4WDでなくてもSUVじゃないとダメな理由

テクノロジー・業界分析,批評




猫も杓子もSUV

ここのところ、自動車メーカー各社からSUVが立て続けに発売されています。アルファロメオも2種類のSUVを開発中とのこと。

アルファ・ロメオの小型SUVが路上テストを開始 -AUTOCAR DIGITAL

アルファロメオの他にも、マセラティ、ランボルギーニ、ベントレー、ジャガーなどの高級車ブランドがSUVを投入もしくは計画していますし、軽自動車でもスズキ・ハスラーやダイハツ・キャストなどが発売され、人気を博しています。

新しいフェアレディZがSUVになるとの噂もありますし……(涙)

次期フェアレディZはクロスオーバー?! -CarMe

SUVにすれば売れるとの判断があるのでしょう。ではなぜSUVが売れているのでしょうか? 今回はその理由を探っていきたいと思います。


そもそもSUVとは、クロスカントリー車のことだった

「パッジェロ! パッジェロ!」→タワシ

90年代に人気が爆発したのが、本格的なクロスカントリー車のパジェロでした。カックカクのボディのテールゲートに極太スペアタイヤをつけてるパジェロが、狭い日本の街中を走り回っていたのです。


四角いボディにまぁ〜るいライトでっせ

92年に放送が開始された「関口宏の東京フレンドパークⅡ」では、提供が三菱自動車だったこともあり、ゲームの賞品にパジェロが用意されていました。

賞品は、回転する円盤状のターゲットにダーツを投げることで決定される仕組みで、ターゲットにはゲストが希望する賞品名とパジェロの名が放射状に色分けされて書かれており、中央で最大面積を占めていたのがタワシでした。

パジェロコールを背に受け芸能人が投げたダーツが、タワシと書かれた場所にささる。芸能人ががっくりとうなだれ、視聴者はカタルシスを感じる。パジェロが視聴者層にとって「憧れの車」だったからこそ、ガッカリしている芸能人の姿にリアリティがあったわけです。

クロスカントリー車の定義

クロスカントリー車を定義づけるならば、ヘビーデューティー性が高さが絶対条件となります。つまりはダカール・ラリーのコースみたいな所を走れる車です。具体的には、ラダーフレーム等を用いた頑丈なシャシーと、角度の大きいアプローチアングルとデパーチャーアングルを備えている、耐久性と走破性に秀でた車、ということになります。

大自然は、遠きにありて想うもの

エスクードはクロコダイル・ダンディー

スズキ・エスクードが発売されたのは88年です。パジェロとともにRV(当時日本ではSUVをレクリェーショナル・ビークル=RVと呼んでいた)ブームの初期を支えました。

エスクードはクロスカントリー車の造りを色濃く残していましたが、「クロスカントリー・セダン」というコンセプトで開発されたため、乗用車然とした使い勝手の良い内装を備えていました。

コンパクトなボディと相まって、街乗りでも使いやすいクロカン車として市場から認知されたエスクードは、「ライトクロカン」という新ジャンルを切り開きました。

初代RAV4は、トヨタらしくない100点満点主義。

大自然を駆け抜けるための車が都市の若者にもてはやされるようになると、各社からシティユースを前提としたSUVが作られるようになりました。

トヨタが94年に発売したRAV4はモノコックボディを採用し、シティユースを前提としながらも、オフロードでの性能も追求した贅沢なフルタイム4WD車でした。この段階ではSUVはまだ都会に染まりきっておらず、街乗り重視のクロスカントリー車だったわけです。

破壊者CR-V

けれど翌95年にホンダから発売されたCR-Vが、クロスカントリー車の既成概念を根本から破壊します。CR-Vはスタンバイ式4WDにしてコストダウンし、ヘビーデューティー路線を完全に放棄したモデルとして登場したのです。CR-Vが売りにしていたのは都会的で洗練されたデザインや、室内の広さ、そして何より価格の安さでした。

SUV「筋肉つけると細身のジーンズ履けないし……」

シティユースではストップ・アンド・ゴーが多くなりますから、必然的に燃費が悪くなります。頑丈でも重たいSUVは燃費の面で圧倒的に不利です。

また普段使いでは、室内の広さは必須です。しかしラダーフレームはハシゴ型に組んだフレームの上にボディを載せているため、フロア高が高くなります。そして走行性能を考えるとルーフを高さにも限度があるため、結果としてラダーフレームの車の室内は狭くなります。

したがってシティユースを前提とすると、SUVはその筋肉ともいえる耐久性や走破性を諦めざるを得ません。

すると「どうせ乗用車っぽく作るならさ、いっそ乗用車をSUVっぽくした方が楽でよくね?」という、身も蓋もない考え方をする人が現れます。そうして作られたのが、クロスオーバーSUVです。

クロスオーバーの名門スバル

クロスオーバー車自体は70年代からあり、日本ではスバル・レオーネが代表的な存在でした。

スバルはその後もドミンゴ(軽ワゴン車とのクロスオーバー)、レガシィアウトバック(ステーションワゴンとのクロスオーバー)、フォレスターやXV(ハッチバックとのクロスオーバー)、エクシーガクロスオーバー7(ミニバンとのクロスオーバー)など、次々とクロスオーバー車を生み出します。

スバルがクロスオーバー車に早くから取り組んでいたのは、少ない車種を効果的に活用でき、しかも強みである4WDをアピールできるという「魔法の杖」だったからでしょう。

カイエン革命

オンロードでの速さを売りにするクロスオーバーSUVが、ポルシェ・カイエンです。「SUVとはいったい……うごごご!」と、思わず叫びたくなりますね。

カイエンはSUVというカテゴリーの自由度の高さを、他の自動車メーカーに知らしめました。車体の大きなSUVはデザインの自由度が高く、作ろうとすればスポーツカーにもタウンカーにもできるし、室内空間も確保しやすい。わがままな消費者を満足させるには、SUVは最適なカテゴリーなのです。

けれどひとつだけ問題がありました。経済性です。

SUVは大食漢?

SUVが重いほど、ドライバーの財布は軽くなる?

SUVは燃費が悪いというのが定説です。00年代の世界的な原油価格高騰の折も、アメリカ人がSUVやピックアップトラックからコンパクトカーに乗り換えているとのニュースが報じられていました。ハリウッド俳優がプリウスを買ったとか騒がれていましたね。

一昔前のSUVは、たしかに燃費が悪かったです。しかし直噴ターボやディーゼル、ハイブリッドなどを搭載したSUVの燃費は、決して悪くありません。

ディーゼルやハイブリッドは、SUVの燃費を向上させた。

SUV自体のダウンサイジングが進んだことも、燃費向上に寄与しています。コンパクトなSUVは取り回しも良く、近年ますます人気を高めていますね。

SUV人気はまだまだ続く

室内が広く、視界が良く、取り回しが楽で、走行性能が高く、しかも燃費が良くなったSUVは、向かうところ敵なしです。SUV市場は今後も成長が期待できます。

SUV市場の成長を阻害しているのは、他ならぬ自動車メーカーです。特に日本の自動車メーカーは「SUV=付加価値」と捉えており、セダンやハッチバックよりも強気の値付けをしています。

しかし実際には実用性の高さと走行性能を両立しやすいボディデザインだからこそ、SUVは人気があるのです。

よって自動車メーカー各社は、プレミアム感をアピールするためだけにSUVという記号を用いるのではなく、むしろ安価で使いやすいSUVも発売するべきでしょう。消費者は生活の全てを、できれば1台の車で済ませたいのですから。