SUPER GT 2016 第6戦 鈴鹿1000km決勝後半 疑惑のオーバーテイクを再検証

SUPER GT,モータースポーツ

このコンテンツは鈴鹿1000km 決勝レポート前半の続編となります

しばらくの間レースは淡々と進行していましたが、89周目に#2 シンティアム・アップル・ロータス高橋一穂選手が2コーナーの立ち上がりでスピン。タイヤバリアにクラッシュしたエヴォーラが走行不能になったため、セーフティーカー(以下、SC)が導入されました。

SGT_2016_Rd6_L89_#2 crush


鈴鹿1000km決勝 中盤2

今季からSCラン中はピットレーンクローズドとなるため、SCランの最中にピットインするとペナルティを課せられます。つまり今季のルールだと、SC前にピットを済ませた車が圧倒的に優位です。

なぜならSC前にピットを済ませておけば、ピットでのタイムロス(ピットレーン通過時間+作業時間)を、スロー走行しているSCランの隊列に追いつくだけで取り戻せます。しかしそれ以外の車は、今季のルールではSCランの後にピットインするしかありません。他車がレーシングスピードで走行している最中にピットインすれば、大きな差が生まれるのは当然です。

GT500

GT500はピットタイミングでは無かったため、SC導入で得をしたのは、黄旗区間の追い越しで10秒ストップペナルティを受けた#46 S Road CRAFTSPORT GT-Rだけでした。とはいえ彼らも他のGT500勢と同様、SCラン以前にルーティンピットを1回多くこなせたわけではありません。ペナルティ分が帳消しになっただけです。

93周目にリスタートされた直後のオーダーは、1位#38 ZENT CERUMO RC F、2位#36 au TOM’S RC F、3位#6 WAKO’S 4CR RC F、4位#46、5位#19 WedsSport ADVAN RC Fの順でした。

#19の後ろは100kgものハンデウェイトを積んだ#1 MOTUL AUTECH GT-Rでしたが、#19は雨で冷えた路面温度にヨコハマタイヤが合わなくなったのか、序盤戦ほどの勢いがなく、#1を引き離せません。

3周ほどテールトゥノーズのバトルが続いていましたが、96周目に#19はついに#1の先行を許してしまいます。

その後も#19は走りに精彩を欠き、#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTに追い立てられる始末。一方、#1はさらに上を目指して安定したラップを重ねていきます。

その前方では#6と#46の3位争いが熾烈を極めていました。このとき#46をドライブしていたのは今回突然のスポット参戦となったルーキーの高星明誠選手でしたが、臆することなく130Rでオーバーテイクを仕掛け、3度目のトライでオーバーテイクに成功。表彰台圏内へと順位を戻しました。

SGT_2016_Rd6_L97_#6 vs #46

GT300

SC導入でもっとも得をしたのは、#61 SUBARU BRZ R&D SPORTでした。SC導入前に3回目のピットを済ませていたからです。

GT300はピットタイミングがバラついており、リスタートから各車が3回目のピットを終えるまでに、かなりの時間を要しました。しかし終わってみれば#61がトップに立ち、序盤戦をリードしていた#18 UP GARAGE BANDOH 86や、#18と首位争いをしていた#4 グッドスマイル 初音ミク AMGなどは、いつの間にか後方に下がっていたのです。

SGT_2016_Rd6_L112_#61

スタートのタイヤチョイスに失敗したものの、燃費の良さをいかしてロングスティントを敢行していた#31 TOYOTA PRIUS apr GTや、#61との接触ペナルティで一度は後退した#0 GAINER TANAX GT-Rも、SCで得をした車です。彼らは失ったタイムを取り返し、上位に進出してきています。

また、#25 VivaC 86MCは、もはや代名詞となりつつあるタイヤ無交換作戦を発動。たった25秒で3回目のピットを済ませ、こちらも上位を脅かし始めました。

目次に戻る

鈴鹿1000km決勝 終盤1

GT500 疑惑のオーバーテイク

114周目、#1はついに#6を捉えます。実質4位争いです。

SGT_2016_Rd6_L115_#6 vs #1

しかし#6を抜くには至らず、GT500が4回目のピットタイミングとなったことで、バトルは一旦水入りとなります。

116周終わりに2位#36が、117周終わりに1位#38がピットイン。#38は#36の前でコースに復帰したものの、すでにタイヤの温まった#36はS字で#38をオーバーテイク。昨年、一昨年の鈴鹿1000kmを制した#36が、ついに首位の座を奪ったのです。

SGT_2016_Rd6_L117_#38 vs #36

上位陣のピット作業が終わった時点でのオーダーは、#36-#38-#46-#6-#1。#36がややマージンを広げつつありましたが、ここで3連覇を阻むように雨が降り出してしまいます

雨脚は強まるほどに#36と#38の差が縮まっていき、本降りになった128周目には、両者の差はほとんど無くなっていました。そして129周のスプーンで#36のニック・キャシディ選手が姿勢を乱した隙を突き、#38の立川祐路選手がトップの座を奪還します。

ところがスプーンの出口付近では、グラベルにハマった#17の除去作業中だったのです。これによって#38には、黄旗区間での追い越し疑惑がかけられてしまいます。

疑惑のオーバーテイクを再検証

#38の立川選手が通過した際に、果たして黄旗は出ていたのでしょうか?

