48Vマイルドハイブリッドとライトサイジングが今後の主流に
日本ではハイブリッドの追加が話題を呼んだトヨタ・ヴィッツ(欧州名: ヤリス)ですが、欧州仕様車ではガソリンエンジンモデルの排気量を1.5Lにアップする、ライトサイジングが敢行されました。
また、フォルクスワーゲン(VW)が、小排気量ディーゼルエンジンの開発を停止すると宣言し、波紋が広がっています。
ディーゼルに替わる燃費対策としては、48Vのマイルドハイブリッドを採用するそうです。
高価格帯の車種ではEVやPHVが今後増えるでしょうが、それ以外ではコストの観点からして、ライトサイジングや48Vマイルドハイブリッドが主力となりそうです。
今回は今後主流となるであろう2つの技術を解説します。
なぜVWは小排気量ディーゼルを捨てるのか?
排ガス不正事件の影響もありますが、最大の理由はコストです。
ディーゼルエンジンが厳しくなる一方の排ガス規制に対応するには、排ガスのアフタートリートメントシステムがもはや不可欠です。
浮遊粒子状物質を除去するためのDPFはもとより、尿素SCRやNOx吸蔵還元触媒など、高価なシステムを追加しなければ排ガス試験をクリアできません。
しかし低価格帯のモデルでは、上記のアフタートリートメントシステムをペイできません。
販売価格にコストを転嫁すれば、たちまち売れ行き不振に陥ってしまうためです。
VWも今後3〜5年程度は小排気量ディーゼルの販売を続けるそうですが、ディーゼルの需要自体も減っているため、開発が打ち切られてしまいました。
48Vマイルドハイブリッドのメリット・デメリット
長らく小排気量ディーゼル搭載モデルのベンチマークだった「VW・ゴルフ・ブルーモーション」も、次のゴルフ8から「ガソリンエンジン+48Vマイルドハイブリッド」というシステムに変更されます。
また、メルセデス・ベンツも、新型Cクラス(W205)に48Vマイルドハイブリッドを搭載する可能性が高く、2017年は48V化元年になりそうな勢いです。
でも、なぜ「48V」なのでしょう?
48Vであることのメリット
直流電圧は60V以上だと、人体にとって危険だと言われています。
しかし48Vならば安全対策が楽で、コストもかかりません。
また、現在主流の12Vシステムと比較して電圧が高いため、
- 配線の抵抗損失が少なく効率が良い
- 12Vに対し電流量が1/4になるため、太い配線が必要ない(=軽量化)
- 電装品に使われているモーターの小型化や高効率化が可能
などといったメリットがあります。
もちろんモーターアシストの効率とパワーが向上するのも魅力です。
48Vマイルドハイブリッドのデメリット
デメリットとしては、
- ストロングハイブリッドほどのアシストは不可能(=燃費も悪い)
- 普通のガソリンエンジン車よりもコスト高
といったことが挙げられますが、2に関してはディーゼルが高コスト化した結果、相対的に見て48Vマイルドハイブリッドのコストが下がったために、対ディーゼルではデメリットとは言えなくなりました。
1についても、ストロングハイブリッドよりは安価なわけですから、多少燃費が悪くても、リーズナブルな車を求めているユーザーからの需要が見込めます。
外部環境の変化で、48Vマイルドハイブリッドを搭載するメリットは、すでにデメリットを上回っているのです。
ライトサイジングの潮流
ちょっと前まではネコも杓子も「ダウンサイジング」ブームでした。
しかし最近では「ライトサイジング」がトレンドになりつつあります。
トヨタは欧州仕様のヤリスに、1.5L・直列4気筒・自然吸気「2NR-FKE」搭載モデルを新たに追加しました。
元々は1.3Lだったのですが、マイナーチェンジを機に排気量アップしたのです。
VWも、1.4Lから1.5Lに排気量アップした「EA211 TSI evo」エンジンを、マイナーチェンジしたゴルフ7.5に搭載。次期ポロにも採用される予定です。
ダウンサイジングターボのメリット・デメリット
ダウンサイジングターボは小排気量エンジンなので、低負荷時(負荷はスロットル開度とほぼ同義)に低燃費なのが魅力です。
そして高負荷時にはターボでパワーを補うことで、燃費とパワーを両立したエンジンとして持て囃されました。
しかし低回転・高負荷(発進加速のときなど)といった領域では、いかに小型ターボといえども機能しませんから、ダウンサイジングターボのメリットがありません。
そのような領域では、高圧縮比の方が効果的です。
なのでターボの「TSI evo」でも12.5:1という高圧縮エンジンになっています。
ですが、常に高圧縮比で運転しているわけではありません。
上記2つのエンジンには、アトキンソンサイクル(ミラーサイクル)が採用されているからです。
アトキンソンサイクルのメリット・デメリット
アトキンソンサイクルは圧縮比<膨張比とすることで、熱効率を向上させます。
ピストンが膨張行程を終え下死点まで下がったときでも、筒内の圧力や温度は圧縮行程の開始時点より高いのですが、普通のオットーサイクルでは圧縮比=膨張比なので、それ以上エネルギーを取り出せません。
アトキンソンサイクルは膨張比を大きくとることで、オットーサイクルでは活かせなかった熱エネルギーを、運動エネルギーとして取り出すことが可能です。
しかしエンジンの構造上、膨張比だけを大きくするのは難しいため、バルブの早閉じ/遅閉じにより圧縮比<膨張比を実現する「ミラーサイクル」を採用するのが一般的となっています。
なぜかトヨタやホンダは「ミラーサイクル」のことを「アトキンソンサイクル」だと言い張っているので、話がややこしくなるのですが、どちらも考え方(圧縮比<膨張比)は同じです。
可変バルタイとアトキンソンサイクルのコンビネーション
高負荷時には高圧縮比のエンジンで燃費を改善し、低負荷時にはアトキンソンサイクルで熱効率を上げるというのが、最近の低燃費エンジンの方程式です。
しかしエンジンを実際に使用するとなれば、高負荷と低負荷でくっきりと分かれるわけではありません。
さまざまな状況に対応しなければならないのです。
そこで可変バルブタイミング機構が活きてきます。
ミラーサイクルはバルブの早閉じ/遅閉じで実効圧縮比を下げ、膨張比を大きくします。
可変バルタイがあれば、状況に応じて実効圧縮比を適宜調整できるのです。
ですが可変バルタイがあろうと、機械的に設定された圧縮比を越えることはできません。
なので設計上は高圧縮比なエンジンにしておく必要があるわけですね。
なぜ排気量を増やすのか?
また、ミラーサイクルはバルブを早閉じ/遅閉じするために、吸入できる混合気の量が減ってしまいます。
ライトサイジングエンジンが排気量をアップするのは、ミラーサイクルによる出力減少をカバーするためなのです。
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