2016年WRC ドライバーとマシンのラインナップ&評価

WRC,モータースポーツ

開幕時にドライバーラインナップ紹介のために作ったこのページですが、第9戦終了時点までのドライバーやマシンに関する評価も追加することにしました。


フォルクスワーゲン

画像の出典: dailymail.co.uk

VWのドライバー

昨年3連覇を成し遂げたVWのラインナップは基本的に変わらず。王者セバスチャン・オジェを中心に、ヤリ-マティ・ラトバラアンドレアス・ミケルセンが脇を固める万全の体制です。

以下は独断と偏見に基づく、各ドライバーの第9戦終了時点までの評価です。ポイントやランキングも第9戦までのものとなります。

セバスチャン・オジェ(Rank.1, 169pts.)

モンテカルロ、スウェーデンと連勝し、今年も選手権を圧倒するかに見えたオジェでしたが、グラベルラリーではランキングトップのオジェが先頭スタートとなるため、ダストの掃除役となり力を発揮できず。それでも第6戦のイタリア・サルディーニャラリーまで6連続表彰台を記録するなど、流石の安定感で首位を堅持。

その後ポーランドで6位、フィンランドでは低速コーナーで溝にハマり出られずデイリタイア(再スタートして24位フィニッシュ)するなど精彩を欠いたものの、先頭スタートが不利にならないターマック(舗装路)ラリーのドイツでは復活の優勝! チャンピオンの大本命であることを証明してくれました。

第11戦フランス・ツール・ド・コルスはフルターマックですから先頭スタートでも不利はありませんし、オジェにとっては母国でのラリーです。ここで優勝すればタイトルにぐっと近づくことでしょう。

アンドレアス・ミケルセン(Rank.2, 110pts.)

成長著しいミケルセンは、開幕戦モンテカルロでオジェに続く2位。昨シーズンからの好調を持続しているかに思われましたが、スウェーデンでは立木に接触、メキシコではコースオフと、序盤戦で躓いてしまいます。

しかしアルゼンチンで3位表彰台を獲得すると、続くポルトガルではオジェに競り勝って2位の座を奪取。復調の兆しかと思われましたが、イタリアでは痛恨のノーポイント。波に乗れません。

ところが次のポーランドで、オットー・タナクとの大バトルを制し優勝! かと思えばフィンランドでは7位に沈み、ドイツでは初日トップだったのに結局4位止まりと、調子が良いのか悪いのかわからないシーズンを送っています。

スピードは一級品ですし、あとは1シーズンを通しての安定感さえ身につければ、タイトルを取れる逸材だと思うのですが……オジェとのポイント差からすると、今シーズンの戴冠は難しそうです。

ヤリ-マティ・ラトバラ(Rank.5, 89pts.)

ラトバラはやらかし癖さえなければ……とデビューイヤーから散々言われている気がしますが、そのやらかし癖は相変わらず治ってません

モンテカルロではコースオフから復帰の際に観客と接触、執行猶予付きの出場停止処分を食らってしまいます。幸先が悪いなあと思っていたら、スウェーデンではSS1でジャンプした際にドライブシャフトを破損し、26位フィニッシュ。

でもグラベルでのスピードはやはり素晴らしく、メキシコでは後方スタートの利を活かし見事優勝! 続くアルゼンチンでもヘイデン・パッドン(ヒュンダイ)と優勝争いを繰り広げます。しかし連勝かと思われた矢先に、サスペンションが壊れて6回転もする大クラッシュを演じ、優勝のチャンスをふいにしてしまいました。

その後はポルトガルではパワステトラブルを乗り越えて6位、イタリア2位、ポーランド5位、フィンランド2位と、着実にポイントを重ねるもの優勝はできず。ドイツではSS1でギアボックストラブルが発生し大きく遅れ、48位に終わっています。

ラトバラはグラベルでは最速のドライバーですが、ヘイデン・パッドンやオットー・タナクといった若手がその座を脅かしています。かといって総合力では、オジェやクリス・ミークに勝てません。ラトバラがタイトルを取るのは難しいでしょう。

VW ポロ R WRC

来季から新レギュレーションに切り替わるため、今季投入されるポロR WRCは新型ではなく、昨年の改良型となります。

とはいえ完成され尽くしたポロR WRCの戦闘力は突出しており、マシン性能の面で不安はありません。コーナーの立ち上がりでも、WRカーの中でもっともトラクションのかかりが良さそうに見えます。

また、2017年からの新レギュレーションに合わせたマシンの開発も順調に進んでいるようです。テストを担当しているのは2度WRCチャンピオンに輝いたマーカス・グロンホルム! 来季参戦するトヨタがVWを打ち破るのは、並大抵のことではなさそうです。

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ヒュンダイ

画像の出典: wrc.com

ヒュンダイのドライバー

エース格と目されていたティエリー・ヌービルが昨季絶不調だったため、相対的にダニ・ソルドヘイデン・パッドンの存在感が増したヒュンダイ。チーム側は3名のドライバーに序列を設けない方針のようですが、ヌービルにはそれが不服な様子。

21年前のスバルチームでの内紛(カルロス・サインツとコリン・マクレーが対立)を思い出しますが、あのときみたいな表立った対立は今のところ見られませんが、ヌービルは来季の移籍が濃厚です。移籍先はシトロエン、もしくはトヨタと見られています。

ティエリー・ヌービル(Rank.4, 94pts.)

