テスラ・モデルSが高級セダン市場を制圧 EVが主役の時代に

テクノロジー・業界分析,批評

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テスラが絶好調です。テスラ・モデルSは2016年の第3四半期(Q3)に、アメリカの大型高級セダン市場で大きく販売台数を増やしたのです。

アメリカでは2016年の春にマイナーチェンジされたとはいえ、モデルS自体は2012年6月に発売された車種です。4年も経過した大型セダンが、なぜここにきて売上を伸ばしているのでしょうか?

画像の出典: netcarshow.com


テスラ・モデルSの販売状況

2016年Q3におけるモデルSの販売台数は、9156台でした。2015年Q3は5,756台でしたから、実に+59%もの販売増です。

車種名 2016 Q3 2015 Q3 増減(%) シェア(%)
テスラ・モデルS 9156 5756 +59 32
M-Benz Sクラス 4921 5414 -9 17
BMW 7シリーズ 3634 1140 +219 13
M-Benz CLSクラス 1983 1815 +9 7
マセラティ ギブリ 1541 N/A N/A 5
アウディ A7 1532 2132 -28 5
レクサス LS 1235 1569 -21 4
ポルシェ パナメーラ 1143 1393 -18 4
BMW 6シリーズ 1096 834 +31 4
アウディ A8 1010 1300 -22 4
ジャガー XJ 903 1064 -15 3
マセラティ クアトロポルテ 702 N/A N/A 2
合計 28856 22417 +29 100

N/A = Not Announcement

2015年Q3の時点では、テスラ・モデルSとメルセデス・ベンツ Sクラスは肩を並べていましたが、たった1年でモデルSが頭一つ抜け出てしまいました。1/3以上のシェアを獲得し、ぶっちぎりのトップです。

BMW・7シリーズも大きく伸びていますが、これはフルモデルチェンジ直後だからでしょう。意外とマセラティが健闘していますね。

心配なのは、アウディ、レクサス、ポルシェ、ジャガーです。セグメント全体の販売台数が29%も伸びているにも関わらず、大きく売上を落としてしまっています。新規の顧客を惹きつけることができていないのです

このセグメントに新たな顧客を呼び込んでいるのは、おそらくテスラでしょう。ラグジュアリーで、スポーツカーより加速が良くて、ゼロエミッションなモデルSのキャラクターは、幅広い顧客を惹きつけているのだと思います。

マイナーチェンジで投入されたハイパワーな「P100D」や、リーズナブルな「P60」の追加によって、モデルSのキャラクターはより明確になった感じです。それによって既存グレードの美点が再確認され、モデルS全体の販売を押し上げたのではないでしょうか。

逆に燃費の良さが売りだったレクサスや、テクノロジーとデザインで未来を象徴してきたアウディ、スポーツ性能を武器にしてきたポルシェやジャガーなどは、テスラにお株を奪われてしまったのでしょう。

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電気自動車の時代がついに到来した

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画像の出典: netcarshow.com

以前新型プリウスはなぜ売れていないのか?という記事を書いたのですが、その原因の一つとして、原油安を挙げました。

しかし原油安を物ともせず成長を続けているテスラを見ると、「ハイブリッドカーの時代は終わった」と思えてくるのです。「もう電気自動車(EV)が主役だ」とも。

そしてEVの普及速度は、今後ますます加速していくことでしょう。都市の大気汚染問題を解決すべく、行政がEVの導入を促進する流れができつつあるからです。

イギリスが検討中の「クリーンエアゾーン」とは?

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バーミンガムの空

画像の出典: aelydnic via Good Free Photos

クリーンエアゾーンは、EV優先のジャンクション(交差点や合流地点)のことです。具体的には一方通行をEVだけがバイパスできるようにしたり、交差点などで内燃機関自動車だけをフィルタリングし、EV優先で走れるエリアを作り出すのだといいます。

クリーンエアゾーンの導入を検討しているのは、バーミンガム、サウサンプトン、ノッティンガム、ダービー、リーズの5都市です。

ヨーロッパ諸都市の大気汚染基準を満たすためには、クリーンエアゾーンが必要だと考えられています。最高裁判所の判決が出ているので、行政は対策を取らなければならず、その一案として出てきたプランのようですね。

イギリス政府は、EVやPHVの普及に3500万ポンドを投資するとしています。クリーンエアゾーンと併せて、EVの普及は今後ますます進むでしょう。

新興国もEVが主流になる?

中国やインドでは、都市の大気汚染が深刻です。にも関わらず、改善の兆しは一向に見られません。環境基準を厳しくすると製造業のコスト増となり、競争力が落ちてしまいますから、新興国の政府は対策に及び腰なのです。

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キレイな空気はタダじゃないと思い知らされる

画像の出典: Peter Griffin via publicdomainpictures.net

しかしEVが十分に安くなれば、新興国の政府はこぞって導入するでしょう。

大気汚染による死者数は年間550万人※1と推定され、犠牲者の55%が中国とインドに集中しています。その損失額と比較すれば、都市にEVを導入する方が安上がりだからです。

※1 カナダ・ブリティッシュコロンビア大学の研究による。

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画像の出典: jp.wsj.com

EVを導入するだけなら、産業へのダメージを最小限に抑えられます。しかもカリフォルニア州のZEV規制のような「EV・PHVの販売を一定台数義務付ける」法律を作るだけで実現可能なのです。

自動車の排気ガスは、大気汚染の20〜40%を占めるに過ぎません。しかしイギリスのクリーンエアゾーンのようなやり方を用いれば、多くの人が住む都市中心部の大気汚染を、大幅に改善できるはずです。

次の覇権争いはEVで行われる

中国やインドのような巨大市場がZEV規制を導入したときのインパクトは、計り知れないものとなります。そして大気汚染被害の深刻度を考えると、実際に導入される可能性はかなり高いのです。

中国やインドがEV導入促進に本腰を入れ始めれば、自動車メーカーの勢力図は大きく変化すると思います。それは新たな覇権争いの始まりでもあるからです。

次の覇権争いでは、EVを制するものが世界を制するでしょう。ハイブリッドカーに固執していては、世界の潮流から取り残されてしまうと思います。

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