ヒュンダイ・アイオニックはトヨタを殺す
プリウスキラーはスタイリングも好評
ヒュンダイ・アイオニックの実車の姿がスクープされました。
アイオニックにはハイブリッド、プラグインハイブリッド、EVの3種類が用意されます。BMW i3や日産リーフに対抗するモデルとしても考えられている野心作のようです。
新型プリウスのデザインが世界的に酷評されている中、ヒュンダイのスタイリッシュなハイブリッドカーは「プリウスキラー」であるだけでなく、「トヨタキラー」になるかもしれません。
正式な価格と燃費が判明(2016/01/09追記)
朝鮮日報によると、アイオニックの韓国価格は225万円〜273万円、燃費は22.4km/Lだそうです。
燃費が悪いように見えますが、新型50プリウスのアメリカEPA燃費は22.1km/L(52mpg)なので、わずかながら新型プリウスを上回るレベルです。
新型プリウスの価格レンジは242.9万円〜319.9万円ですから、グレードのボトムとトップのどちらにおいても、アイオニックはプリウスよりも1割ほど安い価格設定になっています。ただし装備内容が不明なので、お得かどうかは定かではありません。
装備内容が同等だとすれば、アイオニックの価格競争力は韓国製電池によるところが大きいと推測されます。詳細は2-a 理由その1 技術的優位性を失ったをご覧ください。
目次
躍進するヒュンダイ
日本人でヒュンダイ車に良いイメージを持つ人は少ないでしょう。日韓関係は常にギクシャクしていますし、ヒュンダイ車に乗る機会も無いからです。
しかし海外ではヒュンダイ車の評価は高く、傘下のキアとともにアメリカやヨーロッパでシェアを伸ばし続けています。
アメリカ市場の自動車メーカー別シェア
わずかに飛び出ているのが日本の自動車メーカー、外側に大きく飛び出ているのが韓国の自動車メーカーです。マウスオーバーするとメーカー名とシェアが表示されます。
アメリカでのヒュンダイとキアのシェアを合計すると8%となり、日産と肩を並べるレベルです。
EU市場の自動車メーカー別シェア
グラフの見方は先程と同じです。ただしこちらのグラフはグループ別になっているので注意が必要です。つまりアウディやポルシェのシェアは、VWのシェアに含まれているということです。
EU市場ではヒュンダイとキアが強く、日本勢はシェア争いで完全に負けています。ルノー・日産はヒュンダイ・キアを上回っていますが、ルノーの力が大きいことは言うまでもありません。
円安でヒュンダイの勢いが鈍るのではないかという観測もありましたが、ヒュンダイの新型SUVである「ツーソン」は、ヨーロッパで記録的な売上を見せており、一時の不調から脱した感があります。
All-New Tucson Fastest-Selling Hyundai Across Europe
日本の自動車メーカーに衰退の兆し
筆者には日本の自動車メーカーが、日本の家電メーカーと同じ轍を踏みつつあるように思えてなりません。衰退する理由を以下に列挙します。
理由その1 技術的優位性を失った
00年代はハイブリッドカーの時代でした。イラク戦争や中国の経済成長により原油価格が高騰したため、人々がこぞって低燃費な車を買い求めたからです。
しかし中国の経済成長が鈍化し、アメリカが原油輸出を解禁した今後は、長期的に原油安の傾向が続くと思われます。
ハイブリッドカーは確かに燃費が良いのですが、車両本体価格込みの経済性で見ると直噴ターボに劣ります。また、環境性能ではEVに敵いません。要するに、中途半端な車なのです。
日本の自動車メーカーは、直噴ターボ技術で欧米メーカーの後塵を拝しています。そしてEV開発では、韓国家電メーカーにリチウムイオンバッテリー世界シェアトップの座を奪われたことが問題となります。
「ヒュンダイ・アイオニック」が、なぜプラグインハイブリッドやEVの準備もしているのか? それはバッテリー技術とシェアで優位に立った韓国家電メーカーと協力すれば、競争力を容易に高めることができるからです。韓国は技術競争で優位に立っているのです。
理由その2 グローバル化を徹底できていない
