ダイムラー(メルセデス)が300万台のディーゼル車をリコール。排ガス問題修正のため
ダイムラーが基準値を超える有害物質を排出する自動車を、欧州で100万台以上販売していたとされる事件で、ダイムラーはこれまでに販売した300万台のディーゼル車について、車載ソフトウェアをリコールすると発表しました。
この影響を受けるモデルのほとんどは、メルセデス・ベンツブランドの車です。
ダイムラーの排ガス不正疑惑
シュツットガルトの裁判所が出した捜査令状によると、排ガス不正疑惑がかけられているのは、2008〜2016年に欧米で販売された車両に搭載されている、「OM642」および「OM651」エンジンです。
上記2つのエンジンは、テスト走行時に有害物質の排出水準を操作する装置──いわゆるディフィートデバイス──が使用されていた可能性があるとして、シュツットガルトの検察当局が捜査しています。
南ドイツ新聞は、ダイムラーが『有害な亜酸化窒素(窒素酸化物の一種)の95〜99%をフィルターで除去している』と宣伝していたにも関わらず、実際の走行時には35%しか除去できていなかったと報じています。
ダイムラーの対応
ドイツ政府の調査委員会はダイムラー側に対し、運輸省専門委員会の会合に出席するよう要請し、先週両者による会合が行われました。
この会合の後ダイムラーは、改めて身の潔白を主張し、「あらゆる法的手段を用いて、(ダイムラーからすれば虚偽の)不正行為の告発と戦う」と宣言しました。
しかし今日になって、突如として300万台のリコールを発表したのです。
ダイムラーは不正を認めたのか?
いいえ、認めていません。
今回のリコールは「OM607」エンジンに関するもので、排ガス不正疑惑をかけられている「OM642」や「OM651」は含まれていません。
リコール対象となった「OM607」は、AクラスやBクラスなどに搭載されている1.5リッター・直列4気筒ディーゼルターボです。
新たなソフトウェアへの置き換えはすでに始まっており、現在販売されている新車の45%は修正済みとなっています。
また、販売済みのVクラスの75%に関しては、メルセデスが自主的に改良を行ったようです。
なぜダイムラーはリコールに踏み切ったのか?
ダイムラーの最高経営責任者(CEO)であるディーター・ツェッチェ氏は、「ディーゼルに関する公開討論は、不確実性を生み出している。ディーゼル車のドライバーを安心させ、ディーゼル技術への信頼を強化するために、追加措置(今回のリコールのこと)を決定した」と述べています。
強硬な姿勢を打ち出すより柔軟に対応した方が、批判がエスカレートしづらく、世論を味方につけやすいと考えたのでしょう。
リコールの費用
約2億2000万ユーロ(約285億円)に上ると見られています。
コンポーネントの修正を伴わず、ソフトウェアパッチをあてるだけで済むため、費用そのものは(ダイムラーのような巨大企業からすれば)それほどかからないようです。
しかし1台あたり70ユーロという見積もりは低すぎる可能性があり、最終的にはさらなるコストが必要になるという見方もあります。
また、VWの排ガス不正事件のように巨額の罰金を課せられる可能性もありますし、他のエンジンにもリコールが波及するかもしれません。
少なくとも、これで終わりということにはならないと思います。
誰がディーゼルを殺したのか!?
実はダイムラーには、以前からディーゼルエンジンの排ガス不正疑惑がかけられていました。
VWの排ガス不正が明らかになった際に、アメリカで集団民事訴訟を起こされていたのです。
車知楽でそのことを取り上げたときの記事にも書いたのですが、以前の排ガス試験の方式だと、実走行時に基準値を超える有害物質を排出してしまうのは、仕方がない面があるのも事実なのです。
シャシーダイナモ(ローラーの上に車を載せ、走行状況をシミュレーションする装置)では全ての状況を再現できませんし、再現したとしてもコストがかかりすぎます。
試験方式の不備を、自動車メーカーの責任とするわけにはいきません。
計測機器を車載して行う試験方式でも、同じことが言えます。
全ての走行条件を再現するのは時間的にもコスト的にも無理がありますし、特定の条件下ではエンジン保護のために、基準値を超える有害物質を排出する場合も出てくるので、常に基準値を守ることはほとんど不可能なのです。
ところがマスコミは、そのことを批判します。「絶対に基準値を超えてはならない」と。
そして消費者もそれに焚き付けられ、自動車メーカーを声高に批判し始めるのです。
もちろんダイムラーがVWのようなディフィートデバイスを使用した場合は、明らかに違法ですから、その場合はVWのときと同様の措置(罰金など)が取られるでしょう。
技術は魔法ではない
しかし技術に対する無邪気な信仰心のようなものをマスコミが煽るのは、害ばかりなのでもうやめるべきだと思います。
いかなる技術にもトレードオフがあり、利点もあれば欠点もあるのです。
利点だけを要求して欠点を受け入れないという姿勢では、科学技術の発展を阻害するでしょう。
ディーゼルエンジンも「絶対的にクリーンであること」を要求された結果、開発コストが高騰しています。
そのコストは消費者に転嫁され、安価な軽油がもたらすランニングコストの低さくらいではもはや回収できないほどに、ディーゼル車は高価なものになってしまいました。
ディーゼルエンジンはCO2排出量が少ないというメリットがあるので、社会的にある程度許容すべきものです。
ですがこのように風当たりが強いと、ディーゼル廃止運動は加速する一方でしょう。
実際、フランス、マレーシア、アテネ、メキシコシティーなどでは、2020年までにガソリン車とディーゼル車の販売を終了すると発表しています。
で、今度は電気自動車(EV)を政治家やマスコミが賞賛するのでしょうけど、EVはEVでやはり問題があるのです。
バッテリーの生産能力は全く足りていませんし、リチウムも高騰しています。
その問題が顕在化したときに、今度はEVが悪者にされなければ良いのですが。
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