日産が6700億円の赤字に。原因はゴーン氏の「パワー88」計画

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日産の2021年3月期連結最終損益は、6,700億円の赤字となる見通しです。
アライアンスを組む三菱の赤字額と合わせると、約1兆円という巨額の損失が発生することになります。


日産の業績不振とその打開策

販売減と過剰な生産能力

カルロス・ゴーン氏の下、ルノー・日産・三菱アライアンスは世界最大の生産台数を誇る自動車メーカーに成長しましたが、ゴーン氏が逮捕され会長職を解任される以前から、米国における過剰な販売奨励金(インセンティブ)が問題視されていました。
2017年当時の日産は1台あたり4,000ドル以上の販売奨励金をつぎ込んでおり、利益を圧迫していたのです。
ちなみに当時の業界平均は3,500ドル程度で、トヨタやホンダは平均以下の2,500ドル前後でした。

日産の生産能力は2016年の段階で年産700万台規模に膨れ上がっていましたが、グローバル販売台数はピーク時の2017年でも577万台で、その頃から生産能力は過剰でした。
そして過剰な生産能力を販売奨励金でカバーしようとして逆に利益を圧迫するという、悪循環に嵌ってしまったのです。

なぜ過剰な生産能力を抱えてしまったのか?

日産が生産能力を拡大してきた背景には、ゴーン氏が2011年に発表した中期経営計画「パワー88」があります。
これはグローバルシェア8%と営業利益率8%を同時に達成するというものです。

パワー88は2011~2016年度までの6ヶ年計画でした。
2015年の世界の自動車販売台数は8,968万台だったので、その8%だと約717万台です。
日産がパワー88最終年度に向けて生産能力を増強してきたことが窺えます。

しかしパワー88は未達に終わりました。
2016年度のグローバルシェアは6.1%、営業利益率は6.3%に過ぎず、ゴーン氏の計画は失敗したのです。

パワー88が失敗した原因は、新興国市場での不振があります。
ブラジルやインドネシアで大規模な設備投資を行ったものの、2019年のブラジルでのシェアは3.9%、インドネシアではダットサンと合わせても1.8%しかありません。
成功したのはメキシコ(シェア20.3%)くらいで、他はブラジルやインドネシアと似たりよったりです。
新興国でのつまづきが、計画を大きく狂わせてしまいました。

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どのように構造改革するのか

日産は生産能力を540万台規模に縮小するとしています。
販売台数の減少と、コロナ禍による工場稼働率の低下に対処するための措置です。
よって大規模なリストラは避けられないでしょう。

今後は固定費の削減や在庫管理の徹底、オンライン販売プラットフォームの拡充、そして「日産ネクスト」の確実な実行によって、業績を回復させるとしています。

日産ネクストは2023年度までに車種数を20%削減しつつ、新型車を12車種投入、商品のライフサイクルを4年以下に若返らせるという大胆な計画です。
電動SUVの「アリア」や先日発表された「キックス e-POWER」、そして「新型エクストレイル」や「新型フェアレディZ」などが含まれており、セダン以外の主力モデルのほとんどが刷新されます。

巨額の赤字を見込む日産ですが、1.2兆円以上のキャッシュを確保しているということで、資金面の不安も無さそうです。

懸念材料は、やはり新型コロナウイルスのパンデミックがいつ終息するかということにあると思います。
日産は世界自動車販売台数が2023年度に9,000万台に戻ると予想していますが、もし長引けば顧客の買い替えサイクルが伸びると思われるので、新車攻勢が失敗に終わる可能性もあります。

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