スーパーフォーミュラがつまらない! どうすれば面白くなる?
ヨコハマタイヤの性能は素晴らしかったが……
2016年のスーパーフォーミュラ開幕戦についてまとめようと思っていたのですが、まともなオーバーテイクが映ったのはたった1回だけだったので、とくに書くことがありません。どうしてこうなった。
事前の予想ではオーバーテイクショーが見られるはずだったのですが、決勝ではヨコハマタイヤの性能低下も見られず、タイヤ無交換の車が続出する始末。「F1のピレリ並に」とはいいませんが、もう少し性能低下してくれた方が、レースは面白くなるんですけどね。
ともかくこのままだと、超高速パレードラップの悲劇が今年も繰り返されるのは必至です。そこで今回は予定を変更して、スーパーフォーミュラ改革案を考えてみることにしました。
トップ画像の出典: superformula.net
目次
凡戦を生んだヨコハマタイヤの高性能
開幕戦は、マニアックな視点で見るならば、なかなか面白いレースでした。アンダーカットしたライバルに対応してすぐさまピットインし、相手がタイヤ交換しないなら負けじとタイヤ無交換で応戦するなど、ライブタイミングを見ながらなら結構楽しめたレースだと思います。
しかしマニア以外には退屈極まりないレースでした。なにしろまともなオーバーテイクが1回しか無かったのですから。
開幕戦のピットウィンドウとSF14の燃費
JSPORTSの放送で解説を務めていた土屋武士氏によると、ピットウィンドウ(ピットに入るタイミングのこと)は「10〜32周の間」とのことでした。
つまり10周目にピットインして満タンにすれば最後まで走りきれるし、満タンでスタートすれば32周目までは燃料が保つというわけです。よって鈴鹿での燃費は約2.06km/Lとなります。
好対照なふたり
予選でスピンしたため17番手スタートとなった#19インパルのJ.P.デ・オリベイラ選手は、早くも12周目にピットインしました。集団の中で乱気流に悩まされながら走るよりも、クリアラップをとった方が有利だと考えたのです。
ピットアウトした彼は、目論見通りの単独走行で好タイムを連発し、最終的に10位でゴールしました。
予選でタイムを抹消され15番手スタートだった#1セルモ・インギングの石浦宏明選手は、オリベイラ選手とは対照的な戦略を選び、31周目までピットインを遅らせます。
石浦選手はずっと#7ルマンのN.カーティケヤン選手に引っかかっていたのですが、カーティケヤン選手が24周目にピットインして前が開けてからは、上位陣よりも速い41秒台後半のタイムで周回し、満を持してのピットインとなりました。
しかしピットアウトした石浦選手の前には、オリベイラ選手がいました。石浦選手はタイヤ無交換で停止時間が短かったにもかかわらず、前に行かれてしまったのです。
性能が落ちないヨコハマタイヤ
基本的には、マシンが重い状態でのニュータイヤ投入は愚策といえます。燃料が軽くなってからニュータイヤを投入した方が効果が大きいからです。
しかしレースは相対的な差を競うものですから、原則通りにはいきません。乱気流うずまく集団走行で失うタイムよりも、タイヤの性能低下で失うタイムの方が少なければ、後者を選択するのが正しいのです。
もしヨコハマタイヤの性能低下の幅が大きければ、オリベイラ選手の戦略は失敗していたでしょう。しかしヨコハマタイヤの性能低下がわずかだったために、レース序盤に交換してもデメリットがありませんでした。
ヨコハマタイヤに谷(ラップタイムが大幅に悪化すること)があれば、レースはもっと面白くなっていたと思います。上位陣のほとんどがタイヤ無交換なんてことにもならなかったでしょうし、逃げる無交換勢と追いかける交換勢のバトルも発生していたはずです。ブリヂストン以上に隙の無い高性能タイヤが、開幕戦を凡戦に変えてしまいました。
オーバーテイクを生み出すアイデア
#36トムスのA.ロッテラー選手は、#40ダンディライアンの野尻智紀選手に対し、早くも1周目の日立オートモティブシステムズシケインでオーバーテイクを敢行します。このときは抜けませんでしたが、明らかにロッテラー選手のペースの方が良かったので、数周のうちに決着がつくだろうと誰もが思っていました。
