FCAがマセラティとアルファロメオを売却するかもしれない
フィアット・クライスラー・オートモービル(以下、FCA)が、傘下の高級車ブランドであるマセラティとアルファロメオを売却するのではないかという噂が流れています。
売却説を後押ししているのは、大規模なリコール費用と巨額の債務です。今回は売却説の現実味について検証してみました。
FCAの現状
実はFCAの業績そのものは悪くありません。
2016年第3四半期(Q3)の決算では、6億3400万ドルの純利益を計上しています。
前年同期は3億5200万ドルの純損失だったのですから、業績は大幅に改善しているのです。
マセラティやアルファロメオの主戦場であるヨーロッパ市場においても、2015年Q3の純利益は2100万ドルでしかありませんでしたが、2016年Q3には1億900万ドルにまで回復しています。
それでもFCAの将来が懸念される理由
直近の業績は好調なFCAですが、シティ・リサーチ(米国のメガバンク・シティグループの投資調査部門)はFCA株の売りを推奨しています。
FCAが7000億ドルの巨額債務を抱えており、そのうえ年金債務の積立不足が懸念されているためです。
さらなる大型リコールの可能性
FCAは8速ATのセレクトレバーの不具合で、リコール届けを既に提出済みです。
これは電気的なセレクターゆえに、シフトチェンジしても機械的な感触が無く、ドライバーが「P」レンジに入ったと誤解してしまい、実際には「N」レンジのまま車を降りてしまうという不具合で、対象車種は110万台に及んでいます。
しかし12月に入ると、今度はFCAのロータリー・シフター(ロータリースイッチをもちいたATセレクター)の問題が、にわかに取り沙汰されるようになりました。
「駐車中のFCA車が動き出してしまう」との苦情を捜査していたNHTSA(National Highway Traffic Safety Administration, 米国運輸省の下部組織である、国家道路交通安全局のこと。)が、このロータリー・シフターを原因とみなしたためです。
この不具合もATがらみですが、先述の不具合と異なるのは、ロータリー・シフターが「P」レンジをおそらく選択していたにも関わらず、実際には車両が動いてしまっているという点です。
つまりロータリー・シフターで「P」を選択しても、実際には「P」レンジに入らない不具合があるのでは? と疑われているのです。
ロータリー・シフターはダッジ・ラムやダッジ・デュランゴに搭載されており、NHTSAは対象車種を100万台と推定しています。
後者の不具合について、FCAはまだリコール届けを出していません。
よってどの程度の損失となるかはまだ不明です。
FCAの株価は現在のところ、直近52週の高値圏で推移しています。
SUVやピックアップ・トラックブームの終焉
「巨額負債」「年金積立不足」「リコール問題」に続くFCAにとっての第4のリスクは「ライトトラック販売の鈍化」です。
そもそもFCAの株価が高値圏で推移しているのは、トランプブームが米国での販売を下支えすると見られていたためです。
そしてFCAのラインナップはライトトラック(SUVやピックアップ・トラックの総称)に集中しています。
米国重視の商品戦略をとっているわけです。
実は米国で販売が伸びているのはライトトラックだけであり、乗用車は2015年11月以降、前年同月比での減少を続けています。
しかし乗用車の減少幅を上回るほどライトトラックが売れていたので、FCAの業績も右肩上がりでした。とはいえ流石に最近ではライトトラックの伸び率も鈍化してきています。
買い替え需要が一巡すれば販売台数が落ちてくるのは当然ですし、トランプブームもアベノミクスと同様に市場の期待を煽るだけのものですから、長続きはしないでしょう。
したがって2017年は、ライトトラック頼みのFCAにとって、試練の年になると見られているわけです。
マルキオンネCEOの決断は?
FCAのセルジオ・マルキオンネCEOは、株主価値に大きな関心を寄せるリーダーだと言われています。
フェラーリを単独上場させたのを見ても、そのことに疑いはありません。
ベレンバーグ銀行は、マセラティとアルファロメオ、それにマニエッティ・マレリを売却することで、巨額負債や年金の積立不足を解消し、FCAの株主価値を最大化できると主張しています。
モルガン・スタンレーは「ジープ・ブランドの価値が見落とされている」とし、デレバレッジング(負債の解消)によって株価を押し上げられると見ているようです。
売却の可能性
市場関係者らは「マルキオンネCEOは株主を大事にする」ので「マセラティやアルファロメオを売る(だろう)」と見なしています。
フェラーリを手放した「前科」があるマルキオンネ氏ですが、マセラティやアルファロメオはおそらく売れないでしょう。
マセラティは2015年に過去最高の販売台数を記録(約36500台)しており、SUVのレヴァンテのおかげで2016年も好調を維持しています。
とくにヨーロッパでは稼ぎ頭になりつつあるので、これを手放すというのはありえません。
マセラティは2018年までに年間75000台を販売するという目標を掲げており、そのために巨額の設備投資を続けてきました。
その設備投資にゴーサインを出したのは、マルキオンネCEO本人です。
同じことがアルファロメオにも言えます。
マルキオンネCEOはアルファロメオの年間販売台数を、2018年までに40万台(2014年比で約5.6倍)へと引き上げるべく、やはり巨額の投資を行ってきました。
マルキオンネCEOは、ジープ、マセラティ、アルファロメオなどのブランドに、2014年からの5年間で480億ユーロを投資する「新5ヵ年計画」をぶち上げた張本人です。3ブランドの新車ラッシュからもわかるように、すでに相当な金額がつぎ込まれています。
しかし上記ブランドの価値は、FCAが投資した金額以上にはまだ育っていないでしょう。
よって売却で利益を出すのは難しい。
なので売りたくても売れないのです。
ただ、マニエッティ・マレリに関しては売れるし、実際に売る可能性も高いと思われます。
マニエッティ・マレリの売却先としては、サムスン電子が有力とのことです。