米国通商代表が欧州からの輸入バイクに100%の関税を提案

テクノロジー・業界分析,批評

ドナルド・トランプ大統領の指図とは言わないまでも、新大統領におもねる勢力が跋扈し始めたと見るべきでしょう。
米国通商代表部は貿易紛争に対する制裁措置として、欧州から輸入されるオートバイに100%の関税をかけることを提案しました

関税をかけるかどうかは、まだ決定したわけではありません。しかしこういう動きが出てきたこと自体が問題です。
遅かれ早かれ、日本のメーカーも槍玉に挙げられるでしょう。

画像の出典: sportrider.com


「100%の関税」の意味

関税とは、輸入業者が政府に支払う税金のことです。
輸入品の輸入価格に対して何%という形で表現されます。

関税率が100%の場合には、輸入価格と同じだけの金額を政府に収めなければなりません。
例えば100万円で輸入したオートバイなら、100万円の税金がかかるわけです。

高額な関税を輸入業者だけで負担することはできませんから、販売価格にも反映させざるを得ません。
海外産だというだけで、消費者は多額の支払いを強いられるのです。
欲しいオートバイがあっても、輸入品なら諦めるしかなくなります。

関税が高くなれば輸入代理店は商売上がったりですから、スタッフも解雇されるでしょう。
米国への輸出を諦めた欧州のオートバイメーカーが、米国内の工場を建設し、解雇された輸入代理店のスタッフを再雇用する……というのが、トランプ大統領(と、その取り巻き)の考えるシナリオでしょう。
しかしこれは確実に失敗します。

工業は雇用を生み出す「魔法の杖」ではない

販売台数が少ない高級オートバイメーカーなどは、米国から撤退するしかありません。米国に工場を作っても元が取れないからです。

そもそも製造工場は自動化が進んでいますし、もとより工業にはサービス業ほどの雇用吸収力がありません

工業や農業への回帰というのは、「夢よもう一度」とばかりに政治家がよく持ち出します。過去の成功例があり、有権者を説得しやすいからです。
安倍首相も円安誘導で輸出を伸ばすとか言ってましたが、失敗しました。現実的なやり方ではないのです。

穀物への関税はなぜ正当化されるのか?

日本は輸入米に1000%の関税をかけています。
「こっちが関税をかけようとしたら文句を言うくせに、そっちは関税かけ放題か!」と怒り出すアメリカ人もいるかもしれません。

アメリカの農家の収入内訳のうち、半分は補助金と言われています。
農業国と言われている国は補助金で農家の輸出競争力を強め、戦略物資として各国に輸出しているのです。

つまり、

  • 国土が広大で、農業の生産性が元々高い国……補助金で競争力を高めることで、農家を保護する。
  • 日本のように国土が狭く、農業の生産性が元々低い国……外国産の安い農作物が輸入されないように関税をかけ、農家を保護する。

という違いでしかありません。

穀物は人間の生存に必須なため、農家を保護して自国での生産体制を維持することは理にかなっています。
命綱を他国に握らせるのは賢いやり方とは言えないでしょう。

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米国通商代表部の提案内容

米国通商代表部は、欧州から輸入される50-501ccのエンジンを備えたオートバイに、100%の関税をかけようとしています。
KTMやピアッジオなどは小排気量車が多いですから、関税が実現すれば、販売面でかなりのダメージを受けてしまうでしょう。

ドゥカティ・スクランブラーSixty2は400ccなので、関税の対象になってしまう。

画像の出典: cycleworld.com

この提案が出てきた背景にあるのは、欧州との肉やチーズ、花などに関する貿易紛争のようです。
農作物や食品に関する貿易紛争の対抗措置に、なぜかオートバイまで巻き込まれてしまいました。

AMAの反論

アメリカン・モーターサイクル・アソシエーション(AMA)は、「農業貿易紛争を、非農産品に対する制裁によって解決を図るべきではない」と主張し、米国通商代表部の提案に真っ向から反対しています。
制裁対象が際限なく拡大していってしまうためです。

自由貿易の原則に反するやり方を米国通商代表部が持ち出したのは、やはりトランプ大統領の影響でしょう。
これまでなら咎められたやり方ですが、新大統領なら絶賛してくれるはずなので。

日本もアメリカとの間で、農業関連の貿易紛争を抱えています。
「対抗措置として日本から輸入される自動車に100%の関税をかける!」と、トランプ大統領がツイートする日が来るかもしれません。

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