テスラモデル3と日産リーフ、販売台数になぜこれほど差がついたのか
テスラ・モデル3が、生産台数を伸ばせず苦戦しています。
消費者からの人気は十分にあるものの、生産工程における技術的な問題を解決できずにいるのです。
一方、日産の新型リーフは絶好調で、記録的な大ヒットとなっています。
スペック的にはモデル3に劣る新型リーフですが、販売台数では圧勝しているのです。
今回はモデル3と新型リーフそれぞれの生産・販売状況と、後手に回り劣勢となったモデル3に、起死回生の一手があるのかについて考えてみます。
絶好調の新型リーフ
先代リーフは「世界でもっとも売れた電気自動車」の称号を手にしましたが、新型リーフも同様の栄誉に浴することになりそうです。
新型リーフが最初に投入された日本市場では、1ヶ月間で3629台(前年同月比+607%)を受注しました。
3629台という数字は、リーフの月間販売台数としては(すなわち日本の電気自動車としては)新記録です。
これまでの記録は、2016年2月に記録した2819台でした。
先代リーフは2015年12月に30kWhモデルを追加したため、2016年の1〜2月は、販売台数が大幅に伸びていたのですが、それでも3000台には届かなかったのです。
ちなみに受注台数は11月8日の時点で、9800台を超えたとアナウンスされました。
無資格検査員が完成車検査を行っていた問題により、日産は日本国内向けの製品出荷を停止しているため、かなりの納車待ちが発生しているようなのです。
製品出荷が再開されれば、月間販売台数は大幅に伸びることでしょう。
苦戦するモデル3
一方、テスラが社運を賭けた「モデル3」は、苦戦しています。
というのも、ほとんど販売できていないからです。
ローンチからこれまでの3ヶ月間に生産されたモデル3は、約440台にとどまっています。
当初は最初の3ヶ月で1630台を生産し、年末までには1週間あたり5000台の大台に乗せる計画でした。
しかもこれまでに生産されたモデル3は、1台たりとも「顧客には」デリバリーされていません。
最初の1500台は、従業員向けに販売する計画だからです。
なぜ生産が軌道に乗らないのか?
生産のボトルネックとなっているのは、テスラがパナソニックと共同出資して建設した「ギガファクトリー」の、バッテリーモジュール・アセンブリのラインだそうです。
バッテリーセルがパッケージされた4つのモジュールを、アルミケースにパッケージ化する工程のようですが、ここの製造プロセスの自動化で躓いているとテスラ側はコメントしています。
問題の部分は、当初サプライヤーが設計していたのですが上手くいかず、結局テスラが引き継いだようです。
テスラは問題を解決するために、ミネソタ州の生産自動化支援企業である「パービクス・マシーン・カンパニー」を買収しました。
パービクスは以前からテスラのサプライヤーだったそうですが、パービクスが問題を引き起こした当の企業なのかは不明です。
モデル3は勝てるのか?
テスラにとって痛手なのは、モデル3が同社を飛躍させるモデルとして構想されていたことです。
ギガファクトリーによるバッテリーの大量生産にせよ、年間50万台規模の生産体制にせよ、モデル3が量産・量販されてこその計画でした。
それが躓いたのですから、テスラ社の事業計画に大幅な狂いが生じるのは避けられません。
例えば、モデル3を週5000台生産するのは、当初は今年の年末を予定していましたが、先日の第3四半期決算発表では、これが2018年第1四半期後半に修正されました。
つまり、約3ヶ月の遅れとなります。
財務面の不安
しかもテスラ社は、モデル3の販売を見込んで投資してきたわけですから、生産が軌道に乗らなければ赤字額は増える一方です。
先日の第3四半期決算で、テスラ社は過去最大の赤字を計上しました。
14億ドルものキャッシュを失ったため、テスラは初のジャンク債(デフォルト率が高い分、利回りが良い債券のこと)を18億ドル分発行しています。
モデル3の生産が軌道に乗らなければ、この金利負担が重くのしかかることになります。
優位性を失いつつあるテスラ
EVの先駆者として、名声をほしいままにしてきたテスラ社ですが、大手自動車メーカーがEV開発に本腰を入れ始めた結果、テスラのEVは徐々に技術的優位性を失いつつあるようです。
例えば新型リーフには、今後60kWhバッテリーを搭載したロングレンジモデルが追加されるため、モデル3との航続距離差はほぼ無くなります。
また、ハイパフォーマンスなEVとして名を馳せてきた「モデルS」も、ポルシェ・ミッションEなどと比べると、スペック面で色褪せつつあるようです。
自動運転技術においても世界をリードしていたテスラですが、今ではどの自動車メーカーも、自動運転の開発と実装を進めています。
テスラの技術的な優位性は、もはや存在しないと言えるでしょう。
技術の差が無くなり、企業体力の勝負になってきた
しかし最大の問題は、テスラの企業体力が尽きかけていることです。
GMはシボレー・Bolt EVを1台生産するたびに、100万円以上の赤字を垂れ流しています。
でも企業規模が大きいので、びくともしません。
一方、規模の小さなテスラは、生産に3ヶ月の遅れが生じただけで、ジャンク債を起債しなければならないのです。
EVベンチャーの機動力と、イーロン・マスクの大胆な発想力で、大手自動車メーカーを出し抜いてきたテスラですが、大企業へと脱皮しようとしたがために、ベンチャー企業としては決定的な失敗を犯してしまいました。
大企業と同じ土俵に上がることで、自ら企業体力での勝負を挑んでしまったのです。
技術面だけでなく、財務面でも不利になれば、盤面をひっくり返すチャンスを永久に失ってしまいます。
モデル3の生産の遅れは「たった3ヶ月」ですが、この3ヶ月がテスラにとっては致命的になるかもしれないのです。
テスラに起死回生の一手はあるか?
テスラにとって起死回生の一手は、テスラ社の株式の大部分を、大手自動車メーカーに売却してしまうことです。
テスラが多少の赤字であっても、大手自動車メーカーならばその損失を吸収できます。
財務面でリスクを負うことなく、最新技術の開発に集中できるようになれば、テスラならではの発想力が再び活きてくるでしょう。
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