SUPER GTのホンダNSXは、ハイブリッド非搭載で勝てるのか?
最大の武器は失われる
2月12日にホンダの2016年モータースポーツ活動計画が発表され、噂されていたNSXのノンハイブリッド化が公表されました。
市販NSXの販売戦略上、GT500のNSXにハイブリッドは必要不可欠とのこれまでの判断から、「レースで勝つ」ことを重視する戦略にピボットしたと見るべきでしょう。
しかしNSX CONCEPT-GTがハイブリッドを下ろしても、14年規定における最強マシン・日産GT-Rに勝つのはそう容易いことではありません。
今回はNSXがハイブリッドを下ろすことによるメリット・デメリットと、ノンハイブリッド・NSXに待ち受ける困難について説明します。
トップ画像の出典: honda.co.jp
目次
- ハイブリッド版 NSX CONCEPT-GTとは?
- ハイブリッド非搭載で得るもの・失うもの
- ホンダが抱える慢性的な問題
- ノンハイブリッドNSXはコーナリングマシンになる?
- DTM化は失敗だった
- ノンハイブリッドNSXの課題
ハイブリッド版 NSX CONCEPT-GTとは?
NSX CONCEPT-GTのハイブリッドシステム
ホンダのプレスリリースだと「英国ザイテック社(現・ギブソン・テクノロジー社)と共同開発した」と書かれていますが、実際にはCR-Zと同じく、ザイテックの市販品を付けただけです。
ハイブリッド版NSXのハンデ
昨年までのハイブリッド版では、2つのハンデが課せられていました。
1つは重量ハンデです。ハイブリッドには28kgのハンデが課せられていました。NSXの場合はミッドシップですので、さらにミッドシップハンデとして29kgが課せられ、最低重量がFR・ノンハイブリッド車より57kg(2014年は70kg)重い状態でレースを戦っていました。
もう1つのハンデは、ハイブリッドアシストの使用回転数制限です。7500rpm以上でないとハイブリッドアシストを使用できないという規定のために、エンジンのパワーバンドから外れた低速時に、モーターアシストを活用できませんでした。
これらのハンデだけ見ると「ホンダに対するいじめじゃないか」と思われる方もいるでしょう。しかしホンダは上記2つのハンデを承知の上でハイブリッドを搭載したのですから、勝てなかったのはホンダの判断ミスでしかありません。
ハイブリッド非搭載で得るもの・失うもの
得るもの
重量が軽くなるため、運動性能の向上が期待できます。ハンデ重量だけでなく、ハイブリッドシステム自体の重量(70kg)も軽減できるため、規定最低重量を大幅に下回るレベルでマシンを作れるはずです。
そうなると規定最低重量に合わせるためのバラストを多く積み込むことができ、バラストの設置位置で車体の重量配分を調整する自由度が増すため、各サーキットにセッティングを合わせやすくなります。
失うもの
ストレートでの最高速度は確実に低くなります。ハイブリッドNSXはストレートが速く、富士でも最高速度上位をほぼ独占していました。ストレートの速さは、NSX最大の武器だったのです。
ハイブリッドには、エンジンが低回転のときはアシストできなくとも、ストレートではドラッグレースのNOSのように最高速度を引き上げてくれるメリットがありました。
つまりハイブリッドで得られる直線スピードのアドバンテージ分だけ、ウイングに迎え角をつけて走れたわけです。よってダウンフォースも失われる可能性が高いです。
ホンダが抱える慢性的な問題点
ハイブリッド非搭載になれば、唯一のパワーソースであるエンジンの性能が今まで以上に問われることでしょう。
しかし往年の「ホンダパワー」は、ここ数年鳴りを潜めています。スーパーGTと同じく直列4気筒 2.0L直噴ターボ NRE(Nippon Race Engine)を搭載するスーパーフォーミュラでは、ホンダはトヨタにまったく歯が立たない状態です。
そのトヨタですら、スーパーGTでは日産勢に苦戦している有様です。ハイブリッドを下ろしたとしても、エンジンのパワー不足が解消されない限りは、NSXがタイトルを獲得するのは難しいでしょう。
ノンハイブリッドNSXはコーナリングマシンになる?
2015年の開幕戦岡山では、ちょい濡れ路面でNSXが揃って上位に進出し、人々を驚かせました。ミッドシップゆえのトラクション性能の高さが、ちょい濡れ路面に上手くハマったのです。
2015年にNSXが勝てたのは、テクニカルサーキットのSUGOだけでした。ハイブリッドを搭載した重い状態でも、ミッドシップゆえにコーナーでは速かったのです。特にRの小さなコーナーでは速さを見せていました。
重いハイブリッドシステムを下ろせば、さらなるコーナリング性能が得られる……と考えてしまいがちですが、ハイブリッドが無ければウイングの迎え角を減らさない限り、ストレートのスピードが低下してしまいます。
トラクション性能については、ノンハイブリッドでも問題無いでしょう。しかしコーナリング性能に関しては、ノンハイブリッドになってもエンジンパワーが無ければ、ダウンフォースが失われることで旋回速度が低下する可能性もあるのです。
DTM化は失敗だった
ハイブリッドを下ろせば重量配分が変化しますし、先述の通りウイングの迎え角も減らさなければなりません。
それを修正するためには空力を大変更する必要があるのですが、DTM(ドイツツーリングカー選手権)とパーツの共通化を進めた現在のレギュレーションでは、大幅な変更を伴うような空力開発は制限されています。
つまりノンハイブリッドNSXは、ハイブリッド搭載を前提に作られたエアロを刷新できないわけです。
GT-Rが相変わらず速いのも、開発制限によって「最初に答えを引き当てた者」のアドバンテージが守られているからです。F1のメルセデスも、同様の構図で他車とのタイム差を維持しています。
開発制限はコストダウンを名目に導入されますが、実際には「一人勝ち」状態を生み出しやすい両刃の剣なのです。
ノンハイブリッドNSXの課題
ノンハイブリッドNSXがタイトルを獲るには、
- エンジン性能の向上
- 空力の大幅な刷新
が必要不可欠です。しかし2はレギュレーションで大幅な変更できません。
1に関しては前々から「スーパーフォーミュラに出ていない日産が有利」とされています。GTに特化したエンジンを作れるからです。よってエンジンでホンダが(特に日産に対して)アドバンテージを得るのは難しいと思われます。
よってノンハイブリッドNSXがタイトルを獲得するのは、現状ではかなり難しいと言わざるを得ません。
もしノンハイブリッドNSXが遅ければ、GTアソシエーション側は何らかの性能調整を行うべきでしょう。
スーパーGTは「性能均衡による激しいバトル」を売りにしており、特定車両の圧勝が続く状況を許すべきではありません。5年間に4回もタイトルを獲っているGT-Rに対し、何らかの歯止めをかける必要があります。
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