インフィニティQ50(スカイライン)に400PSモデルが追加されるが……。
失ったものは、400psのエンジンでも取り戻せない
インフィニティQ50に、新開発のVR30・V6ツインターボエンジンが搭載されるそうです。
出力は400psと300psの二本立てで、来年からラインナップに加わります。ダイナミック・アダプティブ・ステアリングの改良や、ダイナミック・デジタル・サスペンションの搭載など、シャシー面での充実も図られるようです。
セダンの苦悩
長距離移動の多い北米では相変わらずミドルサイズセダンが販売の主力ですが、その他地域ではセダン不遇の時代となって久しいです。
現在売れているのは、スポーティさや高級感などの付加価値を備えたセダンのみと言えます。
しかし各ブランドがこぞってスポーティさと高級感を前面に押し出した結果、似たようなセダンばかりになってしまいました。
日産=インフィニティも、セダンの差別化に苦心しています。現行V37スカイラインのパワーソースを見れば、それは一目瞭然です。
ハイブリッド、ダウンサイジングターボ、GT-Rエンジン……
当初V37は、ハイブリッドによる低燃費とハイパワーの両立、バイ・ワイヤのダイレクト・アダプティブ・ステアリングがもたらすハンドリングの良さをアピールしていました。スポーツ性を前面に打ち出したわけです。
しかし発売から2か月もしない内から販売が急減し、月販目標台数(200台)を維持することすら危うい状況に陥ります。
ベンツエンジンと引き換えに失ったもの
発売から3か月後、日産はメルセデス・ベンツと共用の2リッター直噴ターボエンジンを追加し、プライスレンジを下方に拡大します。
計画自体は当初からあったのでしょうが、ハイブリッドの販売が好調ならば、顧客の奪い合いを避けるために早期の導入は無かったはずです。
この販売テコ入れは功を奏し、スカイラインの国内販売は、現在も月販目標台数を上回る水準で推移しています。メルセデス・ベンツとの提携は、一定の成果を残したわけです。
しかしこの2リッター直噴ターボは、スポーティなエンジンではありません。必要にして十分なパワーを供給するだけの、ただの実用エンジンです。販売テコ入れのために、V37スカイラインはスポーツ性能を犠牲にしてしまいました。
また、スカイラインを買い支えているオールドファンの目には、ベンツのエンジンを載せたことでスカイラインのブランドに傷がついたと映ったようで、ネット上でも数多くの批判が見られます。
メルセデス・ベンツのブランド力で手っ取り早く販売テコ入れを、と日産は考えたのかもしれませんが、わずかな販売台数増と引き換えに、スカイラインは個性や誇りを喪失してしまったように思えてなりません。
Q50 オールージュ
V37スカイラインのハイブリッド・4WD車には、GT-Rと同じくアテーサE-TSが搭載されています。「Q50 オールージュ」はそれに飽き足らず、エンジンもGT-Rと同じにしようというコンセプトで企画されました。企画倒れに終わりましたが。
日産には、きちんとクルマに向き合って欲しい
エンジンは車のキャラクターを決める重要な要素ですが、エンジンだけで車が変わるわけではありません。搭載するエンジンに合わせて、シャシーから作りこんでいくのが理想です。
さらに言えば、車の歴史をデザインやエンジニアリングに落とし込まなければなりません。受け継がれてきた歴史が車を通じて表現されなければ、ブランド力が高まることはないでしょう。
Q50に400psのエンジンが搭載されること自体は、選択肢が増えるので良いことです。しかしエンジンだけを載せ替えて差別化しようという発想は、ベンツのエンジンを載せたときと何も変わっていません。
日産がそのやり方を改めない限り、Q50=スカイラインが400psになったとしても、名車と呼ばれることはないでしょう。スカイラインの遺産を食いつぶしていくだけです。