WRC2017 ラリーメキシコ トラブル続出でトヨタも窮地に!【3/13更新】

WRC,モータースポーツ

トヨタがラリー・スウェーデンで優勝してから約1ヶ月、舞台を極寒のスカンジナビアから太陽が照りつけるメキシコへと移し、2017年のWRC第3戦がスタートしました。

ラリー・メキシコは先頭走者が圧倒的に不利となるダスティなグラベルと、高地ゆえの空気の薄さが特徴のラリーです。
トヨタのヤリ-マティ・ラトバラはポイントリーダーなので、序盤は先頭走者として路面の掃除役を強いられます。
トヨタ・ガズーレーシングは、再び奇跡を起こすことができるのでしょうか。

このページではラリー・メキシコ4日間の戦いを、ドライバーのコメントを中心にダイジェストでまとめていきます。

更新情報

4日目のダイジェストを追加しました。(2017/03/13)

3日目のダイジェストを追加しました。(2017/03/12)


2017年のラリー・メキシコ

初日・2日目

初日は恒例のストリートステージ(1.57km)を2回走行するだけですが、なんと20万人もの観客が押し寄せたそうです。
F1のメキシコGPも観客が多いことで有名ですし、メキシコのモータースポーツ人気は相当なものですね。

SS(スペシャルステージ。競技区間のこと)0と1を終えた時点でトップに立ったのは、トヨタのユホ・ハンニネンでした。
彼がWRCでトップに立つのは、これが初めてのことです。

初日の熱気そのままに2日目も始まったのですが、交通事故を原因とする大渋滞でマシンが到着できず、SS2・3はキャンセルになってしまいました。

SS4(54.9km)

このロングステージでトップタイムを叩き出したのは、シトロエンのクリス・ミークでした。
「クリーン・ロードの恩恵を受けたよ」とミーク。「丸石の転がる路面を上手く乗りこなす必要のあるステージだったけど、ハッピーだ。」

ここまで2戦連続でリタイアに終わっていたミーク。メキシコで名誉挽回となるか。

一方、セバスチャン・オジェは2位。
「ステージの大部分でオーバーヒートのアラームが付いていた」と、早くもメキシコの洗礼を受けてしまいます。

昨年ここメキシコで優勝しているトヨタのヤリ-マティ・ラトバラも、オーバーヒートに悩まされ、SS4は9番手タイム。
「エンジンが熱くなりすぎたので、一般道を走るときのモードで走らなければならなかった。センターデフもオーバーヒートしてるし、ブレーキもステージの半分までしか適切に機能しなかったよ」

スウェーデンでの歓喜から一変、いきなりトラブルに見舞われたラトバラ。

SS5(19.68km)

トップタイムはヒュンダイのティエリー・ヌービルでした。
2戦連続で彼は優勝を間近で逃しているだけに、メキシコでは何としても勝ちたいところでしょう。
「最後の方でタイヤが滑りすぎてました。SS4でのタイムの悪さを説明できません(ヌービルは5番手だった)。上手く運転できていたと思うので、(エンジンが)多くのパワーを失っていたのだと思います」

2番手タイムのオジェは「SS4より良くなった」とコメント。
ミークは4番手タイムでしたが、総合では首位をキープ。
この時点におけるミークとオジェのタイム差は15.4秒でした。

ディフェンディング・チャンピオンのオジェは貫禄の走り。

SS6(1.09km)・SS7(1.09km)

SS6はグアナフアトでのストリートステージで、ヌービルが制しました。

SS7メキシコ・グアナフアト州の州都レオンに設けられたスーパースペシャルステージ。こちらはミークが制し、このラリー2度目のステージウィンをもぎとります。

ここでトラブルに見舞われたのはヒュンダイでした。
SS7をスタートする際、i20クーペWRCにミスファイアが発生。
ヌービルとヘイデン・パッドンは何とかステージを完走したものの、ダニ・ソルドがリタイアに追い込まれてしまいました。

ヒュンダイ勢は揃って後退してしまう。

ヒュンダイ勢が崩れたことで、トヨタのユホ・ハンニネンは総合4位に浮上しています。

SS8(2.3km)

