日産がNECを見捨ててバッテリー事業から撤退する理由
NECは、EV用のバッテリー電極を生産していた「NECエナジーデバイス」を、中国のベンチャーキャピタルである「GSRグループ」に売却することを検討しています。
売却額は150億円程度で、年内にも合意する見通しです。
日産もNECとの合弁事業である「オートモーティブエナジーサプライ(AESC)」を、GSRグループに売却しようとしています。
こちらの売却額は、1100億円前後だそうです。
AESCは、日産が51%、NECが49%の割合で出資していますが、日産とGSRが合意すれば、NECは持ち分を手放すとしています。
AESCの生産設備は神奈川県座間市にありますが、GSRはその一部を、中国の湖北省に移転するかもしれません。
湖北省はクリーンエネルギー分野への多額の投資をすでに決定しており、日本よりも事業環境が良いからです。
EVやPHVの販売が成長を続けており、日産もEVのラインナップを急拡大させようとしている最中に、なぜNECと日産は、バッテリー生産からの撤退を決断したのでしょうか?
今回は、その決断の背景に迫ります。
急成長を続けるEV・PHV市場
大容量バッテリーを使うEVやPHVの販売は、世界中で急速に伸びています。
例えばアメリカはガソリンが安いことで有名ですが、そのアメリカでもEV・PHVのシェアは急拡大しているのです。
現在、アメリカの自動車は急減速しており、7月の全米自動車販売台数は、前年同月比で−7.0%、1-7月の累計でも、前年同期比−2.9%という惨憺たるものでした。
しかしEVとPHVの販売はいたって元気で、1-7月の累計は、前年同期比でなんと+34.8%という大幅な伸びを示しています。
アメリカでのEV・PHV販売は、この7月まで22ヶ月連続でプラス成長しており、今後も成長が見込まれているのです。
世界に目を転じてみても、この傾向は変わりません。
2017年のEV・PHVの世界販売台数は、1-6月の累計で、前年同期比+46.9%という圧倒的な伸びを示しています。
テスラ・モデル3や日産・新型リーフの販売が始まる2018年は、販売の伸びがさらに加速するでしょう。
内燃機関自動車に対する政府の規制強化にも後押しされる形で、今後は自動車の電動化が一気呵成に進むはずです。
NECの苦悩
絶好調なEV・PHV向けにバッテリーを供給しているNECが、なぜバッテリー生産事業から撤退しようとしているのでしょうか?
その理由には、EV用バッテリー事業に特有の問題があります。
EVやPHVに大容量バッテリーを車載するには、パッケージングの問題を解決しなければなりません。
車種によって形状が異なるので、それに合わせてバッテリーを最適化しなければならないわけです。
そのためバッテリーを供給する電機メーカーと自動車メーカーは、緊密な協力関係を築くのが普通です。
EV・PHV用バッテリー最大手のパナソニックは、トヨタやテスラと組んでいます。
パナソニックを追うLG化学は、ルノーやGMのバッテリー開発パートナーです。
このようにメーカーごとに組む相手が決まっているため、先行しているメーカーが圧倒的に有利となります。
すでに持っているシェア(=スケールメリット)を活かし、コストの安さで新規の顧客を開拓できるからです。
しかしAESCが設立されたのは2007年。
プライムアースEVエナジー(旧パナソニックEVエナジー)が設立されたのは1996年です。
NECは動くのが遅すぎましたし、日産がそんなNECと組んだもの失敗でした。
日産としては、トヨタの息がかかっていない電機メーカーと組みたかったのでしょうけどね。
自動車メーカーが足りないバッテリーを奪い合う
日産は方針を転換し、AESC単独供給から、多様な調達先を開拓する方向へとシフトしました。
AESCを見捨てたように思えますが、日産は日産でのっぴきならない事情を抱えています。
バッテリーが足りないのです。
パナソニックとテスラが建設したバッテリー工場「ギガファクトリー」は、2013年に世界で生産されたリチウムイオンバッテリーの全生産量を上回るほどの生産力を有しています。
裏を返すと、世界のEV・PHV用バッテリー生産量は、まったくもって足りていないのです。
テスラ1社の消費量が、2013年の世界全体の消費量と釣り合うわけですから。
ちなみにギガファクトリーの生産力をもってしても、50万台/年程度しか賄えないとされています。
2016年の世界全体の自動車生産台数は、約9500万台ですから、その10%がEVやPHVにシフトするとなると、ギガファクトリーがあと19個必要になる計算です。
日産の苦悩
EVやPHVに使われるバッテリーは、高品質なものでなくてはなりません。
問題が発生すれば、車両火災に直結するからです。
しかしそのような高品質なリチウムイオンバッテリーを大量に納入できるメーカーは、世界でも限られています。
よって自動車メーカー各社は、優れた技術を持つ電機メーカーの生産力を、競合する自動車メーカーと奪い合うしかないのです。
日産の決断の背景には、ルノーと共にLG化学からバッテリーを調達することで、LG化学に対する価格交渉力を高める狙いがあるだけでなく、LG化学にバッテリー生産への投資を加速させるよう、発破をかける意味合いもあると考えられます。
今後EVのラインナップを拡大していくには、バッテリーの調達が死活問題となるからです。
AESCが大きなシェアを奪えなかったため、こうするしかなかったのでしょう。
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