欧州で63万台の「脱法的」ディーゼルがリコール スズキや日産も?
日本の自動車メーカーに影響も?
メルセデス・ベンツ、ポルシェ、オペル、VWは、ヨーロッパで630,000万台をリコールすると発表しました。
目次
なぜリコールになったのか?
今回リコールになった630,000台には、排ガス試験をすり抜ける違法なディフィートデバイスが使われていたわけではありません。
しかし実走行での排ガス試験(Real Driving Emission, RDE)において、環境基準値をクリアできなかったため、リコールとなったのです。
どうして基準値をクリアできなかったのか
クリーンディーゼルと呼ばれるエンジンには、排ガス浄化技術としてEGRや尿素SCRが用いられています。
今回のリコール対象車種は、気温が低くなるなどの一定条件下でEGRや尿素SCRの作動が停止し、排ガス中の有害物質が基準値を越えてしまっていたのです。
この仕組みを欧米メディアは「スイッチオフ技術」と呼んでいます。この仕組みはボッシュが作り、各自動車メーカーに提供していたようです。
しかしメルセデスなどの自動車メーカーが、意図的に環境基準値をオーバーさせたかは定かではありません。EGRや尿素SCRを保護するシステムでもあるからです。
保護システムの必要性
炭化水素の問題
EGRを過剰に使用すると、着火遅れ期間が伸び(火が点きづらくなる)、HC(炭化水素)やPM(浮遊粒子状物質物質)が増えてしまうのです。
そして冷間始動時やアイドリング時にも、着火遅れ期間が伸びることでやはりHCが増加し、さまざまな問題を引き起こします。
外部EGRと呼ばれるものは、排ガスをシリンダー内に再循環させる前にEGRクーラーで冷却しますが、HCはクーラー内部に溜まる堆積物の原因となります。堆積物は熱伝導率が低下させるので、クーラーが機能しなくなります。
そこで冷間始動時やアイドリング時にはEGRを停止し、EGRクーラーを保護する必要があるのです。
凝縮水の問題
燃料中の硫黄分は、燃焼によって二酸化硫黄(SO2)となります。それが吸気で生まれた凝縮水と反応し、硫酸に変化してしまいます。硫酸はエンジン内部を腐食させる原因です。
凝縮水は大気を圧縮、または冷却するほど増加します。圧縮・冷却するほど飽和水蒸気量が減るからです。
ターボチャージャーで大気を圧縮、インタークーラーで冷却している上に、冷間始動でエンジンが冷えている状態で、さらに外部EGRで冷却した排ガスをシリンダー内に再循環させれば、凝縮水が増えてしまいます。
エンジンを腐食から守るために、外気温が低いときや冷間始動時にはEGRを停止するのです。
ドイツ以外の自動車メーカーも?
今回のリコール発表では、実走行テストで基準値をオーバーしたドイツ以外の自動車メーカーにも言及されています。
基準値超えが指摘されたのは、アルファロメオ、シボレー、ダチア、フィアット、フォード、ヒュンダイ、ジャガー、ジープ、ランドローバー、日産、ルノー、スズキ(フィアット製ディーゼル搭載車種)の計11ブランドです。
また、PSAグループ(プジョー、シトロエン、DS)に関しては、すでにフランス当局から家宅捜索を受けています。
メルセデス・ベンツも、北米で「スイッチオフ技術」関連の民事訴訟を起こされていましたが、米国司法省も動き始めているようです。
脱法と保護システムの境界線
繰り返しになりますが、VW以外の自動車メーカーは、違法デバイスを使っていたわけではありません。実走行テストで基準値をオーバーするのは脱法的との指摘をされているだけです。
産経のこの記事を読むと違法ソフトウェアが使われているように読めますが、どの海外メディアも、日産やスズキがいわゆる「ディフィートデバイス」の使用したなどとは報じていません。
ドイツ当局はスイッチオフ技術を、「法の精神に反している」と考えているようですが、保護システムの必要性は明らかです。
ドイツ当局は脱法(=過剰なエンジン保護)と適切なエンジン保護との境界線をどのように引くべきかの指針を示していなかったにもかかわらず、世間の批判に迎合して「脱法的」と言い出すのは虫が良すぎます。VWのスキャンダルを誤魔化すためではないかと、うがった見方をされても仕方ありません。
日本の国交省では、エンジン保護のガイドラインを策定する方向で調整に入っているようです。いきなり吊し上げるのではなく、冷静な議論から対応を協議することが求められています。
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