2年前のドイツラリーで自身とヒュンダイにとってのWRC初優勝を挙げたとき、誰もが彼を「ヒュンダイのエース」と見なしていたはずです。

しかし今ではパッドンとのエース争いに「敗れた」という見方が大勢を占めています。パッドンはグラベルでは最速クラス、ターマックでもそこそこやれるドライバーです。しかしヌービルはターマックで最速クラスでも、グラベルはイマイチです。

ヌービルは第6戦のイタリア・サルディーニャのグラベルラリーで優勝していますが、サルディーニャはダスティーで浮き砂利も多く、後方スタートが圧倒的に有利なコース。選手権ポイントで下位に沈んでいた彼は後方スタートだったので、実力で優勝したとは言い難いです。

フィンランドではパッドンに先着し意地を見せたものの、得意のターマックであるドイツラリーでは、ベテランのダニ・ソルドに先行され形無しに。移籍もやむなしの状況に追い込まれています。

ヘイデン・パッドン(Rank3, 94pts.)

今年一気に躍進したのがパッドンです。アルゼンチンでキャリア初優勝を飾り、選手権3位につけています。

パッドンはグラベルではオジェやミークに匹敵するドライバーだと思いますが、経験不足からかミスが多いです。スウェーデンでは2位に入ったものの、木製のポールにぶつかりラジエターを破損していますし、ポルトガルではコースアウトして崖下に25mも転落しています。

それでもポーランド以降はラリーをまとめ、3位、5位、5位と、安定した成績を残しています。とくにオールターマックのドイツラリーで5位に入ったことは特筆すべきでしょう。グラベル・ターマック両対応のドライバーになれるポテンシャルを証明したといえます。

ダニ・ソルド(Rank.6, 86pts.)

すっかりターマックおじさんと化しているソルド。グラベルラリーではそこそこですが、補強要員として重宝がられています。

そんなソルドですが、今季はグラベルでもコンスタントにポイントを獲得。第3〜6戦までのグラベル4連戦で全て4位フィニッシュするなど、ベテランらしい安定感を発揮しています。

フィンランド前のテストで脊椎骨折の重傷を負うものの、復帰戦のドイツでは2位表彰台を獲得。ターマック要員としては十分な働きぶりですから、ヒュンダイ側も「これならヌービルいなくても大丈夫そう」と思ったのか、ソルドとの契約を2018年まで延長しました。

ヒュンダイ i20 WRC

来季から新レギュレーションに切り替わるというのに、ヒュンダイは完全な新型車を投入してきました。「金持ってるな」と感心はしますが、「そんなことして意味があるの?」と首をかしげざるを得ません。今年取ったデータは、来年には使えないわけですから

おそらく他社が新型車を投入してこないことを見越し、間隙をついて勝つ気だったのでしょうが、マシン的にはポロやDS3よりも完成度が低く見えます。コーナーの進入ではアンダーステア、旋回中にはオーバーステアというように、両極端な挙動です。おそらくフロントヘビーなんじゃないかと。グリップも不足しているようです。

今年新型マシンを投入したことで、2017年仕様のマシン開発に支障が出るのは確実でしょう。今季フル参戦していないシトロエンですら、「新車開発のスケジュールがタイトだ」と、悲鳴を上げているくらいですから。

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シトロエン


画像の出典: wrc.com

シトロエンのドライバー

シトロエンはフルエントリーしていないので、ドライバーランキングは下位に沈んでいます。

クリス・ミーク(Rank.9, 51pts.)

苦労人のクリス・ミークは、昨年のアルゼンチンでWRC初優勝を飾ったことで、一皮むけた感があります。安定した速さを見せるようになり、今や完全にシトロエンのエースです。

今季はここまで4戦のみの出場となっていますが、ポルトガルとフィンランドで2勝し、少ないチャンスを確実にモノにしています。後方スタートの有利があったのも事実ですが、勝率50%は実力の証でしょう。オジェのライバルとして、来季のWRCを盛り上げてくれるはずです。

ステファン・ルフェーブル(Rank.13, 12pts.)

