日産(インフィニティ)が可変圧縮比のVC-Tエンジンで革命を起こす!

テクノロジー・業界分析,批評

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日産(インフィニティ)がガソリンエンジンの世界に技術革新をもたらしました。ホンダがVTECを開発して以来の革命的な出来事です。十分なパワーと経済的な燃費を両立できる理想的なエンジンは、いよいよ2018年から採用が開始されます。

画像の出典: car.watch.impress.co.jp


ダウンサイジングターボの弱点

現在のガソリンエンジンは、小排気量の直噴ターボが主流となっています。パワーが必要な加速の際には、ブーストをかけてパワーを取り出し、パワーの要らない巡航時には、ブーストをかけずに小排気量の自然吸気エンジンとして使うことで、ハイパワーと低燃費を両立できるからです。小排気量だからフリクション(摩擦)ロスも減ります。

ところが高圧縮比でないと、上記のような使い方はできません。低圧縮比のエンジンは、ブーストのかかっていない非過給領域で熱効率が下がり、燃費・パワーの両方が悪化するからです。事実、VWの最新エンジンである「EA211 TSI evo」などは、12.5:1という高圧縮比になっています。

でも高圧縮比ターボには、ノッキングの問題がついてまわります。現在では直噴化によって燃料冷却の効率が高まったため、ターボでもかなりの高圧縮比を実現できるようになりました。ですがそのために、かなりのコストがかかっているのも事実です。

つまりダウンサイジングターボというコンセプトは、ターボと自然吸気の高コストな折衷案でしかありません。中途半端なやり方なのです。

とはいえパワーと燃費を両立させ、コストも低減できる方法もあります。圧縮比そのものを可変させればよいのです。

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可変圧縮比エンジン開発の歴史

可変圧縮比エンジンの開発をしてきたのは、インフィニティ-日産だけではありません。

サーブの場合

スウェーデンのサーブは、SVC(Saab Variable Compression)と呼ばれる圧縮比可変機構を開発していました。

サーブのやり方は、エンジンブロックと統合されたシリンダーヘッド「モノヘッド」を動かすものです。モノヘッドはインテーク側のクランクケースを軸に4°だけ傾き、圧縮比を変化させます。

サーブ_可変圧縮比エンジン

画像の出典: autozine.org

しかしシリンダーヘッドを傾けるには大掛かりなアクチュエーターアーム(模式図のオレンジ色部分)を組み込まなければなりません。燃焼室形状も理想的とは言えないでしょう。結局SVCは日の目を見ず、サーブ・オートモービル自体も消滅してしまいました。

ポルシェの場合

ポルシェは現在も可変圧縮比エンジンを開発中です。ポルシェのアプローチはコンロッド内部に可変機構を組み込むもので、ピストンピンの部分に正逆回転可能なコマをつけ、その回転でコンロッドからピストンピンまでの長さを変えるのだそうです。ピストンピンの中心を斜め下にずらす仕組みみたいですね。

ポルシェ_可変圧縮比エンジン

画像の出典: extremetech.com

でもコンロッドのように負荷のかかる部品に、可変機構を組み込むのは得策だとは思えません。インフィニティのVC-Tエンジンに先を越されてしまったのも、開発がおそらく難航しているからでしょう。

インフィニティVC-Tエンジンの詳細

日産が1998年から18年もの歳月をかけて完成させたインフィニティ VC-Tエンジンは、2.0L・直4ターボです。3.5L・V6と比較して27%、ライバルとなる2.0L・直4ターボ比でも10%もの燃費改善を実現しています。

パワーは200kW(272ps)、トルクは390Nm(39.7kgf・m)を発生。これはライバルの2.0L・直4ターボとの比較で10%の性能向上だそうです。

VC-Tエンジンは直噴用のインジェクターだけでなく、ポート噴射用のインジェクターも備えています。これらを通常燃焼用と、アトキンソンサイクル用で使い分けるようです。

インフィニティVC-Tエンジンの可変圧縮比システム

VC-Tエンジンは、圧縮比を8:1〜14:1という広いレンジで可変できます。8:1のときにはハイブーストがかけられますし、14:1のときの熱効率かなり高いはずです。

文章のみで仕組みを説明するのは難しいので、まずは以下の画像をご覧ください。上が高圧縮比、下が低圧縮比です。

VC-Tエンジン_High
VC-Tエンジン_Low

画像の出典: autoblog.com

まず動くのは①のハーモニックドライブです。これはエンジンブロックの外にあるモーターとなります。

ハーモニックドライブがアクチュエーターアームを動かすと、②のコントロールシャフトの下端がずれます。画像だと右に動いていますね。

コントロールシャフトは③のマルチリンクとつながっています。マルチリンクはクランクシャフト、そしてコンロッドとも接続しているパーツです。コントロールシャフトがマルチリンクを動かし、マルチリンクがコンロッドを引き下げることで、圧縮比も下がるという仕組みです。

圧縮比が変わる原理

クランクシャフトとマルチリンクがどのように接続されているのか不思議に思われるかもしれません。今回の発表資料には詳しい解説がありませんでしたが、以前日産が取得した可変圧縮比関連の特許公報から、マルチリンクの構造を推測することができます。

中央の部品がクランクピン(31番の穴)と接続されます。そしてその中央の部品を挟み込む部品に、コンロッド(41番の穴)とコントロールシャフト(42番の穴)がつながる格好です。

クランクシャフトが回転すると、青色で示されたクランクピン(上の図31番の穴)の中心点が、赤の円軌道に沿って回ります。

緑色で示されたコンロッドの下端(上の図41番の穴)と、クランクピンの中心点との距離は不変ですから、クランクが回転したときにコンロッドの下端が描くのは、オレンジ色の楕円軌道になります。

マルチリンクが回転し、オレンジ色の楕円軌道の傾きが垂直に近づくと、コンロッドがより高い位置まで上がるようになり、ピストンの上死点=圧縮比も上がります。そしてオレンジ色の楕円軌道が図のように傾けば、圧縮比が下がるのです。

以下の動画を見れば、上記の図のように動いていることが確認できるかと思います。

参考サイト様

流行のダウンサイジングターボとは? メリットと欠点を徹底解説 | newcars.jp

フォード エコブースト1.0L 3気筒について考えてみる | Yell! – Design:Diary

可変圧縮比エンジンとは | とりあえず3.0R Spec. B

ポルシェの可変圧縮比コンロッド | ピストンエンジンは永遠か!な?

上記のサイト運営者のみなさま、とても勉強になりました。良質なコンテンツをありがとうございました。

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