カナダの大富豪がアストンマーティンの大株主に! それでも経営再建は厳しい!?

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Aston Martin DBX badge

カナダの億万長者であるローレンス・ストロール氏が、アストンマーティン・ラゴンダの株式16.7%を取得し、大株主となりました。
株式の取得価額は1億8,200万ポンドとのことですが、今後追加発行された株式もストロール氏が取得するため、彼の投資総額は5億ポンド(約715億円)に達する予定です。

ローレンス・ストロール氏は、レーシングポイントF1チームも所有しており、2021年からはチーム名をアストンマーティンに変更し、ワークスチームとして参戦すると言われています。
アストンマーティンはレッドブルのメインスポンサーを2020年限りで終了することを既に発表しているので、F1への影響も大きそうです。

今回は最近のアストンマーティンの経営状態と、今後の展望を見ていきます。


アストンマーティンの経営状態

Aston Martin DBS Superleggera Volante
DBSスーパーレジェーラ・ヴォランテ

アストンマーティンの株価は2018年10月のIPO(新規株式公開)以来、値を下げ続けています。
現在の株価水準は、IPO時の1/4程度しかありません。
IPO直前の状況に関しては、以下のリンク先の記事をご覧ください。

アストンマーチンの新規上場とそのリスク

株価が低迷している理由は、同社の業績が芳しくないからです。
アストンマーティンは上場直前の2017年通期決算こそ黒字だったものの、2019年上半期には7880万ポンドもの損失を出し、赤字に転落してしまいました

2017年以前の10年間も赤字続きだったので、元に戻っただけとも言えるのですが、ブレグジットや米中貿易摩擦、そして新型コロナウィルスの流行(=中国市場の減速)など、アストンマーティンを取り巻く環境は悪化の一途を辿っているので、状況はIPO以前よりも厳しくなっています。

Aston Martin DBX
DBXで起死回生となるか

頼みの綱は新型SUVの「DBX」ですが、ラグジュアリーSUVの市場も飽和状態なので、上手くいくかはわかりません。
実際、DBXと競合するベントレー ベンテイガの売れ行きは期待されたほどではなかったようです。
アストンマーティンのアンディ・パーマーCEOは、DBXを年間4,000~5,000台ほど生産したいとコメントしていますが、ポルシェ カイエンランボルギーニ ウルス、そしてレンジローバーなどと競争しつつ、それだけの台数を販売するのは厳しいと言わざるを得ません。

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ストロール氏に勝算はあるのか?

アストンマーティン・ラゴンダに総額5億ポンド(約715億円)もの巨額を投資するローレンス・ストロール氏は、同社の会長に就任する予定です。
しかし、勝算はあるのでしょうか?

ストロール氏はアパレルブランドのトミー・ヒルフィガーやマイケル・コースへの投資で財を成した人物で、Forbes誌の推計では、彼の資産は26億ドル(約2,816.7億円)もあるそうです。

また、レーシングポイントF1チームを所有している上に、彼の息子であるランス・ストロールは、同チームに所属するドライバーでもあります。

つまりローレンス・ストロール氏は、ファッション分野やF1界にコネクションがある人物なわけですが、それがアストンマーティンの再建に生かせるとは思えません。
F1はブランドビジネスの側面が強く、かつてはベネトンのようなアパレルブランドがチームを所有していましたし、現在のレッドブルも似たようなものでしょう。
しかし市販車ビジネスは、開発力と生産力がものを言います。
電気自動車ブランドとして不動の地位を築いていたテスラが、つい最近まで生産技術の拙さで躓いていたのは有名な話です。

ストロール氏の狙いは「マクラーレン化」か?

ストロール氏がアストンマーティンをワークスチームとしてF1に参戦させようとしているのは、おそらくマクラーレンのような事業ポートフォリオを形成したいと考えているからだと思います。
F1でブランドイメージを向上させ、スーパーカーを売るというサイクルを作り出したいのでしょう。
そうでなければ、金食い虫のF1からは撤退した方が良いからです。
現在のレーシングポイントF1チームを勝てるレベルに引き上げるためには、かなりの追加投資が必要ですしね。

McLaren GT
マクラーレン GT

しかしマクラーレンとアストンマーティンでは、(市販車においてもF1においても)基盤となる技術力に大きな差があるように見受けられます。
よってマクラーレンの成功を模倣するのはかなり難しいでしょう。
個人的にはアストンマーティンへの投資に名乗りを上げていた中国の吉利汽車(Geely, ボルボの筆頭株主で、ロータスの親会社)に売却した方が、将来の展望が開けたと思うのですが……。

ちなみに完全な電気自動車ブランドとして2022年に復活する予定だったラゴンダの立ち上げは、2025年に延期されています。
大きな自動車メーカーの支援がないと、電化戦略の立て直しは厳しいかもしれません。

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出典・参考サイト

アストンマーティン、株価回復へ険しい道のり – jp.wsj.com

Aston Martin CEO counts on first SUV to return brand to profit – europe.autonews.com

Aston Martin gets £500 million investment boost – autoexpress.co.uk

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