新型S2000は出ない。なぜ復活しないのか?

テクノロジー・業界分析,批評

ホンダの内部関係者が、S2000は復活しないと断言しました。

今回は新型S2000がなぜ復活しないのか、ホンダ関係者のコメントを元に考えてみます。


S2000が復活しない理由

ホンダ・カナダのプロダクト・プランニング・マネージャーであるHayato Mori氏は、S2000は過去の車であり、現在の北米自動車市場の環境下において、再び日の目を見ることは決して無いだろうと語りました。

「現在の北米自動車市場の環境」というのは、具体的にはクロスオーバーSUVブームと、オープンスポーツカーの不人気のこと指しています。

SUVはなぜ流行っているのか?

走行性能とユーティリティ性を両立しやすいSUVは、世界中でブームとなっています。
とくにクロスオーバーSUVは、ハッチバックやセダンのプラットフォームを流用できるため開発コストが安く、それでいて利便性や乗降性は元のハッチバックやセダンよりも優れているため、消費者の目にはバリュー・フォー・マネーに優れた車と映るようです。

7人乗りが好評なCX-8も、クロスオーバーSUVだ。

また、世界的な原油安やハイブリッド・パワートレインの普及も、SUVブームに拍車をかけました。
SUVは車体が大きいため、同クラスのセダンやハッチバックよりも燃費が悪くなりがちです。
しかし原油安はガソリン代の割高感を薄れさせ、ハイブリッドは燃費を大幅に改善したため、ランニングコストが高いというイメージをSUVから拭い去りました。

ハイブリッドSUVの代表格、レクサスNX300h。

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商品としてSUVの対極にあるスポーツカー

スポーツカーは走行性能でSUVに勝っているものの、ほとんどのユーザーは、たとえスポーツカーユーザーであってもサーキット走行をしないため、車に秘められたポテンシャルのすべてを体感することはありません。

一般道で体験できるレベルの走行性能では、ポルシェ・マカンやアルファロメオ・ステルヴィオのようなSUVでも、十分すぎるほどスポーティーです。

ポルシェ・マカン

もちろんハンドリングではスポーツカーに軍配が上がりますが、加速性能ではスポーツカーを上回るSUVも数多くありますし、何よりハンドリングと引き換えに失うもの──利便性──が大きすぎます。

室内が狭く、日常の使い勝手が悪いスポーツカーは、当然ながら多くの販売台数は見込めません。
そのため量産効果が得られず、開発コストが高くつきます。
しかも環境や安全に関する規制が厳しくなる一方ですから、燃費が悪くて(=CO2排出量が多い)販売台数の少ない車は、なおさら作りづらくなっているのです。

低コストで利便性に優れるクロスオーバーSUVと、高コストで利便性に劣るスポーツカーは、商品として対極に位置するといっても過言ではありません。

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S2000の不遇

S2000は2シーターオープンスポーツカーという、利便性の観点からすると最悪の組み合わせで成り立っている車です。
そのためホンダが「売れないだろう」と考えても、まったく不思議ではありません。

一方、新型シビックタイプRのようなホットハッチは、普通のハッチバック車を改造したものですから、基本的なコストもかかっていません。
にもかかわらず、本格スポーツカーを凌駕するほどの走行性能を実現しています。
それでいてドアも4枚ついていますし、乗り心地も良いと評判です。

ホンダ・シビックタイプR(FK8)

こうなると、スポーツカーの立つ瀬がありません。
ホットハッチやハイパフォーマンスSUVを性能で圧倒できる高級スポーツカー以外は、もはや市場に居場所が無いのです。

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消え行く「安価なスポーツカー」

とくに後輪駆動のスポーツカーは、シャシーからして専用設計にせざるを得ず、開発コストが高くつきます。

そのため安価なスポーツカーを開発しようとすると、①後輪駆動を諦める②実用車のエンジンを流用する、などといったコスト対策が必要になります。

しかし①だとホットハッチとの差別化が難しくなりますし、②だとハッチバックやSUVに加速で負けるようなスポーツカーしか作れません。
そして②を採用してもそこそこ高価な車になってしまうのは、トヨタ・86やマツダ・ロードスター、ホンダ・S660などが証明済みです。

ロードスターのハンドリングは素晴らしいものの、エンジンはいまいち。北米では姉妹車の124スパイダー(ターボエンジン搭載)に、販売台数で負けている。(訂正)

仮にS2000が復活するとしても、①や②のコスト対策を採用したなら、それはもうS2000ではないでしょう。
「クローズドボディ並の剛性を誇るオープンカー」に「超高回転型のハイパワーな自然吸気エンジン」を搭載した「後輪駆動車」であることが、S2000のアイデンティティだったのですから。

もちろんS2000を高級車として販売すれば、初代と同じコンセプトで復活できるかもしれません。
しかしあのポルシェですら、ボクスターや911よりもマカンやカイエンの方が何倍も売れている時代です。
高級車として復活したとしても、S2000の販売台数は絶望的でしょう。

ホットハッチやハイパフォーマンスSUVは、今後も増えていくと思います。
しかし比較的安価なスポーツカーは、徐々に数を減らしていくはずです。
S2000は復活しないというより、できないというべきなのかもしれません。

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Source: Honda S2000 Definitely Never Coming Back, Honda Exec Says | autoguide.com

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