経済効果2000兆円!? 日産が自動運転車の開発を急ぐ理由

テクノロジー・業界分析,批評

日産がキャシュカイ(日本名デュアリス。現行型は日本未導入)に、自動運転システムのプロパイロットを搭載します。
日産がプロパイロット搭載車のラインナップ拡大を急いでいるのは、自動運転システムが2050年までに2000兆円以上の経済効果を欧州にもたらすという研究結果があるからです。


自動運転システムがもたらす経済効果

日産から研究委託された独立研究機関がまとめた「道の解放: 自動運転の未来を形作る」という包括的なレポートによると、自動運転車の普及は、今後数十年にわたりヨーロッパの成長率を0.15%押し上げる効果があるそうです。

2050年までの経済効果の累積は、なんと17兆ユーロ(約2058兆円)に達するとか。
自動運転車は経済にすさまじいインパクトをもたらすのです。

日産ヨーロッパのチェアマン、ピーター・ウィルコックス氏は「我々は社会と経済の大変革期の最中にいる」と言います。
「自動運転技術のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に対するインパクトは、自動車製造業のみにとどまらない。しかしヨーロッパの経済と社会にその提案をする政府のリーダーシップがあらゆるレベルで必要だ」

自動運転技術は素晴らしい技術ですが、渋滞の悪化事故時の責任の所在など、法的・政治的な枠組みで解決しなければならない問題が残されています。
ウィルコックス氏のコメントは、自動運転技術が社会全体の課題であることを示唆しているのです。

ヨーロッパでは大半の人が自動運転に好意的

同レポートでは、欧州の6カ国6000人にアンケートを行っています。
自動運転技術が社会にもたらす利益を、人々がどのように考えているかという調査です。
それによると58%が「移動しやすくなること」だと回答。
「ヒューマンエラーによる事故の減少」を挙げた人が次点でした。

また、23%の人は、5年以上先に車を買うなら自動運転車を買うと回答しています。

自動運転車は金のなる木だが……

日産が自動運転車の開発を急ぐのは、近い将来、自動運転車の需要が莫大なものになると見込んでいるからに他なりませんが、もう1つ別の理由があります。

完全自動運転(無人で動く車)が当たり前になると、自動車の販売台数そのものは大きく減少すると予想されています。
インターネットを通じてマイカーを他人に貸し出しやすくなる(しかもそれで利益を得られる)ため、自動車の資産効率は上がるのですが、いつでも借りられるとなれば車を所有しない人も増えますから、結果的に販売台数は減ってしまうのです。
すべての自動車が公共交通機関化する、と言い換えても良いかもしれません。

つまり自動運転車は、人間が運転する車の需要を奪うので、他社に先駆けて自社の自動運転車を普及させないと、シェアを奪われ、ジリ貧になります。
自動運転車開発の見返りは大きいのですが、出遅れた場合のリスクも大きいので、世界中の自動車メーカーと同じく、日産も大急ぎで開発を進めているわけです。

目次に戻る

日産の自動運転技術のロードマップ

現在使われているプロパイロットは、「トラフィックジャム・パイロット」と呼ばれるものです。
基本的には交通渋滞時の運転を自動化するものであり、レーンチェンジや追い越しはせず、ただ前走車についていくだけのものです。

日産の計画によると、2018年には「ハイウェイ・パイロット」が導入されます。
これはプロパイロット2とでも呼ぶべきもので、レーンチェンジと追い越しまで自動化され、高速道路上での完全な自動運転(NHTSA・レベル3 ※1)が実現するようです。

※1 加速・操舵・制動を全てシステムが行い、システムが要請したときはドライバーが対応する状態。加速・操舵・制動を全て自動的に行うシステム。通常時はドライバーは運転から解放されるが、緊急時やシステムの限界時には、システムからの運転操作切り替え要請にドライバーは適切に応じる必要がある。(wikipedia

さらに2020年になると、「インターシティ・パイロット」にバージョンアップします。
プロパイロット3となるインターシティ・パイロットでは、街中での自動運転が可能になるようです。

プロパイロット1ではカメラで前方の車の動きを識別していますが、プロパイロット2や3では、各種センサーとの組み合わせにより自動運転の高度化を図っています。
なのでテスラのようにソフトウェア・アップデートだけでバージョンアップはできなさそうです。

今後の導入計画

欧州で販売中のキャシュカイに、プロパイロット1が£1,500(約21.7万円)のオプションとして設定されます。
新型セレナのプロパイロット・エディションも差額23万円程度なので、日本とほぼ変わらない値段のようです。

キャシュカイ(MY2014)

画像の出典: netcarshow.com

キャシュカイはエクストレイルよりもコンパクトで比較的安価なSUVですから、キャシュカイより上のクラスの車には、プロパイロットが順次導入されていくはずです。

ただしプロパイロットが導入されるキャシュカイは、欧州で人気No.1のSUVですし、セレナも日本で長期間にわたって人気を維持している看板車種です。
こういった人気車種から先にプロパイロットを導入しているということは、プロパイロットの採算性は(現在のところは)それほど良くないのだと思います。
しばらくは人気車種優先でプロパイロットが設定されていくでしょう。

日産テクニカルセンター・ヨーロッパも「コストが重要」だと話しています。テスラと日産とは違うのだと。
逆にコストの面では、テスラに付け入る隙があるということです。
したがって自動運転技術のコストダウンに成功した自動車メーカーが、自動運転時代の勝者となるでしょう。

目次に戻る

最後まで読んでいただきありがとうございます。以下の関連記事もぜひご覧ください。