ニスモが独自にスーパーカーを作る?
ニスモブランドの大改革が始まるのか?
日産自動車商品企画本部・チーフプロダクトスペシャリストの田村宏志がトップギアのインタビューに答え、ニスモが将来独自にスーパーカーを作る可能性に言及しました。
Standalone Nismo Supercar Possible In The Future – carscoops
田村氏はR35GT-Rの開発責任者であるため、次期GT-Rのことを指しているのではないかと見る向きもあるようです。しかしリンク先の記事を読むと、田村氏(もしくは日産自動車本体)はニスモのブランド戦略の一部として、スーパーカー開発に言及したように見受けられます。
目次
ニスモがAMGやM社のような存在になる?
田村氏はインタビューの中で、「ニスモの既存顧客はハイパフォーマンスを求める人たちだが、新しい顧客として高級志向の人々を獲得することが大切だ」と話しています。AMGやM社、アウディのRSシリーズの存在にも触れています。
ニスモは日本のレースシーンで多くの成功を収めてきましたが、そのブランドイメージはAMGやM社のような高級志向ではなく、スパルタンで質実剛健なものです。
GT-R NISMOによる販売テコ入れ策も失敗に終わり、GT-Rの販売は依然低迷したままです。日産自動車本体としては、スポーツカーおよびスポーツブランドの改革が急務と考えているのかもしれません。
改革のモデルケースとなるかもしれないAMGやM社とは、どんな会社でしょうか。
AMGやM社の成り立ち
レースへの情熱が生み出したAMG
AMGの創業者であるハンス・ヴェルナー・アウフレヒト氏とエバハルト・メルヒャー氏は、元々ダイムラー・メルセデスの開発部門に所属していたエンジニアで、レース用エンジンを開発をしていました。
その後メルセデスがレースから撤退したのを機に、2人は独自にレース用エンジンの開発を手がけ始めます。ダイムラー・メルセデスのエンジニアとして働きながらコツコツと開発を続けた2人の努力はやがて花開き、彼らの開発したエンジンはドイツツーリングカー選手権で大成功を収めました。
その後独立しAMGが創立されるわけですが、現在はメルセデス・ベンツ社の傘下です。ちなみにアウフレヒト氏は、DTMを運営するITRというレース統括団体の代表でもあります。
AMGは2人のエンジニアの情熱が作り上げたベンチャー企業だったのです。日本だと、SARDの設立経緯が似ていますね。
BMWのモータースポーツ部門だったM社
M社の成り立ちはニスモに近いものがあります。BMWのモータースポーツ部門として設立され、レーシングカーやレース用エンジンの開発を行っていたからです。
BMWの子会社としてM Gmbhが誕生したのは1972年。M社が最初に手がけた市販車は3.0CSLです。だが市販されたとはいえ、リアウィンドウがアクリルに交換されるなどしたレース用ホモロゲーションモデルでしたから、一般向けの車ではありませんでした。
BMW M1の市販が、M社の転機となりました。M1はグループ4、およびグループ5レース(スカイラインスーパーシルエットもこのクラス)で勝つために計画された車ですが、スーパーカーとして市販することを前提とした車でもあります。
レギュレーションがグループCに切り替わった関係で、M1はヨーロッパのレースでは活躍できませんでした。けれどアメリカのIMSAシリーズや日本の耐久レースでは大活躍し、BMW=高性能というイメージを人々に植え付けました。下記動画の8分30秒から、レース仕様のM1について詳細な説明があります。
M1での市販車開発と生産の経験は、後にBMW M535iとして結実し、BMWをベースにした高性能な市販車を開発する今日のM社に繋がっていきます。
ニスモはどこに行くのか?
最近ニスモは「ノートニスモ」「マーチニスモ」「ジュークニスモ」と、コンプリートカーのラインナップをスポーツカー以外にも拡大しています。
しかし上記のいずれも、AMGやM社が作るような高性能車ではありません。車高を下げてサスを硬くし、ホイールとマフラーを変えて、レカロシートにアルミペダルをつけただけの車では、ニスモのブランドイメージが向上することはないでしょう。
「技術の日産」に奢りは無いか
GT-Rはハイパフォーマンスカーの名にふさわしい性能を持つ車だと思いますが、デザインや官能性では、BMWやフェラーリの足元にも及びません。
また冒頭のインタビュー記事で田村氏は「ニスモの既存顧客はハイパフォーマンスを求める人たち」と答えていますが、ノートニスモやマーチニスモは果たしてハイパフォーマンスカーでしょうか?
日産内部の人間が、AMGやM社の顧客を「高級志向の人たち」と考えているのならば、それは見当違いだと言い切れます。ブランドが主張する哲学やストーリーを、優れた顧客体験を通じて感じられることこそが、AMGやM社の車に人々を惹きつけているのですから。
見当違いの背景には、「日産は技術力で勝っている」という奢りがあるように思えてなりません。技術で勝っているのに売れないのは、顧客が豪華な内装を欲しがっているからだと言いたげに聞こえるのです。
しかし顧客の要求するデザインや官能性を提供する技術で、日産は明らかに劣っています。AMGやM社は運転を通じて優れた顧客体験を提供する車を何世代にも渡って作り続けていますが、顧客体験という無形のものを再現する技術力があるからこそできることなのです。
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