レースのホンダも今や昔……負けてばかりの2015年

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勝てなくなったホンダ

かつては勝つのが当たり前だった

画像の出典: By wileynorwichphoto (Flickr: Senna @ USGP 1991) [CC BY 2.0], via Wikimedia Commons


ホンダはモータースポーツに熱心な会社として有名ですが、こと4輪モータースポーツにおいては、ここのところ苦戦続きです。

D=ドライバーズタイトル C=コンストラクターズタイトル M=マニュファクチャラーズタイトル T=チームタイトル


レースシリーズ 直近のタイトル獲得年 直近5年間のタイトル獲得数
F1 1991年(D, C) 0回
WTCC 2013年(M)
インディカー 2013年 2回
SUPER FORMULA 2013年(D) 1回
SUPER GT 2010年(D,T) 0回

何とか戦えているのはインディカーくらいで、それ以外は目も当てられない状況です。ホンダは去年に引き続き、参戦している全てのシリーズで無冠に終わりました。

なぜこんな状況になったのか? 上記5つのシリーズにおける今年のホンダの戦いぶりを振り返りながら、ホンダレーシングの問題点を探りたいと思います。


目次

  1. 【F1】サイズゼロで苦戦
  2. 【WTCC】シトロエンにシリーズを支配される
  3. 【インディカー】唯一善戦しているカテゴリー
  4. 【SUPER FORMULA】夏場のレースが鬼門
  5. 【SUPER GT】ハイブリッドを言い訳にするな
  6. ホンダが負ける理由

【F1】サイズゼロで苦戦


画像の出典: honda.co.jp


今季の成績

チーム名 獲得ポイント 順位
マクラーレン・ホンダ 27pts. 9位

革新的なコンセプトと持て囃された「サイズゼロ」も、フタを開けてみればトラブル続きでまともに走れず、エースドライバーから「GP2エンジン!」と揶揄されてしまう始末でした。


画像の出典: en.f1i.com


古い画像なので細部が異なるのですが、レイアウト自体は同じです。

画像を見ると、ホンダのレイアウトはタービンとMGU-Hが近く、しかもコンプレッサーがVバンク内に存在するため、その冷却が非常に難しいことがわかります。

ホンダはサイズゼロコンセプトを継続するそうなので、来シーズンも熱害に悩まされると思います。

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【WTCC】シトロエンにシリーズを支配される


画像の出典: honda.co.jp


今季の成績

チーム名 ドライバー 獲得ポイント 順位
カストロール・ホンダ G.タルキーニ 197pts. 5位
Zengő Motorsport N.ミケルス 193pts. 6位
カストロール・ホンダ T.モンテイロ 177pts. 7位

ホンダの前にいるのはシトロエンだけですが、その壁は厚く、ホンダが勝てるのはリバースグリッドとなるレース2だけという状況です。

レース1・レース2共に表彰台を獲得できたのは、ロシア(モスクワ・レースウェイ)、ポルトガル(ヴィラ・レアル・ストリートコース)、日本(ツインリンクもてぎ)の3イベントだけでした。

3つのコースに共通するのは、長いストレートと高速コーナーが少ないということです。逆に言うとシビックWTCCはそのようなコースでしか戦えないのかもしれません。

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【インディカー】唯一善戦しているカテゴリー

最終戦で惜しくもタイトルを逃したグレアム・レイホール

画像の出典: honda.co.jp


今季の成績

チーム名 ドライバー 獲得ポイント 順位
RLLレーシング G.レイホール 490pts. 4位
アンドレッティ・オートスポーツ R.ハンターレイ 436pts. 6位
アンドレッティ・オートスポーツ M.アンドレッティ 429pts. 9位
アンドレッティ・オートスポーツ C.ムニョス 349pts. 13位
A.J.フォイト 佐藤琢磨 323pts. 14位

グレアム・レイホールは最終的に4位に終わってしまいましたが、これは最終戦ソノマだけポイント2倍という意味不明なルールによるところが大きいので、実質的にはシボレー勢と互角にやり合えていたと筆者は思います。

ホンダ製エアロキットの開発も序盤こそ躓きましたが、終盤はシボレー勢に追いつきつつあったので、来シーズンは開幕から期待できると思います。佐藤琢磨選手のインディカー2勝目は十分可能なはずです。

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【SUPER FORMULA】夏場のレースが鬼門

最終戦で2015年ホンダ勢唯一の勝利を上げた山本尚貴

画像の出典: honda.co.jp


今季の成績

チーム名 ドライバー 獲得ポイント 順位
無限 山本尚貴 26pts. 5位
ダンディライアン 野尻智紀 19pts. 7位
ナカジマレーシング 中嶋大祐 7pts. 10位
ダンディライアン N.カーティケヤン 6pts. 11位
リアルレーシング 伊沢拓也 4.5pts. 13位
ドラゴ・コルセ 小暮卓史 2.5pts. 15位