SS7のリピートステージ。
トップタイムを記録したのは、中国製DMACKタイヤを履くフォードのエルフィン・エヴァンスでした。

2番手タイムはオジェ、3番手タイムはハンニネン、ミスファイアを抱えながら走るヌービルは11番手タイムに沈みましたが、総合では3位をキープしています。
総合4位のハンニネンは、フォードのオットー・タナクと秒差のバトルを展開中です。

2日目終了時点の総合順位
順位 ドライバー/メーカー 総合タイム/トップからの差
1 クリス・ミーク 1:01:33.8
シトロエン ──
2 セバスチャン・オジェ 1:01:54.7
フォード +20.9
3 ティエリー・ヌービル 1:02:30.5
ヒュンダイ +56.7
4 ユホ・ハンニネン 1:03:01.1
トヨタ +1:27.3
5 オットー・タナク 1:03:06.7
フォード +1:32.9
6 ステファン・ルフェーブル 1:03:26.6
シトロエン +1:52.8
7 ヘイデン・パッドン 1:03:35.9
ヒュンダイ +2:02.1
8 ヤリ-マティ・ラトバラ 1:04:04.6
トヨタ +2:30.8
9 ティデマンド・ポンタス 1:04:58.1
シュコダ(WRC2) +3:24.3
10 エリック・カミリ 1:05:33.5
フォード(WRC2) +3:59.7

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3日目

3日目以降リバース順のスタートとなり、上位陣が路面の掃除役となることはなくなりますが、トラブルで順位を落としていたラトバラは2番手スタート。
トヨタ不利の状況は変わっていません。

SS9(27.42km)

序盤6kmが高速で、後半はナロー&ツイスティなテクニカルステージ。
このステージでトップタイムを叩き出したのは、昨日デイリタイアを喫したヒュンダイのダニ・ソルドでした。

「もっと上手く走れるようトライした、高速セクションのグリップは信じられないほど高かったよ」とソルド。「車は良く機能している。昨日のリタイアには失望したけど……それも人生だからね」

巻き返したいトヨタのヤリ-マティ・ラトバラでしたが、7番手タイムに終わってしまいました。
「車は大丈夫。問題無いよ。少しだけプッシュしたけど、もちろん私たちは安全重視さ」

ヤリ-マティ・ラトバラがドライブするトヨタ・ヤリスWRC

上位陣のオーダーは、ミーク、オジェ、ヌービルの順のまま変わりませんでした。

SS10(38.31km)

3日目最長ステージ。登りは道幅が広いものの、使われていない道路の方は狭くなっています。
路面はスムースなグラベルとバンピーで固い道のミックスです。

このステージのトップタイムはまたしてもソルド。
しかし0.9秒差でミークが2番手、3番手がオジェでした。

ラトバラは8番手タイム。「ここは滑りやすくてウェットだった。エンジンは快調だよ。でも20kmあたりからブレーキが効かなくなった。ペダルの感触は良いんだけど……止まらないんだ」

トップ3は変わらず。
しかしミークが少しづつオジェを引き離しにかかっています。

SS11(10.09km)

フィニッシュ手前1.2km地点にあるビッグジャンプが有名なステージ。
グレーダーが入った路面は圧縮されて硬く引き締まっており、スタートからフィニッシュまでワイドで開けたコースとなっています。

このステージはヒュンダイのヌービルがトップタイム。「セットアップを少し変えてみました。このスピードでは前の二人を捉えることはできないと思いますが、プレッシャーをかけ続けようと思います」

ティエリー・ヌービルがドライブするヒュンダイi20クーペWRC

そのヌービルの言葉のとおり、トップと同タイムを記録したのはミークでした。「今日は調子がいい。午後もこの調子でいきたいね」

0.8秒差の3番手タイムはオジェ。「悪くない。少しでも良くしたいといつも思ってるけど、午後にはクリーンループがあるからね」

トップ3のオーダーは変わらず。
しかし2位オジェと3位ヌービルの差は43.6秒、ヌービルと4位タナクの差は51.9秒と開いており、優勝争いはミークとオジェの2人に絞り込まれてきました。

SS12(27.42km)

