あなたが嘘つきでないなら、二重査定(再査定)に従う必要はない
二重査定で検索すると、なぜか「買取店側の言い分にも一理ある」「ユーザー側にも瑕疵担保責任があるから」と書かれているページが数多くでてきます。
そして「JADRI会員は二重査定(再査定)が禁止されている」として、JADRI会員のみが登録しているという一括査定サイトのアフィリエイトリンクへと誘導しているのです。
結論はタイトルの通りです。売却する車両が普通に使用でき、修復歴等についてあなたが虚偽の申告をしていなければ、二重査定(再査定)に従う必要はありません。契約書に書かれている金額を請求しましょう。その根拠については以下で説明します。
トップ画像のモデル: 朽木誠一郎
目次
- 1.二重査定(再査定)とは?
- 1-1.二重査定の典型的な手口
- 1-2.瑕疵担保責任とは?
- 1-3.キャンセル料は払うべき? 金額は適正?
- 2.JADRIとは?
- 2-1.JADRI会員だけの査定サイトはあるのか?
- 2-2.JPUCとは?
- 2-3.「自動車買取モデル約款」とは
- 3.国民生活センターの見解
- 4.被害に遭わないための予防策
二重査定(再査定)とは?
ユーザーと買取店が売却契約を締結し車両を引き渡した後で、買取店側が「点検したら最初の査定時にはわからなかった問題を発見した」などと称し、最初に提示した買取金額の減額する行為のことです。引き渡し前と引き渡し後に査定を行うことから、二重査定とか再査定と呼ばれています。
二重査定の典型的な手口
- 査定時には発見できなかったキズやヘコミがあった。
- 新たな事故歴・修復歴を見つけた。
- 事故歴や修復歴は正しく申告されたが、思った以上に状態が酷かった。
などと主張し、契約書に書かれている査定額を減額するのが典型的なやり方です。
そしてユーザー側(売り手側)が反論もしくは解約を求めると、以下のように対応してきます。
- 「売り手側には瑕疵担保責任があるので、査定額の減額に応じなければならない」と主張する。
- 「解約するならキャンセル料を払え。払わないなら車両の引き渡しには応じない」と言い、高額なキャンセル料を請求してくる。
瑕疵担保責任とは?
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。(民法第570条)
隠れた瑕疵の隠れたとは、買主(買取店側)が一般的に要求される程度の注意をもってしても発見できないことを指します。ただし買主は善意※1かつ無過失でなければなりません。
瑕疵は、通常有するべき品質や性状を欠いていることを言います。自動車ならば故障や破損が該当するでしょう。
瑕疵担保責任とは、「隠れた瑕疵」を「担保する」「責任」ですから、売主が負うものです。
しかし二重査定(再査定)の場合は、買取店(買主)の派遣した査定士が、車をチェックした上で査定額を提示しているわけですから、善意かつ無過失とは言えません。
なぜなら専門家である買主が営業の目的で査定する以上、消費者が買主である場合に比べて、より高度な注意義務が課せられるはずだからです。※2
※1 法律用語では「事実を知らないこと」を善意という。
※2 参考: 国民生活センター | 3カ月近くたって契約解除を申し入れてきた中古車買取専門店
キャンセル料は払うべき? 金額は適正?
二重査定をされたのでキャンセルを申し出ると、契約書に書かれたキャンセル料(解約料)に関する条項を盾に、法外な金額を要求してくる悪質な業者の存在が報告されています。
しかしこれに関しても、消費者契約法第9条1号で定められた「平均的損害」以上の金額を、支払う必要はありません。
次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一、 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
(消費者契約法第9条1号)
ここでいう「平均的損害」とは、同じ事業者の同種の契約を解除した際を想定し、その場合に生じる損害額の平均のことを指すと解されています。つまり業界平均ではありません。
車の売却契約を解除した際の適正なキャンセル料については判例があります。また、業者が請求できるのは、あくまで「契約が進行した場合に備えての準備がムダになった費用」だけだとされています。
売主が無理由で解約可能な契約の場合は、買主は逸失利益(業者が車を買い取っていれば発生したはずの利益)までは請求できないというのが、国民生活センターの見解です。※3
JADRIとは?
「JADRIの会員企業なら安全」とよく書かれているJADRIとは、
- ユーザーにとって真に有益な情報を提供し続けます。
- 優良な事業者のみを会員とすることで、中古車流通業界の質の向上に寄与し、ひいては、市場規模の拡大を目指します。
- 共同事業の推進により「共に勝つ」事業環境を創造します。
JADRI公式ページ「JADRIの概要」より
たしかに「会員は優良な事業者のみ」と定められています。しかし、どのように優良な事業者を選抜しているのでしょうか?