エースの山本尚貴選手がタイトル争いに加われないのでは、ハッキリ言ってお話になりません。完全にパワー負けしています

ホンダエンジン勢が調子を崩すのは夏場です。7〜9月に行われる第3〜5戦でホンダ勢が獲得したポイントは、わずか11点でした。

ポールポジション獲得者に与えられる1点まで含めると、1レースで与えられる総得点は40点ですから、夏場の3レースでホンダが獲得できたのは11/120、9.16%に過ぎません。F1と同じくスーパーフォーミュラでも、ホンダエンジンは冷却に難があるようです。

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【SUPER GT】ハイブリッドを言い訳にするな


画像の出典: honda.co.jp


今季の成績

チーム名 ドライバー 獲得ポイント 順位
RAYBRIG 山本 / 伊沢 60pts. 3位
KEIHIN 塚越 / 武藤 39pts. 8位
ドラゴ モデューロ 小暮 / ターベイ 26pts. 12位
ARTA 松浦 / 野尻 10pts. 14位
EPSON 中嶋 / バゲット 4pts. 15位

第6戦SUGOでRAYBRIGが優勝した、それだけが救いでした。

GT500で唯一のハイブリッドマシンであるNSX CONCEPT-GTは、デビューイヤーのような信頼性の低さに悩まされることは無くなったものの、絶対的なスピードが不足したままです。

ホンダのGTプロジェクトリーダー・松本雅彦氏は、事あるごとに「ハイブリッドに課せられる57kgのハンデ」を口にします。しかしハイブリッドが不利だと思うのならば、トヨタや日産のように使わなければいいのです

NSXは最高速の高さと、そこまでの到達時間の短さに強みがあります。ハイブリッドの恩恵は明白です。

よってNSXをコーナリングマシンに仕上げたいのなら、ハイブリッドを外せばよいでしょう。車重が軽くなれば、MRならではの回頭性の良さを引き出せるはずです。

逆に直線番長で勝負するのならば、ハイブリッドアシストを使用可能なエンジン回転数(現在は7500rpm以上)を低くしてくれと主張すべきです。

ハンデ重量を軽くしろとの主張は、ストレートの速さを温存しながらコーナリングでも優位性を得ようという、ホンダ側の隠れた狙いが透けて見えます。トヨタと日産も気づいているでしょうから、ホンダの主張が受け容れられることはないでしょう。

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ホンダが負ける理由

ひとことで言うと、柔軟性の欠如がその理由です。

遮二無二我が道を行く姿勢は、かつてはホンダを成功へと導きました。しかし今では、そのことが逆に足を引っ張っています。

変化したレースシーン

昔のレースは規制が緩く、技術者たちのアイデアを自由に盛り込む余地がありました。

そのような時代には、自分たちの技術を信じ抜く姿勢(=職人魂)が革新的なアイデアを形にし、サーキットでの勝利をもぎ取ることも珍しくありませんでした。ホンダのバンク角80度のV6(F2、もしくは第2期F1のターボ。理想は60度だがシャシーマウント上のメリットを重視)などは、その典型例でしょう。

規制強化が奪ったもの

しかし安全性の向上やコストダウンのために技術的な規制が厳しくなると、レーシングカー開発の現場から自由が失われていきました。

近年のレーシングカー開発は、規制でがんじがらめにされています。規制が勝てるマシンを決めていると言っても過言ではありません。このような環境下では理想を追求するのではなく、入試問題の答え合わせのごとく規制下における正解を素早く見つけ出す必要があります

「ロマンチストお断り」な時代

ホンダF1のサイズゼロは、きちんと機能しさえすれば、ベストなF1エンジンになれるだけのポテンシャルはあると思います。しかし問題は、その理想の実現に何年かかるのかということです。

規制はころころ変わりますし、予算にだって限界があります。そんな中で実現に何年かかるのか、いくらかかるのかわからないアイデアを形にしようとするのは、自殺行為に等しいものです。

規制が緩く、コストもそれほどかからず、のびのびと技術開発できる時代もありました。お金が無くても技術とアイデアでそれをカバーし、世界の檜舞台に立つことが可能な時代もありました。ホンダはそんな時代の寵児でした。

旧き良き時代は二度とやってこない

しかし今のレース界は、理想を追求する場所ではありません。いかに規制を利用するか、抜け道を探すかというゲームです。

メルセデスはトークンによる開発規制を盾にし、自らのアドバンテージを保っています。ターボレギュレーション下での正解を、いち早く見つけ出したからこそできることです

もしホンダがターボ初年度から参戦していても、サイズゼロを追求していたら、開発規制を味方につけることはできなかったでしょう。自分たちの理想を追求する姿勢が、ホンダの足を引っ張っているのです

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