然るべきシステムもあります
というのは、全体としてみれば概していっそう公平になるからです。
つまり明らかに不公平であるものにも、美徳が含まれ得るのです

何度も取りあげている事例ですが、アメリカ海軍では船を座礁させた艦長は自分に過失がなくてもそこで経歴はおしまいとなります。すべての艦長が座礁させまいと日夜精勤するようになれば、過失のない一個人に対する正義が欠けていたとしても、全員に対して大きな正義を貫くよりずっと有意義だからです
全体にわたる大きな公平を得るために一部の者が小さな不公平を忍従するやりかたは、みなさんにお勧めしたいモデルです。

チャーリー・マンガー「経済学の強みとあやまち」

モータースポーツにおいて、マシントラブルで勝利を逃すと、どうしても「運が悪かった」「次は勝てる」と思いがちになります。
しかしマンガー氏の指摘のとおり、それに対してきちんと個々人の責任を取らせた方が、個人には不公平であっても、組織全体の規律を引き締めることにつながり、結果的に組織に有意義な結果をもたらすのです。

TS050のパワーユニット開発総責任者である村田久武氏は、トラブルが起こる度に「テストでは起こらなかった」とコメントしていると、ツイッターでも指摘されていました。
その村田氏は、ル・マン前にこのように語っていたのです。

「やってきてはいるけれども、去年のトラブルもそうですよね。僕たちの去年のレベルだったら、やってきているつもりだった。やったつもりだけど、そこが抜けていたことは事実です。自分達の意識のレベルで本当にやったのか、本当にやりきったのかという合言葉でずっとやってきていると、やっぱり見るポイントが上がっていくんですよね。そうするとなんぼでも粗が見えるんですよ。粗が見えたら潰さなくてはならなくて、それをひたすら繰り返しているんです」

彼の言を借りれば、今年の敗戦は「見るポイントが低かった」ということになりますが、それは「今年こそ勝てそう」という、油断が生んだものなのではないでしょうか。

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トヨタを敗北に導いた「精神主義」

上述した4つの問題点を生み出した根本原因を、筆者は「精神主義」だと考えています。

せいしん‐しゅぎ【精神主義】

  1. 物質的なものよりも精神的なものに優位性を認める立場。
  2. 精神力を集中的に駆使すれば、物質的諸事象を統御できるとする考え方。精神論。

コトバンク デジタル大辞典 | 精神主義とは

精神主義が遠ざけてしまう「合理性」

トヨタ抱える問題の発生原因は、敗北を「悲劇」や「悪夢」と捉え、「運が悪かっただけ」「本気でやれば負けない」「次こそ勝てる」と、問題から目を背け、精神論に逃げてしまう体質にあるのだと思います。

精神論に逃げている限り、合理的な考え方は身につきません。
昨年も書きましたが、ゴール直前のマシンは耐久性の限界にもっとも近い状態なので、壊れたのは悲劇でもなんでもなく、単に耐久性が足りていなかっただけなのです。

豊田章男社長が、ル・マン後に出したメッセージの中で「思いっきり走らせてあげられなくてゴメン…。」とありましたが、裏を返せば「思いっきり走れれば勝てる」ということが前提になっています。
しかし思いっきり走ることが正しいかどうかは、状況次第です。
少なくともラピエールは、思いっきり走るべきではありませんでした。

  

「ニコが現場に差し掛かった時、ピットから出ようとするクルマがいて、後方からもLMP2が来ていた。ニコはピットアウトするクルマに気付いてやや減速して走行ラインを左に取ったが、その時左後方から迫って来るLMP2にまで注意が届かなかった。後方にいるLMP2に気づいていれば、というか後方にも気を配るのが当然で、走行ラインを変えるべきではなかった」

  

トム・クリステンセン(ル・マン24時間レースで9勝した伝説的ドライバー)

マネジメントの不足

精神論の蔓延を示す証拠として、マネジメントの不足があります。
村田氏がシルバーストンの予選後に発したコメントを引用します。

「お互いに情報の共有はしているのですが、レースエンジニアのプライドというものがあって、7・8号車で微妙に性格が違うんです」

「ドライバーの好みというのもあるけど、やっぱりレースエンジニアのプライドじゃないでしょうか。ドライバーとレースエンジニアはお互いのプライドにかけてずっと話し合いをやっているです」

「みんな”押せ押せ”の集団なので。終わったあと、ドライバー全員が全部チャートを見直していました。『なんであいつの方が速いんだ』って言い合って、『あーここか』と反省したりして」

車の性格は、本来ならば合理的かつ戦略的に決定されるものだと思います。
たとえば3台体制になったのに、3台全てを速さ重視で走らせる必要はありませんでした。
1台は速さ、もう1台は安定性を重視し、3台目は「ちょっと遅いけど信頼性の高いパーツのみで構成した保険仕様」でも良かったわけです。

でも「プライド」だとか「押せ押せ」などといった精神論に重きが置かれ、戦略的なラインナップにはなっていなかったのです。
ちなみに村田氏は開発者なので、そういったマネジメントをやる立場ではなく、したがって彼の責任ではありません。

精神主義は抗不安薬

「こうあるべきだ」と強く思い込むことで、不安からは逃れられます。
しかし、問題は解決されず先送りにされるのです。

また、「こうあるべきだ」という考え方は、組織から多様性を奪いますが、似通った人間の集まりは心地よく快適なため、変革への抵抗はますます強まります。

抗不安薬の依存症に

「結局は速い車が勝つ」という考えは、不安から逃れるための思い込みでしょう。

問題のあるドライバーを雇うのも「ちゃんと走れば速いから」という、希望的観測にすぎません。

ピット作業の遅さは、なぜ改善されないまま5年間も過ぎてしまったのでしょうか。
批判や人員の入れ替えが行われてこなかったとしか思えません。

そしてこれまでの敗北の責任は、一体誰が取ったのでしょう?
「次こそ勝てる」という精神論がまかり通っていたからこそ、誰も責任を取らずにここまで来てしまったのでは?
「次こそ勝てる」は、「俺たちは運が悪かっただけ」と同義なのではないでしょうか。

精神主義という抗不安薬は、依存症を引き起こすのです。
「こうすれば勝てる」「次こそ勝てる」と言うからには、何らかの科学的根拠が必要ですが、トヨタの場合はデータに裏付けられたものではなく、単なる思い込みです。
データを重視しているなら、「結局は速い車が勝つ」とは言いませんし、問題のあるドライバーも雇いませんし、ピットの遅さもとうに改善されているはずなのです。

結果主義の徹底を

「運が悪かった」は言い訳にはなりません。
それが言い訳になるなら、勝ったところで「運が良かっただけ」という話になります

結果を出せなければ、問答無用で責任を問うべきです。
また、結果を出したならば、所属年数に関係なく出世させ、報酬を引き上げなければなりません。

そうでなければ誰も責任を取らず、やる気も出さず、有能な人間だけが引き抜かれていくという組織になりますし、もうそうなっている可能性すらあります。
少なくとも、スポーツの現場に居心地のいいぬるま湯は不要です。
F1だろうとサッカーだろうと、そういうチームが成功するのを見たことがありません。
過剰な圧力は不要ですが、結果主義は徹底すべきでしょう。

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最後まで読んでいただきありがとうございます。以下の関連記事もぜひご覧下さい。

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Category: モータースポーツ, ル・マンなど耐久レース
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