日本の自動車メーカーは世界のあらゆる場所でシェアを獲得できているわけではありません。大きなシェアを獲得できているのは、日本とアメリカだけです。
それでも20世紀のうちは、日米でシェアを獲得できていれば問題ありませんでした。世界のGDPシェアの半分近くを、日米2カ国だけで占めていたからです。
しかし先進国の成長率が鈍化し、新興国の経済成長率が伸びるにつれ、日米でシェアを獲得するだけでは、外国のグローバル企業に対して優位に立てなくなりました。現在では日米のGDPシェアを合わせても、3割に満たないほどです。
韓国の家電メーカーは新興国市場を金城湯池として、日本の家電メーカーを打ち破りました。それは新興国市場の消費者が家電製品を買えるだけの経済力を身につけたタイミングで、韓国家電メーカーが適切な値段の商品を供給したからにほかなりません。
新興国市場はさらに経済発展し、消費者たちはマイカーを買い求めています。しかし日本の自動車メーカーは、新興国市場で伸び悩んでいます。スズキがインド市場でシェア1位なのがせめてもの救いです。
かつて日本の家電メーカーは、成長著しい新興国市場に力を入れなかったために、「ガラパゴス化」して競争力を失いました。アメリカのビッグ3はアメリカ市場で「ガラパゴス化」し、経営破綻に追い込まれました。日系自動車メーカーも同じ道を辿っているように見えます。
理由その3 デザイン力とブランド力の欠如
トヨタ・プリウスは「ugly」を連呼され、「ナードの乗る車だ」とまで言われています。スバル車のデザインに関しては、アメリカのユーザーからも諦めの声が聞こえてきます。ホンダのデザインは日米のどちらにおいても下品との評価です。
客は「技術」ではなく「素晴らしい体験」を欲している
日本企業は事あるごとに「技術力」を前面に押し出します。しかしその技術力をユーザーニーズを合致した形で上手く表現できなければ、顧客から理解されることはありません。
初代iPhoneが発表されたとき、日本の家電メーカーは「あんなのはウチでも作れる」と高をくくっていました。ところがiPhoneのユーザーエクスペリエンスを再現した日本企業は、ついに現れませんでした。
時間を含むあらゆる表現領域に制限がある以上、デザイン力は技術力以上に重要です。スマホの小さなディスプレイ上でストレスなく操作できるよう、iPhoneのインターフェイスは考え抜かれています。
機能を集積させただけでは、ゴチャゴチャして使い勝手が悪くなってしまいます。しかし機能を集積させなければ、便利な商品にはなりません。そのトレードオフを解決するのがデザイン力なのです。
自動車のインターフェイスデザインにおいて、ヒュンダイは優位に立っています。
彼らは自動車の取扱説明書にも、イノベーションをもたらそうとしています。
デザインは客を選ぶ
筆者はデザインにもう一つの作用があると考えています。それは「客を選抜する力」です。
例えばホンダのようなデザインの車は、マイルドヤンキー層にウケが良いと一般に思われています。
実際の客層はともかく、ターゲット層以外からマイルドヤンキー向け=自分向きではないと思われることで、客層は自然と絞り込まれていきます。
絞り込まれた顧客は、打てば響く優良顧客の可能性が高いですし、顧客対応のコスト削減にもなります。顧客自らが熱心に情報収集してくれるからです。
デザイン+ヒストリー=ブランド
デザインの力で打てば響く優良顧客が選抜されたとき、デザインがもたらすユーザーエクスペリエンスを通じて、ブランドのヒストリーを顧客たちに強く印象づけることが可能となります。
そして顧客がブランドヒストリーを熱心に広める語り手となることで、ブランド力が拡大していくものと考えられます。つまりデザイン力が無いと熱心な語り手を得られず、ブランド力は向上しないのです。
日本車にいまいちブランド力がないのは、デザイン力に劣るためです。最近のマツダがデザインの力で「(見込み)顧客にマツダを語らせている」のを見れば、ブランド力とデザイン力の補完関係がよくわかると思います。
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