新人のステファン・ルフェーブルは、開幕戦でいきなり5位入賞。さすがシトロエンの秘蔵っ子だと思っていたのですが、それ以降は鳴かず飛ばず。ドイツではエンジンが粉々になるほどの大クラッシュを喫し、コ・ドライバーのギャビン・モローは左足首を骨折する重傷を負ってしまいました。才能はあると思いますが、いかんせん経験が不足しています。

シトロエン DS3 WRC

今季のシトロエンはマニュファクチャラーとしてはWRCにエントリーしていません。来季のマシン開発に注力するためです。

今季のオペレーションはPHスポールが担当し、セミワークス体制でのエントリーとなります。全戦エントリー義務が無いので、遠方のラリーを回避しているようです。

シトロエンは連覇中のWTCCプログラムを2016年限りで終了し、17年からはWRC一本に絞る決断をしましたクリス・ミークがトヨタの誘いを蹴ったのも、シトロエンのこの決断があったからでしょう。

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Mスポーツ・フォード

画像の出典: motorsport.com

ドライバー

ドライバーラインナップを一新したMスポーツは、マッズ・オストベルグエリック・カミリのコンビとなりました。

マッズ・オストベルグ(Rank.7, 78pts.)

オストベルグの初勝利(2012年ポルトガル)は、ミッコ・ヒルボネンの失格を受けての繰り上がり優勝でした。表彰台には何度も乗っているので実力は確かなのですが、いいところまで行くけど勝ち切れないことが多いイメージです。

今季のオストベルグは、淡々と走って渋くポイントを持って帰る、非常にクレバーなドライビングをしています。スウェーデンとメキシコで2度表彰台に登っていますし、本当にいい仕事をしている印象です。もうちょっと良いマシンに乗せてあげたいですね。

エリック・カミリ(Rank.11, 23pts.)

彼は昨年までTMGのドライバーでした。トヨタのWRCプログラムの主導権がドイツTMGからフィンランドに移りゆく中で、自分のキャリアを悲観してMスポーツに移籍したのかもしれません。

彼にとって初のWRCフル参戦となるシーズンは、クラッシュ、クラッシュ、クラッシュの連続でした。スウェーデン、メキシコ、フィンランド、ドイツで派手な横転クラッシュ、モンテカルロでもコースオフしています。

イタリア・サルディーニャでは初のステージベストを獲得したものの、これだけクラッシュが多いと、来季のシート獲得もままならないでしょう。実家がお金持ちとかなら別ですが。

フォード フィエスタ RS WRC

「フォード」と名前が付いており、マニュファクチャラーエントリーもしているものの、Mスポーツはフォードのワークスチームというわけではなく、フォードからの資金援助を受けているだけのセミワークスチームです。

そのため慢性的な資金難に苦しんでおり、今年の全戦エントリーも開幕直前になってようやく決まったほど。フォードは業績好調なんだから、もうちょっと支援してあげてほしいですね。

フォード・フィエスタ RS WRCの戦闘力も、年々落ちてきているようです。来年トヨタが復帰すればさらに順位を押し下げられるでしょうから、Mスポーツは撤退するかもしれません

マニュファクチャラーエントリーが3チーム以上ないと、規則上世界選手権として成立しないので、今年Mスポーツは撤退「させてもらえなかった」のですが、来季以降は規則上も遠慮なく撤退できる立場となります。MスポーツがWRCから撤退する可能性は、日増しに高まっているのです。

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DMACK

中国のタイヤメーカー・DMACKがエントリーさせているプライベート・チームです。

DMACKのドライバー

オットー・タナク(Rank.8, 52pts.)

今年最大の驚きは、彼の成長ではないでしょうか。ポーランドでは後方スタートで有利だったとはいえ、プライベートのフィエスタで優勝争いを演じたのは見事です。結局2位でしたが、彼のキャリアを切り開くには十分な内容だったといえます。

トヨタと接触しているとの噂ですから、来季は日本に来るかもしれませんね。

フォード フィエスタ RS WRC

プライベート仕様のフィエスタです。Mスポーツのものよりも戦闘力は劣ると思われます。

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トヨタ

参戦するのは来季からですが、トヨタの状況にも触れておきます。

トヨタのドライバー

クリス・ミークにフラレてしまったトヨタは、ヤリ-マティ・ラトバラに接触している模様。けれどフィンランド人ばかりでチームを編成するのは、外部の優秀な人材を招き入れる上で得策とは思えません。

ティエリー・ヌービルの移籍が取り沙汰されているものの、彼の第一志望はおそらくシトロエンでしょう。海の物とも山の物ともつかないトヨタは、ドライバー獲得競争でも後手に回らざるを得ないのです。

トヨタ ヤリスWRC

なぜかTMGからフィンランドに車両の開発が移管されました。TMGが開発したヤリス(日本名ヴィッツ)WRCは放棄され、フィンランド製のヤリスWRCで新たに開発を進めているようです。

TMG製がよほど遅かったのか、それともトミ・マキネンのエゴなのかはわかりませんが、トヨタのWRCプログラムがゴタゴタしていることは確実でしょう。

トミ・マキネン主導の新生トヨタチームでスポーティング・ディレクターを務めるのは、ミッコ・ヒルボネンのコ・ドライバーだったヤルモ・レーティネン。他の重要ポストもフィンランド人が占めており、トミ・マキネンお友達内閣の様相を呈してきています。

テクニカルディレクターを含む3人のスタッフが離脱するなど、順風満帆とはいかないトヨタのWRCプロジェクト。はっきり言って心配です

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