BMW M2は、なぜM4並みの加速ができるのか?
加速性能を生み出すレシピ
BMW M2のワールドプレミアが、2016年1月のデトロイトショーで行われます。イギリスでの価格は6MTが£44,070(¥7,932,600)、M DCTが£46,575(¥8,383,500)とのことです。
BMW、デトロイトでM2など2台を初披露 – carview
M4・M3とM2の価格および価格差
車名 | 価格(¥) | 価格差(¥) |
---|---|---|
BMW M4 | 11,260,000 | − |
BMW M3 | 11,040,000 | −220,000 |
BMW M2 | 8,383,500 | −2,656,500 |
表中の価格はM DCTモデルのものを使用。
M4から多くのパーツを流用することでコストが抑えられたM2は、Mシリーズのエントリーモデルに位置づけられています。しかしその性能はM4並みです。
M4とM2のスペック比較表
車名 | 馬力(ps) | トルク(kg・m) | 車重(kg) | PWR(kg/ps) | 0-100km/h(秒) |
---|---|---|---|---|---|
BMW M4 | 431 | 56.1 | 1640 | 3.80 | 4.1 |
BMW M2 | 370 | 47.4 | 1595 | 4.31 | 4.3 |
数値はどちらもM DCT搭載モデルのものを使用。
0-100km/h加速に関しては、わずか0.2秒しか差がありません。
でも表のデータはパワーウエイトレシオ(以下、PWR)では圧倒的に不利なM2が、なぜM4に肉薄するほどの0-100km/hタイムを記録できたのか? という疑問には答えてくれません。
パワーウエイトレシオはどこまで加速に影響するのか?
まずPWRが加速に与える影響を確かめるために、M4・M2と0-100km/h加速タイムが近い車のPWRを調べてみました。このエントリに出てくるM2以外のデータはgreeco-channel.com様から引用したものです。
PWRと0-100km/h加速
車名 | 馬力(ps) | 車重(kg) | PWR | 0-100km/h(秒) |
---|---|---|---|---|
BMW M4 | 431 | 1640 | 3.80 | 4.1 |
AMG C63 | 476 | 1790 | 3.76 | 4.1 |
ロータス エヴォーラ400 | 406 | 1395 | 3.44 | 4.2 |
BMW M2 | 370 | 1595 | 4.31 | 4.3 |
Audi RS3スポーツバック | 362 | 1560 | 4.25 | 4.3 |
日産 フェアレディZ ver.NISMO | 355 | 1520 | 4.28 | 4.7 |
ポルシェ 911カレラ | 350 | 1380 | 3.94 | 4.8 |
ポルシェ ケイマンGTS | 340 | 1420 | 4.18 | 4.8 |
表は0-100km/h加速のタイム順に並んでいます。
表中のPWR1位であるエヴォーラ400が0-100km/hでは3位なこと、911カレラが下位に沈んでいることなどからも、PWRだけでは、0-100km/hの加速性能を説明できないことがわかりますね。例えばRS3スポーツバックは、4WDだからタイムが良いわけです。
トルクウェイトレシオで説明できること・できないこと
PWRでは説明が付かなかったので、次はトルクウェイトレシオ(以下、TWR)で比べてみましょう。
TWRと0-100km/h加速
車名 | トルク(kg・m) | 最大トルク発生回転数(rpm) | TWR | 0-100km/h(秒) |
---|---|---|---|---|
BMW M4 | 56.1 | 1850-5500 | 29.2 | 4.1 |
AMG C63 | 66.3 | 1750-4500 | 27.0 | 4.1 |
ロータス エヴォーラ400 | 41.8 | 3000-6950 | 33.4 | 4.2 |
BMW M2 | 47.4 | 1400-5560 | 33.6 | 4.3 |
Audi RS3スポーツバック | 47.4 | 1625-5550 | 32.9 | 4.3 |
日産 フェアレディZ ver.NISMO | 38.1 | 5200 | 39.9 | 4.7 |
ポルシェ 911カレラ | 39.8 | 5600 | 34.7 | 4.8 |
ポルシェ ケイマンGTS | 38.7 | 4750-5800 | 36.7 | 4.8 |
PWRに優れるエヴォーラの0-100km/hタイムがM4より遅いことは、TWRで説明できそうです。
