うわっ……ドイツの車、速すぎ……? このままだとWECがヤバい!

モータースポーツ,ル・マンなど耐久レース



富士スピードウェイ+耐久レース=伝統

今年のトヨタはダメそう

今年もWECが富士スピードウェイにやって来ました。富士での開催は、2012年にWECが復活して以来4回目、通算11回目となります。トヨタが勝つのは難しそうですが、LMP2はシャシーが色々あって面白いですし、GTはいつも接近戦ですから見どころはあると思います。筆者はジェントルマンドライバーたちのがんばりを生暖かい目で見守るつもりです。

2億ユーロで2秒を買う

ところでこいつを見てくれ。こいつをどう思う?

WEC富士初日:LMP1の超進化。レコード2秒短縮 -AUTOSPORT web

2015年のスーパーフォーミュラ予選は雨だったので、フリープラクティス2のタイムで代用した。

GT500のタイム向上はタイヤによるところが大きいと思いますが、WECのLMP1はミシュランが独占供給していますから、純粋にマシン性能のみの向上で2秒縮めたということになります。ポルシェの予算は2億ユーロと噂されていますので、その全額がマシン開発に使われたわけではないにしろ、1秒の価格がかなり高騰していることがわかります。

ちなみにスーパーGTに参戦している自動車メーカー各社の予算は、おそらくWECポルシェの10分の1ほどと思われます。この推測は、DTMに参戦するアウディの予算が1500万ユーロほどに削減されるとのコメントに基いています。

アウディ、F1参戦をきっぱりと否定 -F1-gate.com

DTMとのレギュレーション統合を進めているスーパーGTですから、予算的に大きな差は無いと考えられます。

日本の耐久レース

さて、日本のレースシーンで耐久レースというと、近年はスーパーGTの富士500kmや鈴鹿1000km、あるいはスーパー耐久などの、いずれもツーリングカーレースばかりです。でも80年代の日本で耐久レースといえば、スポーツプロトタイプでやるものでした。82年にWEC-JAPANが開催され、その後を追うように83年からJSPC(全日本スポーツプロトタイプカー選手権)が始まったからです。

代理戦争に武器を供給したポルシェ

プライベーター>ワークス

WECとJSPCは瞬く間に大人気となり、85年のWEC-JAPANには83100人もの観客動員を記録しています。人気の秘訣には、伝統あるポルシェやジャガーに日本の自動車メーカーが挑むという、「世界vs日本」の図式がありました。

JSPCでもカスタマーポルシェを使用する日本のプライベーターと、日本の自動車メーカー率いるワークスチームがWECの代理戦争を繰り広げ、これまた「世界vs日本」の図式が構築されていました。

ポルシェは日本の前に立ちはだかる「西洋文明」そのものだった。

画像の出典: ja.wikipedia.org


当時のJSPCではポルシェ956や962Cがあまりにも速すぎて、日本のワークスチームが手も足も出ない状況でした。ポルシェの強さと速さはプライベーターとワークスの逆転現象を引き起こし、好景気も相まって、全てのプライベーター・ポルシェが有力企業のスポンサーカラーに彩られていました。

国破れて山河あり

89年後半になると国産マシンがポルシェを打ち負かすようになり、90年には日産の長谷見昌弘がタイトルを獲得しました。しかし日本車の天下は長続きしませんでした。バブル崩壊やグループCレギュレーション廃止に伴うポルシェ本体の撤退などが影響して、92年には参加台数が10台前後にまで激減、93年にはJSPC自体が消滅してしまいます。

JSPCの人気自体は衰えておらず、92年になっても富士では6万人ほどの観客動員がありました。けれど走らせるマシンがなければ、レースを見せることはできません。

繰り返す、このマネーゲーム

レースシリーズの盛衰は、①プライベーターが集まりお金をかけずに出来るレースを始める、②自動車メーカーが「プライベーターを支援する形で」参戦し人気が高まる、③複数の自動車メーカーが参戦し際限なく金を注ぎ込み始める、④ついていけなくなったプライベーターが次々と撤退する、⑤参加台数が減少してレースを維持できなくなり①に戻る……このサイクルの繰り返しです。

サイクルが②に差し掛かったときになぜ「プライベーターを支援する形で」自動車メーカーが参戦するかというと、この段階ではレースシリーズ自体の人気が低く、自動車メーカーが大金を叩いて参戦するほどの広告効果が無いためです。自動車メーカーが参戦すればライバル不在のため即座に結果を得られますが、盛り上がらないために広告効果は得られないというジレンマを抱えることになります。

同じ道を辿っているように見えるが……

ル・マンのアウディも、かつてはプライベーターを支援していた

アウディがル・マンに参戦したのは99年。しかしアウディ以外の自動車メーカーは、99年限りで全て撤退してしまいます。2000年には1-2-3フィニッシュを達成したアウディでしたが、無風で勝ち続けるのは流石にまずいと思ったのか、01年からはプライベーターにマシンの供給を開始、04年には日本のチーム郷が優勝します。ちなみに03〜05年のル・マン24時間レースは、いずれもアウディR8の供給と支援を受けたプライベーターが勝利しています。

両雄並び立たず

ところが05年にプジョーがル・マン参戦を発表すると、アウディとの間でディーゼルエンジンの開発競争が始まり、プジョーが実際にエントリーしてきた07年以降は完全なメーカー戦争の場となり今に至ります。

プジョーは撤退してしまいましたが、入れ替わりにトヨタ、そして昨年からはポルシェが参戦し、WECは盛り上がりを見せています。

しかし中国経済の減速や、VWの排気ガス不正問題など、モータースポーツを取り巻く環境は厳しくなりつつあります。しかしWECでは熾烈な技術開発競争が行われ、コストが増大し続けています。自動車メーカーが参戦を止めた後のことを考えておかなければ、WECもJSPCと同じ轍を踏み、スポーツの崩壊を防げなくなります。

モータースポーツを守るには、常にプライベーターたちを支援する必要があります。なぜなら彼らだけが、「レースすることを生業にした」人々だからです。