e-fuelとは? そのメリットとデメリット、リスクを解説
CO2削減に効果的なe-fuelが注目されています。
特に力を入れているのがアウディやポルシェ、ボッシュで、モータースポーツ界隈でも導入が検討されているようです。
また、トラックや船での長距離輸送や電化が難しい航空業界(後述)も、e-fuelに期待を寄せています。
e-fuelは合成燃料です。
大気から回収したCO2を利用して、水から得た水素を電気分解して合成するものや、バイオマスから合成するものがあります。
現在開発されているものはメタノール合成をベースとしたものです。
化石燃料よりも粒子状物質や窒素酸化物の生成が少ないというメリットがありますが、生成プロセスで再生可能エネルギーを用いないとカーボンオフセットを実現できません。
今回はe-fuelのメリットとデメリット、そしてリスクについて解説します。
e-fuelのメリット
CO2等の排出量が少ない
ポルシェによるとe-fuelが排出するCO2は非常に少なく、ガソリン比で85%ものCO2を削減できるのだそうです。
EVであってもバッテリーの製造過程でCO2が発生するため、いわゆるWell to Wheel(油田から車輪を駆動するまで)の観点からすると、EVとe-fuelのCO2排出量は同等となります。
また、粒子状物質やNOx(窒素酸化物)の排出量が少ないのも、e-fuelのメリットです。
これはガソリンと比較して含まれている成分が少ないためです。
エネルギー密度が高い
e-fuelはガソリンと同等のエネルギー密度を持っています。
そのため長距離輸送の分野や、レーシングカーやスポーツカーなどのカーボンニュートラルを実現できるでしょう。
トラックや航空機を電動化した際に問題となるのは、過大なバッテリーの重量です。
エアバス社によると、同社のA320を電動化した場合、たとえバッテリーのエネルギー密度が現在の30倍あったとしても、ジェットエンジンのA320比で1/5の距離しか飛行できず、ペイロード(有料荷重)は半分になってしまうのだそうです。
長距離輸送トラックの場合も同様で、ペイロードは1/3になってしまいます。
航続距離を伸ばそうとバッテリーを増やすと重くなり、重いから航続距離が伸びないという悪循環が、EVの弱点と言えます。
充電時間の長さも問題です。
「急速充電器を用いれば30分で○○○km分の電力を~」という記述は、最近の新型EVのプレスリリースに必ず記載されていますが、ガソリン車の給油に30分もかからないわけですから、その点では競争力が全くありません。
輸送業は時間との勝負ですから、EV化により輸送時間が伸びれば、そのコストは消費者に跳ね返ってきます。
e-fuelはガソリンと同様に給油できるわけですから、EVよりも輸送業向きです。
既存のインフラを活用できる
モータリゼーションが起こった国では、ガソリンスタンドで給油して自動車やバイクを走らせるのが当たり前になっています。
物資の輸送インフラもそれに合わせて構築されているので、自家用車やタクシー、トラックなどの輸送用機器と、それを支えるインフラの全てを電化するには、莫大な投資が必要です。
一方、e-fuelはガソリンの同等物ですから、既存のインフラを活用できます。
よって莫大な投資は必要ありませんし、導入もスムーズに進むはずです。
レアアースを必要としない
バッテリーの製造に必要なレアアース(希土類)は、供給に不安を抱えています。
特にコバルトは石油よりも先に枯渇するのではないかと危惧されているほどです。
e-fuelはレアアースを必要としないので、EVのリスクヘッジとして機能するでしょう。
e-fuelのデメリット
コストの高さ
e-fuelは合成に手間がかかっている分だけ高価です。
イギリスでは、e-fuelのディーゼル燃料がリッターあたり£4(約608円)で販売されています。
これほど高くては普及する見込みがありません。
e-fuelは再生可能エネルギーを利用して合成することでカーボンオフセットを実現しているので、大量生産するには風力発電や太陽光発電の発電量を増やす必要があります。
逆に言うと、それらの発電コストを圧縮できなければ、e-fuelもコスト高なままです。
e-fuelの合成プロセスにおける効率化ももちろん必要でしょう。
CO2をどう調達するか
製鉄や火力発電などのプラントから排出されたCO2を回収してe-fuelを合成するというのが当初想定されていましたが、それらの産業分野でもCO2削減が進んでいるため、現在ではDAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)というCO2を大気中から直接回収する技術が用いられています。
DACがどの程度のコストを生み出すかは不明ですが、コストを減らすことにはならないはずです。
メタノールの悪影響
e-fuelはガソリンの同等品ですが、メタノールは金属(アルミやマグネシウムなど)を腐食させます。
また、ゴム部品などに対しても攻撃性があるようです。
現在のe-fuelはメタノールベースで合成しているので、自動車部品に対して何らかの悪影響を及ぼす可能性は否定できません。
ガソリン車をそのままe-fuel車に転換するのは難しいでしょう。
e-fuelのリスク
最後にe-fuelのリスクについて。
e-fuelのカーボンオフセットには再生可能エネルギーが欠かせないという話は上述のとおりですが、再生可能エネルギーの賦存量は石油と同様に偏在しているため、地政学的リスクが存在します。
風力や太陽光が豊富なのは主にアフリカですが、政情不安な地域が多いです。
ポルシェはe-fuelのプラントをチリに建設しましたが、そのチリでもデモや暴動が頻発しています。
これまでエネルギーは石油資源国が独占してきました。
主に中東やロシア、そしてアメリカが力を奮ってきたわけですが、e-fuelによって再生可能エネルギーを輸出できるようになると、そのパワーバランスが崩れるかもしれません。
出典・参考サイト
トヨタ・日産・ホンダが本腰、炭素中立エンジンに新燃料e-fuel – 日経XTECH
運輸交通分野のカーボンニュートラルを巡って ②CO2から作る代替燃料"e-fuel"に高まる期待 – SOMPO 未来研トピックス 2020 Vol.33
電気自動車の電池にも使われる「コバルト」は石油より早く枯渇する? – EVsmartブログ
Well to WheelとLife Cycle Assessmentの意味するところ – 日本機械学会誌
GTA坂東正明代表がスーパーGTのカーボンニュートラル化を語る。第1歩として2024年からのe-fuel導入を示唆 – as-web.jp
A Return To F1 “Would Be Of Great Interest” To Porsche Thanks To e-Fuels – carscoops.com
Synthetic fuels explained: is there such a thing as carbon neutral petrol? – evo.co.uk
efuels, sustainability and sports cars – manufacturers weigh in on the issues – evo.co.uk
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