アストンマーチンの新規上場とそのリスク

テクノロジー・業界分析,批評

アストンマーチンがロンドン証券取引所へのIPO(新規上場)を計画しています。
実現すれば、時価総額は約51億ポンド(約7500億円)という規模になりそうです。

しかしブレグジットなど、同社を取り巻く不安定な状況を懸念する声もあります。
今回はアストンマーチンのIPOの詳細についてです。


アストンマーチンのIPOについて

IPOの概要

アストンマーチンは10月8日前後にIPOされる予定です。
10月3日ごろには株式の最終価格が決定されると見られています。

株式を売り出すのは、主要株主であるクウェートとイタリアのプライベート・エクイティ・グループです。
ダイムラーは5%を保有する大株主として留まります。

今回売却されるのは、全株式の25%です。
アストンマーチンは普通株1株当たりに、17.50~22.50ポンドの価格帯を設定。これは約10.0-12.7億ポンド(1470~1868億円)の取引規模に相当します。
企業価値は40.2~50.7億ポンド(5913~7457億円)になるそうです。

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最近のアストンマーチンの業績

アストンマーチンは2017年の第1四半期(1~3月)の決算において、10年ぶりに四半期決算で黒字を出した企業です。
2016年の販売台数は3687台に過ぎませんでしたが、2017年には5117台(前年比58%増)と躍進しました。

2017年通期の売上高は過去最高の8.76億ポンド(約1288億円)、税引前利益も8700万ポンド(約128億円)と、2016年の1億6300万ポンド(約240億円)の赤字から、黒字に転じています。

つまりアストンマーチンは、黒字になった直後に上場しようとしているわけです。
現在の主要株主であるプライベート・エクイティ・ファンドが、早く売りたがっているということなのでしょう。

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アストンマーチンを取り巻くリスク

ブレグジットのリスク

リスクの一つは、ブレグジットです。
アストンマーチンのサプライヤーの大部分は欧州大陸側に存在するため、ブレグジットの影響が大きいと考えられています。
商品移動の制限が、生産スケジュールに悪影響を及ぼす懸念があるからです。
最近のアストンマーチン車のギアボックスはドイツ・ZF社製ですし、エンジンもメルセデス-AMG製ですから、問題が発生すれば車の生産は不可能になってしまいます。

アストンマーチンのCEOであるアンディ・パーマー氏はブレグジットへの対応策として、滞りなく生産できるよう、エンジン等の主要コンポーネントの在庫を増やしたそうです。

また、関税の問題に関してパーマー氏は、EU側へ輸出する際にかかる10%の関税によって顧客を失っても、やはり関税によって英国内におけるフェラーリやランボルギーニの販売も減少するため、その顧客を拾い上げることでカバーできるとコメントしています。
つまり英国内での乗り替え需要に期待しているわけですね。

研究開発費のリスク

一部のアナリストは、アストンマーチン株の価格設定に懐疑的です。
というのも、アストンマーチンの業績が、巨額の研究開発費によってかさ上げされているからです。

日本のこれまでの会計基準では、研究開発費は費用として計上されてきましたが、IFRS(国際会計基準)では異なります。
基礎研究のコストにあたる研究費は、今までと同様に費用として計上しなければなりませんが、製品化するための開発費に関しては、資産として計上できるのです。

「我々は、アストンマーチンの非常に高い研究開発資本化率を注目し続けている」と語るのは、Evercore ISIのアナリストであるArndt Ellinghorst氏です。「これは短期間に報告された収益率と利益を高めている」

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フェラーリに続けるか?

アストンマーチンのIPOは、2015年にニューヨーク証券取引所に上場したフェラーリを参考にしています。

しかし、1台当たりの利益が1200万円に及ぶフェラーリとアストンマーチンでは、収益力にかなりの差があるのも事実です。
フェラーリはエンジンを内製していますが、アストンマーチンは外部から調達する方向に舵を切るなど、戦略にも大きな違いが見られます。

アストンマーチンがフェラーリのように成功するには、電動化の波に乗るしかないでしょう。
ほぼ全ての自動車メーカーはモーターやバッテリーを内製できませんから、自動車の電動化が進むほど、アストンマーチンと似たような境遇になっていくはずです。
アストンマーチンが既にEVの生産に着手しているのも、そのあたりに狙いがあるのかなと思います。

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出典・参考サイト

Aston Martin aims to steer round Brexit to $6.7 billion IPO – reuters.com

研究費と開発費は別のもの!? 開発費に資産計上で製薬大手の利益が軒並み急増へ 国際会計基準(IFRS)の衝撃 第6弾 – ザイ・オンライン

アストンマーティン、スポーツカー販売好調で黒字転換 2017年通期決算 – response.jp

アストンマーティン、10年ぶりに黒字計上 第1四半期決算 – response.jp

フェラーリ、変革に媚びず 1台当たり利益1200万円 – nikkei.com

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