しかし野尻選手が29周目終わりにピットインするまで、ロッテラー選手が先行することはありませんでした。現在のスーパーフォーミュラではラップタイムにかなりの差があるか、前の車がミスするかしないと、オーバーテイクなんてできないのです。
翼を持つ車の宿命
前後のウイングのダウンフォースに頼っているフォーミュラカーでは、テール・トゥー・ノーズの状態になると前走車の生み出した乱気流の影響を受け、ダウンフォースレベルが低下してしまいます。
ダウンフォースレベルが低下するとコーナリングスピードも低下し、ラップタイムも落ちてしまいます。よって単独走行では前の車より速くてもオーバーテイクはできないという状況になりやすいのです。
数々の対策
モータースポーツ界もこの問題に手をこまねいていたわけではありません。世界中のフォーミュラカーレースでは、オーバーテイクを増やすために数々の対策が取られてきました。
DRS
ドラッグ・リダクション・システム(DRS)は、F1が導入した「オーバーテイク振興策」です。前走車から1秒以内に接近した車は、特定の区間でリアウィングのダウンフォースをキャンセルすることを許可されます。
リアウィングのダウンフォースが無くなると、空気抵抗も小さくなるため、スリップストリームの効果が増し、ストレートでオーバーテイクしやすくなるのです。
DRSを卑怯だと批判する人がいますが、フォーミュラカーレースにおいては後方の車の方がそもそも不利なのです。DRSはその不公平を是正しているだけで、卑怯な装置とはいえません。
2種類のタイヤ装着義務
ソフトタイヤとハードタイヤの2種類のタイヤをレース中に装着するよう義務づけることで、コース上にラップタイムペースの異なる車を発生させます。最初に導入したのはたしかインディカーだったはずです。
上位がハードタイヤ、下位がソフトタイヤとなれば、速い車が後方から追い上げてくる形になりますから、必然的にオーバーテイクが増えます。
ただしこのアイデアをそのままの形でスーパーフォーミュラに導入しても、期待どおりの効果は得られないでしょう。
インディカーはレース距離が長く、エタノール燃料(ガソリンに対し容積あたりの熱量が小さい)なので、マルチストップするのが当たり前です。
そのためタイヤ交換の機会も多く、しかもセーフティーカーランも多いため、タイヤ選択の異なる車が接近した状態になりやすく、バトルからのオーバーテイクも数多く見られます。
スーパーフォーミュラだとピットストップはたった1回ですから、上位陣のタイヤ選択はほぼ同じになるでしょう。レース距離を伸ばすか、2レース制にしてレースごとにハード・ソフトの選択をさせるかしないと、ペースの違う車を作り出せないと思います。
オーバーテイクボタン
オーバーテイクボタン(OTB)は、一時的にレブリミットもしくはブーストを上げることで、追加パワーを得る仕組みです。
スーパーフォーミュラにも採用されていますが、5回までという制限がある上、使用時にはエアインテークにあるLED(いわゆるピコピコ)が光るので、抜かれそうになっているドライバーも防御的にOTBを使ってしまい、あまりオーバーテイクにつながっていません。
防御に使わせないために、押してから5秒後にピコピコが光る制限がありますが、そもそも押してから5秒でサイド・バイ・サイドに持ち込めることが少ないため、結局その制限も役に立っていません。DRSのように前走車は使えない仕組みにしないと無意味です。
スピード or エンターテイメントの葛藤
いずれのオーバーテイク振興策を導入しても、批判は免れないでしょう。フォーミュラカーはピュアにスピードを追求すべきだと考える人が多いからです。
リバースグリッドやハンデウェイトとDRSを組み合わせれば、簡単にオーバーテイクシーンを増やせるでしょう。しかし日本のフォーミュラカーレースファンは、おそらくそのような「作られたオーバーテイク」を求めていないと思います。
そういったピュアなレースファンとエンタメとの妥協点を考えると、「2種類のタイヤ装着義務」くらいが限界かもしれません。ただし先述したようにレース距離の延長などと組み合わせなければ、大して面白くはならないでしょう。
筆者個人としては、トップフォーミュラ宣言したのだから「F1の下請けみたいなことやるな」と思っています。思いきってエンタメ路線に舵を切るべきです。
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