スプーンカーブは2つのマーシャルポストが受け持っており、スプーンの入り口と出口で管轄が異なります。今回のオーバーテイクで問題になるのは、スプーンカーブ入り口のマーシャルポストで黄旗が振られていたか否かです

疑惑のオーバーテイク_01
右下が拡大画像。オイル旗が掲示され、黄旗も出ているが……。
疑惑のオーバーテイク_02
黄旗は動かず。振られているのは白旗の方だけだとわかる。
疑惑のオーバーテイク_03
黄旗はまだ動かず。外に出されているだけのようだ。
疑惑のオーバーテイク_04
#38はすでにポスト横を通過している。
疑惑のオーバーテイク_05
ここでようやく黄旗が振られる。

一連の画像からもわかるように、#38の通過時には黄旗は振られておらず、ポスト横を抜けたあたりで振られ始めています。FIAが定める「国際モータースポーツ競技規則(JAFも準拠)」によると、黄旗は1本振動か2本振動で表示されるものであり、ただポストの外にあるだけでは表示されているとは見なされないようです。よって#38をお咎め無しとした競技委員の裁定は正しいと考えられます。

しかし#38を指揮するチームセルモのピットは動揺したのか、1周後のシケインで#36に順位を譲ります。ですが譲られた#36のペースはやはり上がらず、#38はまたもやスプーンで#36をオーバーテイク。またもや首位に返り咲きました。

SGT_2016_Rd6_L132_#36 vs #38

GT300

タイヤ無交換でタイムを稼いだ#25でしたが、走行中にボンネットピンの片側が外れてしまい、早めのピットを余儀なくされました。

SGT_2016_Rd6_L123_#25

とはいえ7秒ほどのロスで戦列に復帰できましたし、ピット戦略上は問題ないレベルです。

#18、#0などの上位陣が次々と4回目のピットを済ませる中、久しぶりにあの給油スタイルを見ることができました。

SGT_2016_Rd6_L138_#33 fuel
ダイナミック給油!

他車に先駆けて#61が5回めのピットを完了しますが、3位で復帰した#61と首位を走る#18との差は14秒しかありません。#18はもう一度ピットに入らなければならないので、#61が圧倒的に有利な状況です。

目次に戻る

鈴鹿1000km 終盤2

GT500 最後の最後で……

#6と#1の争いが再燃します。#1は150周目に最後のピットを済ませた後、アウトラップで#6に抜かれましたが、#1の松田次生選手はそこから20周ほどかけてテールトゥノーズに持ちこみ、最後に勝負を仕掛けたのです。

SGT_2016_Rd6_L169_#6 vs #1_1
SGT_2016_Rd6_L169_#6 vs #1_2
ハンデ100kgとはいったい……うごごご

トップは#38のまま。石浦宏明選手は#36の伊藤大輔選手との差を5秒程度に維持しながら、暗くなり始めた鈴鹿を快走します。

SGT_2016_Rd6_L170_#38

ですが170周目(残り3周)となったところで再び雨脚が強まり、土壇場でリスキーな状況に。石浦選手にとって幸いだったのは、2位の伊藤選手もペースを上げられるような状態ではなかったことでしょう。セクター3でも5秒ほどのマージンがあり、#38の優勝は確実に思えました。

ところが#38が最終シケインでオーバーラン! 大幅なタイムロスを喫してしまいます。

SGT_2016_Rd6_L173_#38

石浦選手はなんとか#38をゴールまで導き、彼にとって4年ぶりのGT500優勝を飾りましたが、最終的に2位#36は1.2秒差にまで迫っていました。もし抜かれていたら……来年のシートが危うかったかもしれません。

波乱はゴール後にも待っていました。大活躍した#1が、チェッカーを受けることなく130R手前で止まってしまったのです。

SGT_2016_Rd6_L173_#1

原因はガス欠と見られています。#1は6位完走扱いとなりましたが、松田選手はさぞかし無念だったでしょう。

GT300

最終ピットもまたもやタイヤ無交換で送り出した#25ですが、トラブルでガレージに入ってしまいます。結局そのままリタイアとなりました。

SGT_2016_Rd6_L160_#25 garage in

今回は5回のピット義務があるため、#18はしなくてもいいピットをする羽目になり、順位を落としてしまいます。彼らは最後の2スティントをショートにせざるを得なかったのです。

一方、SCで得した#0と#31は、#18の前で2位争いを展開していましたが、最終局面で#31が#0をかわし、2位の座をもぎ取りました。

SGT_2016_Rd6_L171_#0 vs #31

結局#61が優勝。井口卓人選手と山内英輝選手のコンビになってから、スバルチームとしては初めての優勝です。

SGT_2016_Rd6_L156_#61SGT_2016_Rd6_L168_#61SGT_2016_Rd6_Finish_#61

目次に戻る

最後まで読んでいただきありがとうございます。よろしければ以下の関連記事もご覧ください。