また、TWRが小さくても最大トルク発生回転数が高くトルクバンドが狭いと、0-100km/hタイムは伸びないみたいですね。
しかしRS3スポーツバックは、PWR・TWRで共にM2を上回っているにも関わらず、0-100km/hのタイムは同じです。つまりM2は、その不利を覆す何かを持っているのです。
M2とRS3スポーツバック
M2の強み
たしかにトルクの発生回転数が225回転ほどM2の方が低い分、トルクバンドではM2に分があります。
また、M2にはオーバーブースト機能が装備されており、わずかな時間だけ1350〜4500rpmのトルクを3.57kg・m増強してくれます。つまり1400〜4500rpmの間は、50.97kg・mのトルクになるということです。
RS3スポーツバックの強み
一方、RS3スポーツバックの強みは4WDにあります。4WDは加速時に圧倒的な優位性を持つからです。
例えば911カレラと911カレラ4は、パワー・トルクは同じで車重だけカレラ4が50kg重いのですが、0-100km/hのタイムはカレラ4が0.1秒遅いだけです。
Mパワー vs quattroシステム
M2のオーバーブースト機能は確かに強力ですが、トルクバンド全域で機能するわけではありません。また、0-100km加速でオーバーブーストの回転数を使い切れるのは、ステップ比の関係で1速の時だけだと考えられます。
M2がM4と同じギア比のM DCTを積んでいると仮定(おそらくその可能性が高い)するなら、1速7000rpmで2速にシフトアップすると、ステップ比の関係で3780rpmまでしかドロップしません。つまり2速では3780〜4500rpmまでの間しか、オーバーブーストは効かないわけです。
RS3スポーツバックの4WDは、いつ如何なるときでも機能します。一方M2は、例えオーバーブーストでトルクを得たとしても、それを路面に伝えるのは後輪だけです。M2に優位性があるとは思えません。
しかしタイムは五分。何がM2にこれほどの加速性能をもたらしているのでしょう?
足元に目を向けてみる
他に加速性能に影響する要素といえば、タイヤ外径とギア比です。駆動輪のタイヤ外径と、0-100km/h加速に関係ある2速までのギア比、および最終減速比のデータをまとめました。
タイヤ外径とギア比
車名 | タイヤ外径(mm) | 1速ギア比 | 2速ギア比 | 最終減速比 |
---|---|---|---|---|
BMW M4 | 677 | 4.806 | 2.593 | 3.462 |
BMW M2 | 668 | 4.806 | 2.593 | 3.462 |
Audi RS3 SB | 647 | 3.562 | 2.526 | 4.058 |
M2のギア比は、M4のものを流用しています。M DCTはM6からM3まで最終減速比だけを変えて流用しているので、おそらくM2も同様かと思われます。
このデータに基づき、タイヤの最大駆動力を比較します。
タイヤ最大駆動力
車名 | 1速最大駆動力(kg・m) | 最大駆動力(2速) | 1-2速TWR | 0-100km/hタイム(秒) |
---|---|---|---|---|
BMW M4 | 2757.5 | 1487.8 | 0.59-1.10 | 4.1 |
BMW M2 | 2361.3 | 1274 | 0.67-1.25 | 4.3 |
Audi RS3 SB | 2117.9 | 1277.2 | 0.73-1.22 | 4.3 |
1速ではM2が、2速ではRS3スポーツバックが、それぞれタイヤ最大駆動力のTWRで優位に立っています。
しかしM2にはオーバーブーストがあり、作動中の1速最大駆動力は2540.5㎏・mに達します。その際のTWRは0.628となり、M4に匹敵するほどです。
M2はM4よりもタイヤ外径が小さいため、オーバーブーストがより効果的に駆動力を生み出します。そしてM4比で45kg軽いM2の車体を、猛然と加速させるのです。
RS3スポーツバックがM2と0-100km/hで互角なのは、quattroシステムのおかげにほかなりません。逆に言うとM4並みのTWRがなければ、M2がRS3と加速で張り合うことなどできないのです。
BMW M2はスプリンター
トルク・タイヤ外径・ギア比の3要素が、最高速よりも加速重視で構成されていることで、M2はM4とは異なる刺激的なキャラクターを手に入れました。低速からのピックアップに優れるM2は、峠やワインディングでも楽しめる車だと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます。BMW M2に興味のある方は、以下の記事もぜひご覧ください。