2017年もホンダF1エンジンは失敗作。なぜ繰り返すのか?

F1,モータースポーツ

スペイン・バルセロナのカタロニア・サーキットで行われているF1のオフシーズンテストが終了しました。
今シーズンのF1開幕が間近に迫っているにもかかわらず、ホンダのパワーユニット(PU)は壊れまくっており、まともに走れる状態ではありません

第2期(1983〜1992年)には無敵を誇ったホンダパワーでしたが、第3期(2000〜2008年)にはわずか1勝、そして今期はリタイアの常連と、まったく歯が立たなくなってしまいました。
なぜこんなことになってしまったのか、今回はホンダF1の問題点を検証します。


ホンダのF1活動が上手くいかない理由

戦略的優位性の欠如

参入の遅れ

3期も4期も、新レギュレーションが施行された後に遅れて参入しています
3期のときはエンジンの開発制限に苦しめられ、結局最初の遅れを取り戻すことができぬまま撤退に追い込まれています。

4期においても、2016年までトークンによるPU開発制限が設けられていたため、1年遅れで参入したホンダは3期と同じ轍を踏んでしまいました。

資金力では優位に立てなくなった

ホンダが2期で圧勝できた理由の1つとして、圧倒的な資金力が挙げられます。
当時の日本は好景気だったため、ホンダは100億円とも言われる巨額の開発費を投じていたようです。
ちなみにそのころのウィリアムズチームの年間予算は、約40億円と言われています。
現在のトップチームの年間予算は400〜500億円くらいですから、当時のホンダの資金力が、いかに突出していたかがわかりますね。

しかし90年代後半からF1の予算が高騰し、ホンダといえども資金力で圧倒することはできなくなりました

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技術力で優位に立てなくなった

F1だけでなく、ホンダはモータースポーツ全般で苦戦続きです。
スーパーGTではもう何年もタイトルから遠ざかってますし、スーパーフォーミュラでもトヨタに歯が立ちません。
ライバルの少ないWTCCですら、未だにタイトルが獲れないのが現状です。

市販車の世界でも、ホンダ車のプリクラッシュブレーキの性能だけが他車と比べて異様に低かった(平成28年度前期自動車アセスメント評価)ですし、リコールも頻発しています。
技術力が無いとは言いませんが、優位とも言えないはずです。

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マネジメントの問題

個人的に一番深刻だと思っているのが、ホンダ側のマネジメント能力の問題です。
特にスピード感の無さと、コミュニケーションの不足が目立ちます。

この兆候は第3期のころからすでにあり、ジャック・ヴィルヌーヴから「ホンダはスローな文化」だと批判されていました。

また、第3期のときには風洞の数値に問題があったにもかかわらず、それをチーム内で共有せず、何年も問題を放置していたこともあったほどです。

2017年も最初は調子の良いことを言っていたのですが、テストでのトラブル頻発で追い詰められると、「ベンチテストの段階でさまざまな問題があって、目標としていたパワーに達することができないまま、テストを迎えることになったことは事実です。」と白状しました。

また、ホンダはマクラーレンとの関係がギクシャクしていますし、コンサルタントのジル・シモンも意見の相違から今シーズン前に離脱しています。
社内外に対するコミュニケーションが根本的に不足している状況は、ここ10年ほど変わっていません

スーパーGTでも、ホンダ系チームと研究所の関係の悪さが指摘されています。
大手メディアで取り上げられることはありませんが、ドラゴ・コルセは研究所主体でマシンを走らせるために作られたチームだと専らの噂です。

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ホンダが陥っているのは「グループシンク(集団浅慮)」

ホンダの状況を見ていて筆者の頭に思い浮かんだのは、「グループシンク」という言葉です。

グループシンクを政治分析に活用した社会学者アーヴィング・ジャニスによると、グループシンクの兆候は、以下の3つに分類できるそうです。

自分たちの集団に対する過大評価

資金力の優位や強力なライバルの不在により、第2期に勝ちすぎたホンダは、「自分たちが本気を出せば必ず勝てる」と考えている節があります。
前F1プロジェクトリーダーの大言壮語の数々を思い出してください。

閉鎖性

集団による自己弁護や、外部からの意見を評価しない姿勢のことです。

トラブルが出るたびにホンダ周辺(ジャーナリスト含む)は、「大したトラブルではない」「悪いのはマクラーレン」と繰り返していますね。

また、マクラーレンやコンサルタント、そしてスーパーGTのホンダ系チームとギクシャクしているのは、外部からの意見を評価しない姿勢のためでしょう。

均一性への圧力

自分の意見が集団のコンセンサスから外れないよう自己検閲したり、異議をとなえることに圧力をかけたりすることです。

第3期の風洞問題や今年のベンチテストでの問題を、認識していたにも関わらず黙っていたのは、ホンダ内部で言い出せないような圧力が存在していたためだと思われます。

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ホンダF1はどうすれば成功できるのか?

グループシンクは「強い仲間意識」が裏目に出た結果だと言います。
組織が構造的な問題を抱えているにもかかわらず、仲間意識があるために批判できなくなってしまうのです。
NASAのスペースシャトル・チャレンジャー号の事故や、アメリカ政府がベトナム戦争から撤退する決断を下せなかったのも、グループシンクが原因だと見られています。
大日本帝国が戦争にのめり込んでいった原因も、おそらく同じです。

グループシンクを防ぐためには、批判的な役割を割り振ることや、信頼できる外部の専門家に意見を求め、議論に加わってもらうことが効果的なようです。

つまり「組織の集団凝集性を落とす」のが、グループシンクを防ぐ近道といえます。
集団凝集性とは、構成員を引きつけ、集団の一員であり続けるように動機づける度合いのことです。
団結力と言い換えてもいいでしょう。
過ぎたるは及ばざるが如し。団結力も行き過ぎれば毒になるというわけですね。

参考サイト

Educate.co.jp | 実戦的用語解説 | グループシンク(集団浅慮)

危険物保安技術協会 | グループシンク(pdfファイル)

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