販売台数世界一となったルノー日産が、三日天下では終わらない理由

テクノロジー・業界分析,批評

以前日産がトヨタを打ち負かす!? ゴーンCEOはビッグマウスか検証という記事を書いたのですが、ゴーンCEOがビッグマウスではないことが証明されました。
昨日ホンダの決算が発表され、ルノー日産アライアンスが、2017年上半期の自動車販売において、世界一となったことが確定したのです。

自動車メーカーグループの2017年上半期販売台数
グループ名 販売台数(万台)
ルノー日産 526.8
VAG 515.5
トヨタ 512.9
GM 468.6
現代・起亜 352
フォード 335.4
ホンダ 255.2
FCA 237
PSA 157.9
ダイムラー 157.2

まあ、ホンダが世界一になる可能性はほぼ無かったので、決算を待たなくてもルノー日産の世界一は確実だったのですが、一応ということで。

しかし世界一になったルノー日産に対し、早くも心配する声が上がっています。
でも筆者は、ルノー日産が三日天下では終わらないと思うのです。
今回は、そう思う理由について説明します。


世界一となったルノー日産に対する不安の声

さすがゴーンさん、でも「世界一」の実力は本物なの? | ニュースイッチ

日産、ルノー、三菱自動車「世界一」は吉か凶か | 片山修

上記リンク先の内容を要約すると、「部品の共通化や標準化でブランドごとの個性が失われ、シナジーが得られないのではないか?」「共通の部品を使うリスクが、1000万台を境に表面化するのでは?」というものです。

部品共通化でブランドごとの個性が失われる?

ブランドごとの個性が失われるという懸念については、モジュラープラットフォームによる部品共通化に先鞭をつけたVW・アウディ・グループ(VAG)を見れば、杞憂にすぎないことがわかります。
VAGは自動車で8ブランドを展開していますが、いずれのブランドも個性的です。

車の個性は部品が生み出すのではなく、パッケージングとデザインが生み出すものなので、部品の共通化や標準化が、個性を削ぐことには直結しません。
むしろデザイン力の欠如の方が、没個性につながるでしょう。
でもインフィニティを始め、ルノー日産のデザインは高く評価されているので、心配はいらないと思います。

共通の部品を使うとリスクが増大する?

「1000万台の壁」とか「魔物」だとか言われていますが、共通の部品を使うリスクはたしかにあります。
タカタのエアバッグがその典型例です。

しかしルノー日産だけが部品共通化を進めているわけではないので、ルノー日産のリスクだけが増すわけではありません
相対的なリスク状況は変わらないといえます。

部品共通化のリスクが大きいのは、日本企業特有の閉鎖的な系列取引を用いている場合でしょう
なぜなら系列の部品メーカーが何らかの品質問題を起こした場合に、その系列の自動車メーカーが全ての損害をかぶることになるからです。
タカタのエアバッグ問題でも、最も大きな損失を被ったのはホンダでした。

日産はカルソニックカンセイを売却するなど、系列の解体に積極的です。
多様な調達先を確保することで部品共通化のリスクを分散できるので、日系メーカーの中では、日産はむしろ部品共通化のリスクが低い方だと思います。

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ルノー日産が今後も世界一の座を守ると思う理由

以前書いた日産がトヨタを打ち負かす!? ゴーンCEOはビッグマウスか検証という記事と内容が少しかぶるのですが、今回は戦略的な面から、ルノー日産アライアンスが今後も世界一であり続けると思う理由について説明します。

マーケティングが強い

ルノー日産の最大の武器は、マーケティング力だと思います。
SUVブームに上手く乗れたのも、電気自動車(EV)や自動運転技術で先行できたのも、卓越したマーケティング力のおかげでしょう。

EVは都市とともに栄える

とくにEVは、ロンドンなどの諸都市が内燃機関自動車追放へと動いているため、今後ますます需要が高まるのは確実です。
世界は都市化が加速しており、2030年には49億人が都市で暮らすようになると推測されています。
都市では大気汚染が必ず問題になるので、今後は新興国の都市もEVを優遇するようになるはずです。
EVを得意とするルノー日産にとっては、願ったりかなったりの状況になりつつあります。