SS9のリピートステージ。
オジェがトップタイムを奪いますが、ミークも2.2秒差の2番手タイムで続きます。

トヨタのハンニネンは9番手タイム。初日からずっと体調不良を抱えている彼は、ペースが上がりません。「サービスパークで治療を受けました。今は気分も少し良くなりましたよ」

ハンニネンは体調不良をおしてラリーを続ける。

8番手タイムのラトバラは、目標を完走に切り替えたようです。「私たちはデータ集めをしている、一番重要なことだからね。(このステージでは)特にタイヤをどのようにセーブするかについて、少し実験的になりすぎたよ」

SS13(38.31km)

SS10のリピートステージ。
ここでは首位ミークがトップタイム。総合2位のオジェは18.2秒差の4番手タイムと、大きく遅れてしまいました。

「本当に滑りやすくて、最後の方のヘアピンでスピンしてしまった」とオジェ。「低速のヘアピンだったけど、10秒はロスしたと思う」

スウェーデンに続き、優勝争いの最中に痛恨のスピンを喫したセバスチャン・オジェ。

一方、ミークは余裕が出てきたのか雄弁です。「このループは決定的だろう。ポイントは、我々はハードタイヤを選ぶしかなかったということだ。フロントにハード、リアにソフトというチョイスが、我々にとって決定的なステージとなった。良いタイムだったが、まだ先は長い」
ミークはシェイクダウンでソフトタイヤをパンクさせてしまっているので、タイヤの選択肢が少なかったのですが、それが良い方に転んだようですね。

大きなリードを築いたシトロエンのクリス・ミーク。

SS14(10.09km)

SS11のリピートステージです。
ここでトップタイムを叩き出したのはフォードのオットー・タナクでした。

2日目はトラブルで出遅れたタナク。巻き返しなるか。

オジェも0.4秒差の2番手で続きますが、ミークも3.0秒差の4番手タイムで踏みとどまり、両者の差はなかなか縮まりません。

「今日できる限りのことはやっている」とオジェ。「しかしクリス(・ミーク)が速すぎる、今の我々は彼と戦えないね。もし2位でこのラリーをフィニッシュできるなら、それでもまだとてもポジティブだよ」と、すでに戦意喪失の様子でした。

SS15(2.3km)・SS16(2.3km)

レオン市内に設けられたスーパースペシャルステージ。
フォードのエルフィン・エヴァンスが両ステージともトップ。
そして2番手タイムはどちらもトヨタのラトバラでした。

なぜかスーパースペシャルで速い、DMACKタイヤユーザーのエヴァンス。

短いステージなので、総合タイムに大きな差は付きませんでした。
やらかし癖のあるミークがこのまま優勝できるのか、最終日の走りにも要注意です。

3日目終了時点の総合順位
順位 ドライバー/メーカー 総合タイム/トップとの差
1 クリス・ミーク 2:46:13.9
シトロエン ──
2 セバスチャン・オジェ 2:46:47.3
フォード +33.4
3 ティエリー・ヌービル 2:47:26.8
ヒュンダイ +1:12.9
4 オットー・タナク 2:48:26.6
フォード +2:12.7
5 ヘイデン・パッドン 2:49:40.0
ヒュンダイ +3:26.1
6 ヤリ-マティ・ラトバラ 2:50:46.4
トヨタ +4:32.5
7 ユホ・ハンニネン 2:50:47.1
トヨタ +4:33.2
8 ダニ・ソルド 2:51:32.1
ヒュンダイ +5:18.2
9 エルフィン・エヴァンス 2:54:37.1
フォード +8:23.8
10 ティデマンド・ポンタス 2:55:40.0
シュコダ(WRC2) +9:26.1

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4日目

最終日は2つのSSのみ。2位のオジェがトップのミークにどれだけ迫れるかが焦点となります。

SS18(32.96km)

ところがここでベストタイムを記録したのはミークの方でした。
ミークはオジェとの差を37.2秒にまで拡大し、勝利をほぼ確実としたのです。

勝敗は決まったかに思えたが……。

SS19(21.94km)

最終SSは順位に応じてポイントが付与されるパワーステージ。
ミークの優勝を疑う者はもはやいませんでしたが、なんとそのミークが高速コーナーで大きくコースアウト!


