ロータリーエンジンの仕組みについて詳しく解説

テクノロジー・業界分析,批評

RE雨宮マツモトキヨシRX-7

画像の出典: supergt.net

ロータリーエンジンは本当に復活するのか?

まずは大手メディアの報道を見てみましょう。日経は結構飛ばし記事書きますが……。

マツダ、ロータリーエンジン「復活」 東京モーターショー – 日本経済新聞

2014年11月の時点では、マツダ・小飼社長の反応も否定的です。

【レポート】マツダの小飼社長が、ロータリー・スポーツカー復活計画を否定 – autoblog

ところが2015年10月になると、その小飼社長がロータリーエンジンの開発を進めていることを明らかにします。

マツダ小飼社長、ロータリーエンジンは「使命感もって開発している」 – response.jp

総合すると、「ロータリーエンジンを搭載したスポーツカー」は開発していないが、「ロータリーエンジン自体」は開発している、ということになります。

なぜマツダはロータリーエンジンにこだわるのか?

マツダがロータリーエンジン(以下、RE)を開発していることがニュースになるのは、REの開発を継続しているのはマツダだけという特殊性があるためです。そのことはつまり、マツダ以外の自動車メーカーが、REの将来性に見切りをつけているということを意味します。

なぜマツダはロータリーエンジンにこだわるのか。そしてなぜマツダ以外のメーカーはREを見捨てたのか。ロータリーエンジンを知れば、その答えが見えてきます。


ロータリーエンジンの仕組み

まずはこちらをご覧ください。


REが「積み木のようなエンジン」と言われている理由がわかりますね。繭型のローターハウジングの中におむすび型のローターを入れて、サイドハウジングでサンドイッチにしただけのシンプルな構造だからです。

繭型のローターハウジングとおむすび型のローターとの間にできる空間が、レシプロエンジンで言うところのシリンダーに該当します。

4サイクルのレシプロエンジンでは、ピストン位置が下死点と上死点を往復運動する間に、吸気→圧縮・着火→爆発→排気の行程を行います。

REでは、おむすび型のローターが1回転する間に、9時から12時の位置で吸気→12時から3時の位置で圧縮・着火→3時から6時の位置で爆発→6時から9時の位置で排気の行程を行います。

ロータリーエンジンのメリット

4サイクルレシプロエンジンが上記の1行程を完結する間に、クランクシャフトは2回転します。REの場合は、エキセントリックシャフト(レシプロエンジンのクランクシャフトに該当するパーツ)が1回転する間に、ローターは1/3回転し、1回の爆発が起こります。つまりエキセントリックシャフトが3回転すると、ローターが1回転し、3回の爆発が起こります。

4サイクルレシプロエンジンとREが共に6000rpmのとき、前者はクランクシャフトが6000回転して3000回の爆発が、後者はエキセントリックシャフトが6000回転、ローターは2000回転し、6000回の爆発が起こります。

よって4気筒の4サイクルレシプロエンジンと、2ローターのREは同等のパワーを発揮します。しかもREはカムシャフトやバルブのような動弁系部品がありませんから、レシプロエンジンよりも軽量です。

車の中で最も重いコンポーネントであるエンジンが軽ければ、モノコックへの負荷も減りますから、ボディを軽く作ることができます。車体が軽くなれば、ブレーキの容量を小さくできます。なのでバネ下重量も軽くできます。軽量コンパクトでハイパワーなREを搭載すれば、シャシー全体を軽量化できるのです。

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ロータリーエンジンのデメリット

良いことずくめに見えるREですが、大きな欠点もあります。

燃焼室の問題

燃焼室形状の悪さは、REの構造上どうしようもない問題です。吸気時の混合気や、排気時の燃焼ガスの流れを考えた結果、REの燃焼室はバスタブ型になりました。しかしコンパクトとは程遠い燃焼室形状は熱損失が大きく、REの燃費を悪化させる原因となっています。

燃焼室自体が移動することも問題です。容積に対し表面積が小さいのが理想なのですが、移動する燃焼室は表面積を増やしてしまいます。よって燃焼ガスが持つエネルギーがローターを回転させるためではなく、ハウジング内の冷却水を温めるために使われてしまうのです。

吸気の問題

バルブが無いことは利点でもあり、欠点でもあります。レシプロエンジンでは、吸気バルブを開いてシリンダー内に空気を送り込みますが、この空気の流れは質量を持っているため、バルブを閉じた後もシリンダー内に入ろうとし続けます。これを吸気慣性効果と言います。吸気管の中に空気が押し込められて溜まるイメージです。レシプロエンジンでは吸気慣性を利用してより多くの空気を取り込む工夫がされていますが、REにはバルブが無いためそれができません。

サイドポートの吸気効率の悪さも問題です。オーバーラップ(ひとつの燃焼室に吸気と排気のポートが同時に存在してしまい、排気ガスが吸気側に吹き抜ける現象)を少なくできるメリットはありますが、吸気管から90度曲げる構造ではスムーズに空気が入りません。

REの吸気効率の悪さは、低回転でエンジン内部の負圧が低いときに、トルクの弱さとして現れます。

その他にも問題が

シール類からの燃焼ガスの漏れや、オイル消費量の多さ、冷却損失の多さ=冷却システムの大型化による重量増、熱膨張の関係でアルミ合金などをエンジンに使用することが難しいなど、REの問題点は挙げればキリがありません。

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ロータリーエンジンはマツダのアイデンティティ

REはモーターのようなフィーリングや、高回転でのジェットエンジンのような音など、感性に訴えかけてくるエンジンです。しかし上記のような問題点があることを考えると、自動車メーカーに見捨てられても仕方がないのかな……と思います。

だからマツダにとっても、REの開発を継続する積極的な理由は無いはずです。でもマツダはREを見捨てない。REは、マツダのアイデンティティだからです。逆説的ですが、マツダ以外の自動車メーカーがREを見捨てたからこそ、REの開発を続けることがアイデンティティ足りえるのです。

巨人に勝つために

世界の自動車メーカーの中では、マツダの企業規模はそれほど大きくありません。小さなマツダが自動車業界の巨人たちと伍していくには、「なぜマツダでなければならないのか」という問いに答えなければなりません。REの開発継続は、その答えのひとつでしょう。

アイデンティティやプライドに対するこだわりは、比較的小規模なメーカーの方が強い気がします。スバルやボルボ、フェラーリやランボルギーニなど、独自の世界観や哲学を有するメーカーの車は、大メーカーが送り出す車には無い、独特のオーラを放っています。

逆に言うと、独自の世界観や哲学を持たないメーカーは、規模を追うことでしか生き残れません。そして規模を追うほどに、無味無臭のつまらない車しか作れなくなっていくのです。

マツダのロータリーエンジン開発が上手くいくかはどうかはわかりません。けれど大メーカーに挑む企業の姿勢として、他メーカーには無いこだわりを持つことは正しいと思います。たとえ新型ロータリーエンジンが失敗に終わったとしても、マツダのブランド価値が下がることはないでしょう。

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