au トムス RC Fの誕生を素直によろこべない理由

SUPER GT,モータースポーツ


本当の意味での「スポンサー」ではない

なかなか発表されずファンをヤキモキさせていた#36トムスのスポンサーが「au」だと判明しました。「au」は2004年のセルモ以来、12年ぶりの復帰となります。

KONDO Racingのスポンサーとなったフォーラムエンジニアリングに続き、大企業のSUPER GT参入が相次いでいます。一見すると日本のレース界に活気が戻ってきたかのように思えますが、実態はまったく異なり、相変わらず自動車メーカー頼みなのが現実です。

トップ画像の出典: 公式プレスリリース


目次

  1. スポンサー企業と自動車メーカーとの関係一覧
  2. 身の丈にあっているのはGT3
  3. 国際化戦略の行き詰まりを打開するには

スポンサー企業と自動車メーカーとの関係一覧

GT500のスポンサーは、ほとんどが自動車メーカーと何らかのビジネス関係をもっています。つまりレース活動による広告宣伝効果を求めての投資ではないのです。

GT500のスポンサー企業と自動車メーカーとの関係性を表にまとめてみました。

No. スポンサー企業名 自動車メーカーとの関係 自動車メーカーの株式保有割合(%)
1 MOTUL 主要取引先 0
6 和光ケミカル 主要取引先 0
8 オートバックスセブン 主要取引先 0
12 カルソニックカンセイ 日産連結子会社 日産40.7
15 ホンダアクセス ホンダ連結子会社 ホンダ100
17 ケーヒン ホンダ関連会社 ホンダ41.35
19 ウェッズ トヨタ子会社(中央精機)の関連会社 トヨタ51.73(中央精機株)
24 フォーラムエンジニアリング 主要取引先 0
36 KDDI トヨタが大株主 トヨタ11.9
37 KeePer技研 主要取引先 0
38 善都 無関係 0
39 デンソー トヨタ関連会社 トヨタ22.31
46 エスロード 無関係 0
64 セイコーエプソン 取引先(センサー) 0
100 スタンレー電気 主要取引先&大株主 ホンダ5.17

自動車メーカーと無関係と言えるスポンサーは、#38、#46の2つだけです。

ただし、善都は名古屋を中心にパチンコ店を展開する企業なので、トヨタの関連工場で働く従業員から多くの利益を得ているという側面があります。

本当の意味で無関係なのは#46エスロードだけでしょう。エスロード社は主に鮭を販売している水産加工業者ですから、自動車ビジネスとは何の関わりもありません

実態は実業団

日本のレースは一応プロとされていますが、実態は実業団のようなものです。

スポンサーの大半は、自動車メーカーとビジネス関係にあります。スポンサーがレース活動を支援するのは、自動車メーカーとの関係を深め、ビジネスを拡大する意図があるためでしょう。

また、自動車メーカーの関連会社や子会社は、自動車メーカーの連結対象となっているわけですから、スポンサーというよりも、自動車メーカーの一部と考える方が適切です

今回#36トムスのスポンサーとなったauは、KDDIの前身3社のひとつである「IDO」の創業にトヨタが大きく関わっており、ほとんどトヨタの身内といえます。グループ内でお金を回しているだけで、外部から投資を引きつけたわけではないのです

目次に戻る

身の丈にあっているのはGT3

日本のレースシリーズは、日系自動車メーカーの国際競争力の高さに依存する形で、下駄を履かせてもらっているのが実情です。

日本のモータースポーツ人気の低さを考えると、GT300の方が身の丈にあっています。だからこそGT300のエントラント数は増え続けているのです。

FIA-GT3は日本のモータースポーツを活性化させた

特にFIA-GT3車両は、プライベーターのSUPER GT参入を容易にしました。

FIA-GT3車両は改造の自由度こそ無いものの、お金を払うだけで同一スペックのマシンを購入できるという手軽さがあります。メンテナンスガレージの技術力によっては、同じマシンでもパフォーマンスに若干の差が生じるものの、ワークスとプライベーター間にあるような大きな技術格差はありません。

また、車種間の格差がBOPで調整されることで多種多様なマシンの参入が可能となり、見た目にも華やかになりました。

スーパー耐久との掛け持ち参戦を認めるべき

GT300にエントリーしているFIA-GT3車両が他のレースシリーズに出走することを、GTアソシエーション(以下、GTA)は認めていません。他シリーズへの参戦は、実質的にテストするのと同じだというのがその理由です。

しかし5000万円以上もするFIA-GT3車両という資産を、年間8回しか走らせないのはいかにも非効率です

掛け持ち参戦が認められれば、FIA-GT3車両1台あたりの売上高が大きくなります。プライベートチームの財政事情に貢献できるわけです。

なので実質的にテストになるからダメだという、GTA側の言い分には疑問が残ります。掛け持ち参戦はテストではなく、売上の発生するビジネスです。財政規模の小さいチームほど、大きなメリットを享受できます。

GTAとしては、JAF-GT300やマザーシャシー勢を保護したいのだと思います。しかしJAF-GT300はほとんどメーカーワークスのようなものですし、マザーシャシーの価格はFIA-GT3と同等です。わざわざ保護する必要があるとは思えません。

もしマザーシャシーを売るために掛け持ち参戦を禁止しているとすれば、プライベーターの収益機会を奪っているわけで、本末転倒です。

目次に戻る

国際化戦略の行き詰まりを打開するには

DTMと車両規定を統合するなど、GTAは国際化戦略を進めてきました。しかしVWの排ガス不正発覚以降、ドイツ側のモチベーションは明らかに減退しています。

先延ばしにされている交流戦は、おそらく行われないでしょう。日独双方の自動車メーカーにメリットがあるとは思えないからです。

むしろFIA-GT3を中心としたレースシリーズの方が国際化しやすいでしょう。日本以外のアジアでも、すでにたくさんのFIA-GT3車両が走っており、エントラントに事欠きません

GT500が無くなる日

前述したようにGT500は実質的に実業団のような体制であり、自動車メーカーの都合次第でいつ無くなってもおかしくない状態です。

自動車メーカーが興味を失いつつある先細りの日本市場向けコンテンツから、国際的なコンテンツへの脱却を図ることが、SUPER GTが国際化戦略とった理由です。しかしそれが頓挫した今となっては、自動車メーカーがSUPER GTに、特にGT500に多額の投資をする必然性がありません。

日本のレース界を維持・発展させるためにも、国際化は必須です。GT500がすぐに無くなるわけではありませんが、「プランB」を用意しておかなければリスクが大きすぎます。

FIA-GT3を中心とした「プランB」

プライベーターたちに収益機会を提供し、ある程度の財政規模と競争力をもたせるために、GT300のFIA-GT3車両にスーパー耐久との掛け持ち参戦を認めるべきでしょう。日本のレース界全体を底上げしておかないと、アジアの別シリーズに日本のレース界が飲み込まれる事態になりかねないからです。

スーパー耐久はエントラント数が増え続けており、今年は11台のFIA-GT3マシンが参戦するそうです。アジア人のドライバーも増えており、SUPER GTよりも国際化しつつあります。

スーパー耐久が「アジアのブランパン耐久」的な位置づけとなれば、GT500が無くなったとしても、SUPER GTを「アジアのブランパンスプリント」的な位置づけで存続させることができるでしょう。エントラントにも困りませんし、マシンを走らせるのは日本のレースガレージですから、日本のレース関連雇用も維持できます。

目次に戻る

最後まで読んでいただきありがとうございます。以下の記事もぜひご覧ください。