デイトナ・プロトタイプ・インターナショナル(DPi)とは?
デイトナ24時間レースがいよいよ今週末(1月28〜29日)に開催されます。
今年からレギュレーションが大幅に変更され、新たに「デイトナ・プロトタイプ・インターナショナル(DPi)」が追加されました。
DPiはこれまで使われていたデイトナ・プロトタイプを、LMP2シャシーをベースに、自動車メーカーが独自のボディカウルを被せたものなのですが、詳しい説明は本文の方で行います。
DPiに参入した自動車メーカーは、キャデラック、日産、マツダの3社です。
今回はDPiレギュレーションの概要と、3メーカーのマシンの詳細についてまとめてみました。
更新情報
ACURA ARX-05の項目を追加しました。(2017/08/20)
画像の出典: motorsport.com
デイトナ・プロトタイプ・インターナショナル(DPi)とは?
DPiのベースは、ル・マンやWECに参戦しているLMP2シャシーです。
今季からLMP2は、ACO(フランス西部自動車連盟)とFIA(国際自動車連盟)が認定するシャシー・コンストラクター4社(ダラ、オンローク/リジェ、オレカ、ライリー/マルチマチック)のみが供給可能になったため、DPiもその4社のシャシーの中から選ぶことになります。
DPiとLMP2の違い
まずエンジンが異なります。
LMP2は、英国ギブソン社製V8エンジンのワンメイクですが、DPiは自動車メーカーが自社製のエンジンを搭載可能です。
また、エレクトロニクスに関しても、LMP2はコスワース製エレクトロニクスパッケージ(ECU=エンジン・コントロール・ユニットなど)のワンメイクですが、DPiはレギュレーションの範囲内でオリジナルのものを使用できます。
次に異なるのがボディカウルです。
LMP2は、ACOとFIA認定のコンストラクターが製造したボディカウルをそのまま使わなければなりません。
しかしDPiの場合は、ノーズ、サイドポッド、リアホイールアーチおよびリアヴァランス(リアバンパー下部のこと)のスタイリングを、自由にデザインできます。
ただしこのデザインは「自動車メーカーのブランドを認識させるためのもの」でなければなりません。
また、GTカーと混同するようなスタイリングも禁止されています。
タイヤはドイツ・コンチネンタルタイヤのワンメイク。燃料はアメリカのVPレーシング・フューエルズのエタノール配合E20燃料が用いられます。
DPiとLMP2の性能調整
DPiとLMP2は、最上位クラスとして総合優勝を互いに争うわけですが、エンジンもエアロも異なる車が同じ速さになるわけがありません。
性能調整しなければ、DPiが圧勝してしまうでしょう。
これの疑問に対して主催者のIMSA(イムサ。アメリカのモータスポーツ団体)は、「空気力学的視点からバランスを取るために、DPiもLMP2も風洞試験を受ける」としています。
DPiおよびLMP2各車が空力をセットアップする際には、IMSAが認可したパーツのみが使用可能だそうです。
認可するパーツを調整することで、DPiとLMP2のパフォーマンス・バランスを取るつもりなのでしょう。
デイトナ・プロトタイプ・インターナショナル規格のマシン
キャデラック DPi-V.R
LMP2マシンのダラーラ・P217をベースに、キャデラックが独自の改良を施したマシンです。
フリー・プラクティスの成績を見るに、キャデラックは優勝候補の最右翼です。
空力性能は洗練されており、ラップタイムも十分に速く、それでいて信頼性にも問題がありません。
予選でも見事ポールポジションを獲得しました。
2017年のデイトナ24時間には、3台のキャデラックが投入されます。
主要諸元 | |
---|---|
全長(mm) | 4750 |
全幅(mm) | 1900 |
全高(mm) | 1050 |
車重(kg) | 930 |
排気量(L) | 6.2 |
レイアウト | V型8気筒 |
過給器 | 無し |
ギアボックス | Xtrac(6速) |
ブレーキキャリパー | ブレンボ |
ブレーキディスク/パッド | ブレンボ/ブレンボ |
キャデラックのエントリー車両
なんといっても注目はジェフ・ゴードンでしょう。
NASCARのレジェンドが、スポーツカー耐久に参戦するのですから。
「NASCARドライバーは左にしか曲がれない」などと揶揄されますが、彼は右にも曲がれるタイプのNASCARドライバーなので期待できると思います。
アルバカーキはアウディのワークスドライバー、マイク・コンウェイはトヨタのワークスドライバーと、ゴードン以外も豪華な布陣です。
クリスチャン・フィッティパルディがまだ現役だったことに驚きですが、マシンをバックフリップさせないように頑張ってもらいたいものです。
日産・オンローク
日産は昨年までリジェJS P2・ホンダを使っていた「テキーラ・パトロン ESM」チームにマシンを供給します。
リジェのシャシーを作っているのがオンローク(フランスのコンストラクター)なので、昨年までのパッケージに日産が乗っかったということでしょう。
ベースとなっているのは2017年使用のLMP2マシン「リジェJS P217」です。