インフィニティの急成長

高級車ブランドであるインフィニティの急成長も、ルノー日産にとっては福音となるでしょう。
格差問題が取り上げられるようになって久しいですが、世界では高所得層が確実に増えており、高級車ブランドは軒並み過去最高の業績を叩き出しています。

そんな高級車ブランドの中でも、インフィニティは白眉です。
今年はアメリカ市場でアキュラを28年ぶりに追い抜く公算が大きく、アメリカンドリームの象徴であるキャデラックにも肉迫するほどの勢いを見せています。

世界でまんべんなく強い

日本にはたくさんの自動車メーカーがありますが、世界中でまんべんなく売れているメーカーやグループはごくわずかです。

たとえばスバルは、アメリカでは圧倒的な人気を誇るものの、ヨーロッパや中国ではあまり売れていません。
トヨタは世界の49ヶ国でもっとも人気のある自動車メーカーですが、インドではシェア1%程度とかなり苦戦しています。

ところがルノー日産アライアンスは、ルノーが欧州・ロシア・ブラジルで強く、日産は北米・中国・日本で強く、三菱自動車は東南アジアで強いという、理想的な組み合わせです。

世界の景気変動リスクを考えると、ルノー日産のような会社がベストでしょう。
アメリカ一辺倒のホンダやスバルなどは、アメリカがくしゃみをすれば、風邪をひいて寝込んでしまうのですから。

ライバルの足踏み

トヨタは豊田章男社長の下、品質向上のためにカンパニー制を導入しましたが、ソニーと同様に失敗すると思われます。
近年の自動車業界は変化が激しく、カンパニー制は合っていないからです

トヨタのカンパニー制は失敗する

カンパニー制というのは、人事や財務、投資なども、社内もしくは社外に設けられたカンパニー単位で管理し、カンパニーそれぞれが成長を目指すというものです。

カンパニー制の導入によってソニーが失敗したのは、カンパニーごとの競争意識によって、それぞれが連携できずなかったためでした。
そのため後発のiPodに、ウォークマンの市場シェアを奪われてしまったのです。
ソニーにはiPodのような製品を作る技術があり、iTunesのようなサービスに欠かせない音楽ソフトも抱えていました。
しかしカンパニー同士の競争意識によって、上手く行かなかったと言われています。

現在のトヨタも、かつてのソニーと似たような状況に陥っているようです。
EV開発の出遅れはその最たるものでしょう。
トヨタはハイブリッドカーの先駆者ですから、モーターの技術もバッテリーの技術もふんだんにあるのに、なぜかEVでは大きく出遅れているのですから。

VWにはヴィジョンが無い

ディーゼルゲートで大ダメージを受けたVWは、EVに注力すると宣言しましたが、バッテリーの調達方法がいまだに明確でないなど、明らかに動きが遅いです。

EV化の資金を調達すべく、アウディは2022年までに100億ユーロのコスト削減をすると発表しました。しかし営業利益率は8〜10%を目標にするとしているため、コスト削減の大半をR&D費用の減額によって賄うと見られています。

普通はEV戦略を発表する前に資金調達の方法を考えておくものだと思うのですが、泥縄式に資金調達計画を発表したところを見ると、ディーゼルゲートの批判をかわすために、付け焼き刃でEV戦略を発表したと見るのが妥当でしょう。

また、当初用意されると言われていた992型ポルシェ911のEV仕様が、結局開発凍結となるなど、グループ内でも足並みが揃っていません。

挙句の果てにはUBERのようなサービスをやるとか言い出してますし、最近のVWは「とりあえず新しいこと言っときゃいいだろ」感がすごいです。

明確なヴィジョンが無いのは、VWに強力なリーダーがいないためでしょう。
ディーゼルゲートを受けて緊急登板したポルシェ出身のマティアス・ミュラー氏に、不満を持つVWの幹部もいるはずです。

一方、ルノー日産には、カルロス・ゴーンという不世出の経営者がいるわけで、この点でもライバルに対して有利です。
ルノー日産の天下は、おそらく長期に渡って続くでしょう。

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