JADRIのページにある会員企業の選抜基準らしきものは、「JADRI入会について」のページにある「入退会規定」のみです。以下に引用します。
入退会規定
- 既存会員からの紹介があること
- 設立5年以上の法人であること
- 原則展示場保有、展示場無しは協議事項
- 過去5年以内に、関係機関による指導、摘発、各媒体からの出稿・取引等の停止、オートローンその他金融機関との取引停止等の処分を受けていないこと
- 店頭、雑誌、WEBで修復暦表示など、自公協の指示通りの表示を遵守している
- 法人及びその出資者又は役職員について、反社会的勢力との関係のないこと
- JADRI が定めた開示項目(一定の実績、売買契約書など)を開示できる事業者であること
JADRI公式ページ「JADRI入会について」および一括査定.comより
消費者からの苦情や訴訟などは入退会の基準ではないようです。
JADRI会員だけの査定サイトはあるのか?
一括査定.comがJADRI会員だけの査定サイトとなります。なにしろJADRIが運営しているサイトなので。
その他の査定サイトが貼られている場合がありますが、JADRIの会員企業数は63社(2016年6月時点)しかありません。ほとんど査定サイトは、JADRI会員以外も含まれていると見て間違いないでしょう。
JPUCとは?
JADRIの関連団体です。自動車買取業界の健全化を進め、一般消費者への安全・安心なサービスの提供を実現するために設立されました。
JPUCの活動の中でもっとも重要なものは、車売却消費者相談室(電話: 0120-93-4595 平日9時〜17時)と買取業者に対するガイドラインの制定の2つです。
「自動車買取モデル約款」とは?
前者は読んで字のごとくなので説明はしませんが、後者に関してはガイドライン「自動車買取モデル約款」の中から、二重査定に関係がありそうな部分を抜粋します。
第5条(支払い条件等)
1.買主は、本契約書表面記載のとおり売主から買主への第 3 条に基づく契約車両の引渡し及び第 4 条に基づく移転登録書類等の引渡しがいずれも完了した後、売主及び買主が合意した期限内に売買契約金額より、次の各号に定める支払いまでに買主に判明した売主が負担すべき債務(以下「未納金等」という。)を差し引いた金額(以下「支払代金」という。)を売主に対して本契約書表面記載の方法により支払うものとする。
但し、支払い後に新たに未納金等が判明した場合における、買主の売主に対する損害賠償その他の請求(第 8 条第 3 項、第 8 条第 5 項に基づく請求を含む。)を妨げるものではない。
- 契約車両にかかるローン残債総額
- その他前号に定めるものの他、支払いまでに買主に判明した売主が負担すべき契約車両にかかる債務
2.買主は、売主の本契約違反により生じた費用、損害額以外について前項の支払代金債務と相殺してはならない。
3.売主は、買主が第 1 項の支払期限までに支払代金を支払わない場合、本契約を解除することができる。この場合、買主は契約車両について契約車両の引渡し時の原状に復する義務を負う。
第5条だけだと、二重査定が禁止されていないように読めます。実際JPUC(JADRI)会員企業であっても、二重査定は禁止されていないんです。禁止されていると書いているサイトさんがありますが、おそらくJPUCのガイドラインを読んでいないのでしょう。
しかしJPUCは、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求に一定の制約を設けています。それが第8条1項です。
第8条(契約の解除)
1.次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、買主は売主に協議を求めるものとし、両者で十分な協議を行ってもなお合意に至らなかった場合又は協議が不能なときは、買主は売主に催告し(第 5 号及び第 6 号の場合、催告は不要)本契約を解除することができる。
- 売主が、第 3 条の定めに従い車両引渡期限までに契約車両を引き渡さないとき
- 売主が、第 4 条の定めに従い書類引渡期限までに移転登録書類等を引き渡さないとき
- 売主が、買主に対し、金銭債務を負担している場合(買主が売主に代わり契約車両にかかる未納金等を支払った場合等)で当該債務の弁済をしないとき
- 前条第 2 項の担保権等を消滅させる処理がなされないとき
- 契約車両につき、中古自動車取引業界における一般的かつ標準的な車両検査(修復歴の基準については一般財団法人日本自動車査定協会が定める基準、走行距離に関する瑕疵においては一般社団法人日本オートオークション協議会への照会を実施)において判明しない瑕疵があることが判明したとき