このシャシーに搭載されるエンジンは、NISMOがチューニングしたR35GT-Rの「VR38DETT」となります。
ラップタイムは非常に速く、キャデラック勢と互角に戦えそうなのですが、LMP2からコスワース製のエレクトロニクス・パッケージをそのまま引き継いでいるために、トラブルが頻発しているようです。
DPiは「データ(ダッシュボードへの表示やデータ・ロガー)」と「ECU」で、それぞれ別メーカーのエレクトロニクスを選ぶことができます。
日産はコスワースで統一している(つまりLMP2と同じ)なのですが、キャデラックは「データ:コスワース, ECU:ボッシュ」、マツダは「データ:Motec, ECU:Life」というように、日産以外はECUにコスワースを使用していません。
日産・オンロークのマシンは、テキーラ・パトロン・ESMからエントリーする2台のみです。
主要諸元 | |
---|---|
全長(mm) | 4750 |
全幅(mm) | 1900 |
全高(mm) | 1050 |
車重(kg) | 930 |
排気量(L) | 3.8 |
レイアウト | V型6気筒 |
過給器 | ツインターボ |
ギアボックス | ヒューランド(6速) |
ブレーキキャリパー | ブレンボ |
ブレーキディスク/パッド | AP/AP |
日産のエントリー車両
ポルシェのワークスドライバーであるブレンドン・ハートレーが、#2と#22の両方でエントリーしていますが、乗り替えがOKなのか禁止なのかは(ル・マンでは禁止なので多分ダメだと思うが)不明です。
プラクティスでは#22の方にハートレーが搭乗しているので、おそらく決勝も#22に乗ることになると思います。
#2のルイス・フェリペ・"ピポ"・デラーニは、昨年デイトナ24時間とセブリング12時間を制しました。
今年23歳になる彼ですが、「若手」ではなく「大本命」として注目すべき逸材です。
マツダ RT24-P
ライリー/マルチマチック社製のMk30をベースにしたDPiです。
マルチマチックはこれまでもマツダと協力してIMSAに参戦してきたコンストラクターであり、レースオペレーションもスピードソース・レースエンジニアリングのままなので、体制そのものに変更はありません。
RT24-Pはデザインこそ美しいプロトタイプですが、スピードではキャデラックや日産に見劣りします。
直線のスピードは伸びているのでドラッグ(空気抵抗)そのものは少ないと思われますが、そういうマシンは得てしてダウンフォース不足なことが多いです。
エンジンパワーも不足しているのかもしれません。
キャデラックは大排気量NA、日産はツインターボなのに対し、マツダは2.0L・直4のシングルターボ、低速トルクでは確実に不利です。
また、テストではギアボックスの冷却に問題が発生しており、信頼性にも疑問符がつきます。
ただし電子系統のトラブルは全く発生していないため、ギアボックスの問題さえクリアできていれば、決勝では粘りの走りで上位入賞を狙えるかもしれません。
RT24-Pは、マツダワークスのスピードソース・レースエンジニアリングから2台がエントリーしています。
主要諸元 | |
---|---|
全長(mm) | 4750 |
全幅(mm) | 1900 |
全高(mm) | 1050 |
車重(kg) | 930 |
排気量(L) | 2.0 |
レイアウト | 直列4気筒 |
過給器 | シングルターボ |
ギアボックス | Xtrac(6速) |
ブレーキキャリパー | ブレンボ |
ブレーキディスク/パッド | HITCO/HITCO |
マツダのエントリー車両
スペンサー・ピゴットは若手ですが、インディライツでチャンピオンを取り、インディカーにステップアップした実力派です。
2017年も引き続きインディカーに参戦します。
ヒンチクリフはインディカーファンにはお馴染みですね。
しゃべりも上手いしダンスも得意と多芸なドライバーですが、そろそろビッグタイトルが欲しいところですね。
アキュラ ARX-05
これまではLMP2クラスに参戦していたアキュラ(ホンダ)が、DPiに鞍替えします。
参戦パートナーとしてペンスキーとタッグを組み、2018年からエントリーする予定です。
ACURA ARX-05は、オレカ 07をベースに、DPiの規定に合わせて改造されたものです。
エンジンは3.5リッターV6ツインターボのAR35TTを搭載します。
AR35TTは、ホンダのJ35系エンジンをベースに開発されました。
2018年のデイトナ24時間レースでは、あのファン・パブロ・モントーヤがARX-05をドライブします。
モントーヤがホンダエンジン搭載のマシンに乗るのは、実に1999年以来のことです。
99年はモントーヤにとってCART初参戦の年でしたが、チップ・ガナッシ・レーシングのレイナード99i・ホンダを操り、見事シリーズチャンピオンを獲得しています。
来年のデイトナ24時間がスポーツカー・レース初参戦となるモントーヤですが、CARTの時のようにいきなりの大暴れに期待したいですね。
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