掃除機のダイソンがEV(電気自動車)を作る!?

テクノロジー・業界分析,批評

吸引力が変わらないただ一つの掃除機」というキャッチコピーでお馴染みの、イギリスの家電メーカー「ダイソン」が、電気自動車(EV)を製造に乗り出すことを明らかにしました。
EVプロジェクトになんと20億ポンド(1ポンド=150円換算だと3000億円!)もの巨額を投資するそうです。
ダイソンはリアルガチで、EVメーカーになろうとしています。

今回はダイソン・EVプロジェクトの詳細についてです。


ダイソン・EVプロジェクトの概要

ダイソンはEVを製造するだけでなく、バッテリーも自社で開発・生産しようとしています。
20億ポンドの資金の半分を、全固体電池の開発に注ぎ込む予定です。

全固体電池は、トヨタやポルシェも開発に取り組んでいる次世代の電池です。
全固体電池については、以下のリンク先で詳しく解説しています。

トヨタに続きポルシェも全固体電池を開発中! EV版911に搭載予定

ダイソンはすでに、EVプロジェクトのためのスタッフを400人も雇用しているそうで、本腰を入れて開発に取り組んでいる真っ最中です。

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ダイソンのEVはどんな車?

実は2年前からEVの開発を進めていたというダイソンですが、プロトタイプはまだ存在しないそうです。

しかしダイソンは「スポーツカーではない」「とても安い車ではない」ということを認めました。

また、ダイソンの家電製品のように、他とは違う独特の外観を有しているとのことです。

ダイソンの掃除機だと一目でわかるデザイン。kEVもこうなる?

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なぜダイソンがEVを作るのか?

ダイソンの創業者であるジェームズ・ダイソン卿は、80年代後半にサイクロン式掃除機の開発を始めました。
その際、サイクロンがディーゼル排ガスの浮遊粒子状物質を収集できることがわかったのだそうです。

当時のスケッチ

そこでダイソンは、ディーゼル排ガス用のサイクロン式分離装置(サイクロニック・エキゾースト・フィルター)の開発に取り組み、1998年まで続けたものの、上手くいかなかったそうです。

ダイソン卿は、現在の「クリーンディーゼル」に搭載されているDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)を、「掃除機で言うところの紙パック」だと考えており、いずれ目詰まりする不完全なものと見なしています。
たしかに詰まった煤を燃焼させる必要がある(その際、極端に燃費が悪化する)ので、ダイソン卿の見方は正しいです。
掃除機の紙パックも、燃えるゴミで出しますしね。

でも、サイクロニック・エキゾースト・フィルターが失敗してしまいました。
そこでダイソン卿は、EVが必要だと考えるようになったのだとか。
しかし90年代後半の時点では、バッテリー技術が不十分でしたし、ダイソン卿もEV開発に乗り出せるような状況ではなかったため、ダイソンのEVプロジェクトが動き出すことはありませんでした。

「ディーゼルゲート」も追い風に

ディーゼルエンジンについての悪い知らせ(VWのディーゼルゲートのこと)を余儀なくされるまで、既存の自動車メーカーのただ1社とて、ディーゼル排ガスの問題を解決しなかったことに失望した」と、ダイソン卿は語っています。
80年代後半の時点でディーゼル排ガスの問題に気づいていたダイソン卿からすると、腹に据えかねるものがあったのでしょう。

VWのディーゼルゲートが発覚したのは、2015年9月です。
ダイソンのEVプロジェクトは2年半前から動き出しているので、ディーゼルゲートを機にプロジェクトを始めたわけではなさそうです。

しかし予てよりディーゼル排ガスを問題視していたことが、ちょうど良いタイミングでのプロジェクト開始につながったと言えます。

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ダイソンに勝機はあるのか?

EV事業に巨額を投じるダイソンに、勝機はあるのでしょうか?
少なくとも、ダイソンにはバッテリーとモーターの技術があるわけですから、勝機が全く無いというわけではなさそうです。

バッテリーとモーターに関する卓越した技術力

ダイソンのモーターは、量産モーターとしては世界最速だと彼らは主張しています。
また、数年前に買収したSakti3というアメリカのベンチャー企業は、全固体電池の優れた技術を有する会社です。

また、ダイソンはSakti3のものとは異なる形態の全固体電池も開発しています。
自動車に関しては素人でも、バッテリー(特に次世代の全固体電池)やモーターに関しては、ダイソンはプロフェッショナルなのです。

バッテリーの生産規模では世界有数

技術力だけではなく、生産能力も世界有数です。
ダイソンの掃除機に
搭載されているバッテリーは、ダイソンが自社生産しています。
ダイソンの掃除機は年間1億台も生産されているので、バッテリーも同数が作られている計算です。
これを世界の2次電池市場に換算すると、ダイソンの世界シェアは約6%ということになります。

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ダイソン製EVの発売時期

2020年を予定しています。
トヨタの全固体電池も2020年を目処に実用化されると言われているので、2020年は全固体電池EV元年になりそうです。
全固体電池は劣化しづらいと言われているので、ダイソンのEVは「充電力の変わらないただ一つのEV」というキャッチコピーになるかもしれません。

新しい自動車メーカーが参入すると業界全体が活性化することを、われわれはテスラの参入で学びました。
ダイソンもテスラのように成功してもらいたいものです。

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参考サイト

Dyson electric car: batteries, factory, 2020 launch date and James Dyson interview |
autoexpress.co.uk

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