- 本契約締結日から第 3 条の契約車両の引渡しまでの間に契約車両に買主の責めに帰さない破損等の変化が生じたとき
二重査定による損害賠償請求の対象となるのは、「一般的かつ標準的な車両検査」において「判明しない瑕疵」のみだとしています。つまり査定見落としに該当するものは対象となりません。
査定見落としに該当するもの
- 現車、車検証、点検整備記録簿を一見すれば、分かるもの
- 傷、凹み、補修跡、板金跡、骨格部分の修正や損傷に当たらない外装ダメージ
「査定時に上記の問題を見つけられなかった場合は、損害賠償請求の対象としない」というのが、JPUC会員企業のガイドラインのようです。買取店側の注意義務違反ということでしょうか。
よってトップ画像のように「後から凹みが見つかった」というケースでは、再査定(二重査定)の結果に従う必要はないというわけです。
国民生活センターの見解
国民生活センターの相談事例も見てみましょう。
【事例9】事故車と言われ、引き渡し後に減額された
新車を買うために今の車の査定を申し込んだ。3日前、自宅に来てもらい査定してもらったら22万円で買い取ると言われ、その場で契約し車を引き渡したが、2日後業者から「隣の県のオークション会場に運び点検したら、事故車と判明したので半額での買い取りになる」と言われた。
3年前に6年落ちで購入したが、そのときには事故車だとの話はなく自分も事故を起こしたことはないと伝えたが、 業者は、「納得がいかなければキャンセルするが、運送費3万円を解約料として払え、払わないと車は返さない」と言う。
(2011年11月受付 30歳代 男性 給与生活者 静岡県)
典型的な二重査定のトラブルですね。それに対する国民生活センターの見解は以下のとおりです。
(5)契約後の車両の瑕疵を理由にした契約の解除や減額は、原則として認めなくてよい
査定して契約後、「よく調べたところ車には事故歴があることが判明したので、買い取り額を減額する」「修復歴があることがわかったので解約する」などと、事業者から、減額や解約を求められるこ とがある。
車両に「隠れた瑕疵」があった場合、事業者は消費者に対し、瑕疵担保責任に基づいて損害賠償および契約解除を求めることができる。しかし、事業者は査定のプロであり、通常の注意を払えば修復歴などは発見することができるものであり、事業者側に過失があったということができる。このように過失があった場合には、瑕疵担保責任を求めることはできない。
また、「契約車両に重大な瑕疵の存在が判明した場合には、契約を解除することができる」といった、事業者の過失の有無に関わらず解除できる条文が契約書にあっても、この条文は消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)によって無効とする主張が可能である。車両の瑕疵を理由にして、契約後に買い取り価格を減額された場合には、この考え方をもとに交渉すること。
国民生活センターの見解も、JPUCのガイドラインとほぼ同じですね。
被害に遭わないための予防策
以上の情報をまとめると、二重査定自体は違法ではないものの、買取店が損害賠償を請求できる「隠れた瑕疵」は、現車や整備記録簿、外装などを見てもわからない範囲に限定されており、売主(車のオーナー)が通常の使用で気づかないような故障は、「隠れた瑕疵」に該当しないということになるでしょう。
もちろんこれらことは、売主が車の状態を正しく伝えていた場合の話です。車の状態に関して嘘をついていた場合は、損害賠償を請求されます。
被害に遭わないためには
JADRI(=JPUC)会員企業は信頼できると考えてよいでしょう。ガイドラインが国民生活センターの見解とほぼ一致するからです。
しかし全ての買取店が会員というわけではありませんし、JADRI会員でもネット上では評判の悪い企業があるのも事実です。
そこで車の売却でトラブルに巻き込まれないためには、次の条件を満たす買取店を選びましょう。
- JPUC(=JADRI)会員企業である
- ユーザーレビューで評判が良い
- 解約や損害賠償に関する契約条項を尋ねると、きちんと説明してくれる(=適当にお茶を濁さない)
数ある査定サイトの中で最も細かくユーザーレビューをチェックできるのは、やはりGoo買取でしょう。Goo買取の詳しい使い方は、以下のリンク先で解説しています。
無料査定で売却する前に「Goo買取」で中古車買取価格の相場を知ろう!
3つめは実際に査定が始まってからのことになりますが、解約や損害賠償の条件を説明をしない業者は信用すべきではないですし、それらの説明を受ける前に車を引き渡してはいけません。引き渡しは十分に納得してからにしましょう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。以下の記事もぜひご覧ください。