【WRC】2017年規定のWRカーは危険すぎる
事故が相次ぐ中での高速化に疑問
WRCに2017年から導入される新規定に合わせたマシンの姿が、徐々に明らかになってきました。かなりのペースアップが見込まれているようですが、はたして安全面の問題はないのでしょうか?
ラリーは本質的にリスキーな競技だ
グループBでの悲劇を乗り越えWRCが発展してきたことから、今のラリー競技は安全だと思われがちです。
たしかに車両自体の安全性はグループBのときよりも格段に高くなってますし、コースの設定も安全性に配慮されたものになっています。
しかし、ラリーは天候や路面状況の急変などで状況が一変してもピットインすることはできず、エスケープゾーンが無いために少しのミスでも車がコースアウトするなど、競技のリスキーな本質は今も変わっていません。
観客を巻き込む事故が多発
直近5年間に発生した、観客とラリーカーの接触事故をまとめてみます。
- 2012年 IRC(現ERC)「Barum Czech Rally Zlin」でラリーカーが160km/hでクラッシュ。巻き込まれた観客が死亡。
- 2014年 スコットランドの「ジム・クラーク・ラリー」で、観客を巻き込む事故が2度発生。3人死亡、6人負傷という大惨事に。
- 2015年9月 スペインの「ア・コルーニャ・ラリー」で、ラリーカーがコントロールを失い沿道の観客に突っ込んだ。この事故で妊婦1人を含む6人が死亡。
- 2016年1月 WRC「ラリー・モンテカルロ」のSS11で、コースアウトしたヤリ-マティ・ラトバラ(VW)が、コースに復帰しようとした際に観客の1人と接触。幸い観客は無事だったが、ラトバラには執行猶予付きの出場停止処分と罰金5千ユーロがFIAから言い渡された。
- 2017年1月 WRC「ラリー・モンテカルロ」のSS1において、ヘイデン・パッドン/ジョン・ケナード組のヒュンダイi20クーペWRCがクラッシュした際、観客と接触。跳ね飛ばされた観客が死亡した。
国内ラリーにおける観客に接触事故に関してFIAは、オーガナイズに問題があったとの見解を示しています。危険な場所に入り込んだ観客を排除できなかったことなど、運営側の不手際こそが観客を巻き込む事故の原因だと考えているようです。
しかし国際イベントであるIRC(現ERC)やWRCは、十分な体制のもとで運営されていました。にも関わらず、やはり観客との接触事故は起こっています。オーガナイズの問題だけとはとても思えません。
ラリーカーがクラッシュする際の衝撃は、サーキットレースよりも大きい
ラリーはサーキットレースよりも平均速度が遅いです。
しかし、だからといってラリーの方が安全というわけではありません。
確かにサーキットを走る車の平均速度は速い。
ハコ車レースの最高峰であるSUPER GTでも、富士スピードウェイなどでは平均速度170km/hをゆうに越えます。
ラリーカーの最高速に近い速度が、平均速度なわけです。
ですがサーキットの場合は、サンドトラップやコース外のハイグリップ舗装により、クラッシュする際の速度は十分に減速されていますし、その先にはタイヤバリアやクッションまで用意されています。
速度を十分に落とした上に、衝撃を吸収する物体に衝突させることで、高速域からのクラッシュに対する安全性を可能な限り高めているのです。
翻って、ラリーではどうでしょうか? サンドトラップもタイヤバリアもありません。
コースオフしたら即、岩に激突というシチュエーションも珍しくないのです。
だからこそラリーカーは十分に「遅く」なければなりません。
ダウンフォースが増えればむしろ安全になる?
どんなに気をつけても事故は起こります。そして沿道にもっとも多くの観客が詰めかけるWRCは、観客を巻き込む事故が最も起こりやすいラリー・シリーズであると考えられるのです。
そんなWRCでさらに速いマシンを走らせようというのですから、グループBで起こった悲劇の数々が、ファンの脳裏をよぎるのも無理はありません。
17年規定のマシンは安定路線?
2017年規定ではエンジンのパワーアップが図られますが、全幅が拡大され、ダウンフォースが増加し、センターデフも追加されることから、車体の安定性は高まるとされています。
たしかにマシンは安定するでしょう。しかし限界速度が高くなると、タイヤグリップが破綻するときの速度も高くなり、ひいてはクラッシュ時のダメージも大きくなります。
上述のようにサンドトラップ等が無いわけですから、クラッシュ時の速度を高めるのは危険です。
WRCのプロモーターは新規定に期待しているようですが、ドライバーや大会主催者などは安全性についての懸念を露わにしています。
安定性の高いマシン≠安全なマシン
先述したように、ラリーは本質的にリスキーな競技です。スペシャルステージは不確実性に満ちており、走行中に何が起こってもおかしくはありません。
ラリー特有のリスク
トミ・マキネンはランサー・エボリューションⅣを200km/hで走らせていた際に、コース上に突如現れた牛と激突したことがあります。ラリー・メキシコでは心ない観客が走行ライン上に大きな石を並べ、エフゲニー・ノビコフをリタイアに追い込んだりもしました。
思いもよらぬことが起こるからこそラリーは面白いのですが、その面白さは危険と表裏一体です。だからこそ安全を最優先にしなければなりません。
よってラリーにおいて安全性を高めるには、マシンを遅くするしかないのです。
十分なダウンフォースが出ている安定したマシンとて、牛とぶつかれば車体はグシャグシャです。けれど衝突時のスピードが低ければ、ドライバーとコ・ドライバーが生還する確率は高くなります。
また、平均時速が下がればドライバーは余裕をもってマシンをコントロールできますから、コースアウトして観客を巻き込む事故を起こすリスクも低下するはずです。
「速さ」でファンが増えるのか
WRCのプロモーターは、マシンが速くなればファンも増えると主張しています。
しかし観客に多数の死傷者が出るような大きな事故が起きた場合には、WRCの存続が危ぶまれる事態になることは確実です。
リスクとリターンを天秤にかけたとき、あまりにもリスクが大きすぎると感じるのは筆者だけでしょうか。
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