ミークはコースを見失い、観客の車が駐めてある駐車場の中をさまよう羽目に。
その後なんとかコースには復帰したものの、ロスタイムがあまりに大きく、しかもパンクまでしており、オジェに勝てるかどうか不透明な状況に陥ってしまいます。

ミークはこのパワーステージをオジェから23.4秒遅れでフィニッシュし、辛くも逃げ切りに成功しました。
ミークはこれでWRC通算4勝目です。

「ジャンプの後にバンプを踏んじまった」とミーク。「でも俺はラッキー、ラッキーボーイだ。これもラリーのフィニッシュのひとつさ、ま、俺は望んじゃいなかったけど……」

表彰台でも喜ぶというよりも、むしろホッとした表情だったミーク。まさに薄氷の勝利でした。

トヨタのラトバラはトラブル続きだったラリーでしたが、最終ステージは全開アタックを敢行。最後の最後でようやく車が仕上がったようです。

「エンジニアが素晴らしい仕事をしてくれたソフトウェアがここにある」とラトバラ。「車のフィーリングはこの週末でベストだった。ハードにプッシュしたよ。さて、パワーステージでポイントを取るのに十分だったか見てみよう」

ラトバラはこのパワーステージで4位だったので、2ポイントを獲得することができました。

ラリーメキシコ最終結果
順位 ドライバー/メーカー 総合タイム/トップとの差
1 クリス・ミーク 3:22:04.6
シトロエン ──
2 セバスチャン・オジェ 3:22:18.4
フォード +13.8
3 ティエリー・ヌービル 3:23:04.3
ヒュンダイ +59.7
4 オットー・タナク 3:24:22.9
フォード +2:18.3
5 ヘイデン・パッドン 3:25:37.5
ヒュンダイ +3:32.9
6 ヤリ-マティ・ラトバラ 3:26:44.9
トヨタ +4:40.3
7 ユホ・ハンニネン 3:27:10.8
トヨタ +4:40.3
8 ダニ・ソルド 3:27:10.8
ヒュンダイ +5:06.2
9 エルフィン・エヴァンス 3:30:46.4
フォード +8:41.8
10 ティデマンド・ポンタス 3:32:56.5
シュコダ(WRC2) +10:51.9

2017年3月13日16時追記

オジェのマシンのギアボックスにレギュレーション違反の可能性があるとして、再検査が行われるそうです。順位に変動があるかもしれません。続報が入り次第、情報を更新します。

追記

オジェのマシンに問題は無いと判断されたようです。よって上記の結果で確定となりました。

選手権ポイント(第3戦ラリーメキシコ終了時点)
順位 ドライバー メーカー ポイント
1 S.オジェ フォード 66
2 J-M.ラトバラ トヨタ 58
3 O.タナク フォード 48
4 D.ソルド ヒュンダイ 30
5 T.ヌービル ヒュンダイ 28
6 K.ミーク シトロエン 27
7 C.ブリーン シトロエン 20
8 E.エヴァンス フォード 20
9 H.パッドン ヒュンダイ 17
10 S.ルフェーブル シトロエン 10
11 J.ハンニネン トヨタ 9

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次戦はフランス、ツール・ド・コルス

次はフランス・コルシカ島で行われる伝統のターマック(舗装)ラリーです。ツイスティで高低差のあるマウンテンロードを主体としたステージでは、俗にコルシカウェザーと呼ばれる急激な天候変化が、これまでに数多くのドラマを生み出してきました。

オフシーズンテストの様子を見る限り、ターマックではシトロエンが速そうですが、オジェやヌービル、ソルドなどは、ターマックを得意としています。
優勝争いは彼らを中心に展開されるはずです。

逆にトヨタ勢はラトバラもハンニネンもグラベル育ちなので苦戦するでしょう。
しかし今回のメキシコではエンジントラブルを素早く修理するなど、トヨタチーム全体が着実に成長していることを窺わせるシーンもありました。
ターマックできっちり完走できれば、来年以降につながる貴重な経験となるはずです。

ヤリスWRCも確実に速さを増しているが、今は雌伏の時だ。

次戦ツール・ド・コルスは、4月6日のスタートとなります。
同じ週末にはスーパーGTも開幕しますし、モータースポーツファンにとっては忙しい週末になりそうですね。

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